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シリコンバレーバンク経営破綻について

基本的なリスクマネジメントができていなかったのか?

全米16位の銀行破綻

 シリコンバレーバンクの破綻については、既に報道等でご存じの方も多いとは思う。本稿では、その背景や経緯とともに、先々の影響がどのような形で発生しうるのか、そして、全体としてどの程度の問題なのかというについて論じたい。
 シリコンバレーバンクは、全米16位の規模の地方銀行である。カリフォルニア州とマサチューセッツ州などに店舗を構え、主にスタートアップベンチャー企業を対象とした銀行サービスを提供してきた。創業は1983年ということで、今年でちょうど40周年となっている。
 その名の通り、シリコンバレーのベンチャー界隈では、非常に有名な存在で、スタートアップにとっては、創業と同時に口座開設をするのが当然のような存在であった。
 そのような特色を持つシリコンバレーバンクが経営破綻したということは、スタートアップ界隈に大きな衝撃をもたらした。また、総資産規模28兆円程度ということで、過去2番目に大きな金融機関の破綻となり、アメリカのみならず、全世界的なニュースとなっている。

世界の金融市場への影響度

 破綻が報じられたのが、アメリカ時間の3月10日(金)だったため、時差の関係で週末に入っていた日本では、まだ、広範な市場の反応を見ることができないが、アメリカの株式市場では、当然ネガティブなニュースとして受け止められた。
 NYダウは前日比1.07%下落、ナスダックは1.76%下落、S&P500は1.45%下落と、主要3指数揃っての下落となった。ただ、下落率は、大きなものではなく、通常の相場上下動の範囲内といったところであろう。パニック的な売りが殺到するような状況には至っていない。一部の地銀株では、連想的な思惑による売り物が出て、大幅に下落したということはあってが、市場全体に広がることはなかった。
 結局のところ、シリコンバレーバンクの破綻は、個別金融機関における経営判断の誤りが招いた事態であって、金融システム全体に波及していくような問題ではないという見方が支配的であったからだと推定される。そういった意味では、リーマンショックとは、質的に異なるものであると考えられている。リーマンショックの場合は、世界の金融システムに影響が及んで、金融恐慌を招きかねないとの懸念があったが、今回のシリコンバレーバンク破綻については、現時点においては、そこまでの広がりはないと見られている。

債券市場の反応

 アメリカ国債の利回りは、シリコンバレーバンク破綻の影響に加えて、朝方発表された雇用統計の影響もあったのか、全般的に低下している。FRBの引き締め姿勢がやや緩和されるのではないかという予想が多くなってきた。3月のFOMCで、従来は0.5%の利上げを見込む市場参加者が多数派だったが、3月10日時点では、0.25%の利上げにとどめるとの見方が広がっている。FRBとしても、今後の経済への影響の見極めも意識されるところで、非常に難しい判断を迫られることになるであろう。

これ以上の混乱を回避するために期待されること

 金融システムへの信頼性を確保するという観点においては、シリコンバレーバンクの事業、資産の譲渡を、早期に決めることが最優先となる。シリコンバレーバンクの破綻は、あくまでも個別金融機関固有の問題であるということを示す上でも、資産売却を早期に決めて、顧客資産の凍結が解除できるように努めていくものと考えられる。
 このまま、週明けまでに預金などの資産譲渡が決まらないと、預金者は、25万ドルの預金保険の上限額を超えた部分については、預金証書を受け取ることになり、自由には移動できなくなる可能性が高まる。最悪の場合、預金者であるスタートアップ企業の一部が、支払い不能に陥るリスクも指摘される。
報道されているFDIC関係者のコメントを見る限り、そうした事態を避けるために、事業売却を急ぐとのことであり、実際にどれだけの預金額が移動可能となるのかというのは、その進行度次第となるだろう。当局としても、預金者が支払い不能に陥るなどの深刻な影響を受けないように努めている模様で、銀行の破綻をきっかけとした、大規模かつ連鎖的な企業破綻が広がることは、回避できるものと見られる。
 なお、具体的な支払い方法や金額については、確定していないものと見られるが、一部報道によれば、13日にも保険保護対象外の預金についても、50%以上を支払うことができるような処理方法を検討しているとされている。仮にそれが実現できるのであれば、これ以上の深刻化は、避けられるであろう。

シリコンバレーバンクの概要と破綻の原因

 各種報道でも断片的には伝えられているが、ここで、シリコンバレーバンクの概要についてまとめておきたい。
 前述の通り、シリコンバレーバンクは、全米16位の銀行であり、2022年末時点の総資産規模は、2090億ドルであった。本店は、カリフォルニア州サンタクララに置かれており、国内の支店数は16、海外にも1支店が存在している。店舗数は少ないが、その取引先の多くは、スタートアップベンチャー企業であり、一般消費者向けの銀行ではなく、法人取引に特化している。
 スタートアップ界隈におけるシリコンバレーバンクの存在感は大きく、いわゆるエコシステムに組み込まれた存在となっている。アメリカ国内のテクノロジー系とライフサイエンスベンチャー企業のおよそ半分が顧客先であると考えられており、実際、2022年にアメリカでIPOを果たした企業の44%が顧客先であった。
 シリコンバレーバンクは、テクノロジー系とライフサイエンス系のスタートアップベンチャーに焦点を絞ることで、顧客層の成長とともに急成長を遂げてきた。
 コロナ禍前の2019年末時点の預金額は、550億ドルであったが、わずか3年後の2022年末時点では、1,860億ドルまで急増している。
 コロナ禍においては、むしろ当行の顧客先スタートアップは、高い成長性を評価され、VCなどからの出資も集まり、IPOを経て、さらに成長を加速するという好循環が見られた。
 シリコンバレーバンクは、顧客先の資金調達によって預金を獲得し、貸出や債券運用で利ザヤを確保するということで、収益、利益を確保してきた。預金については、大口の顧客多く、今回の破綻においても、預金保険保護の対象外のものが9割近くを占めているとされる。
 問題は、資金運用面にあったものと考えられる。開示資料を見る限り、貸出については、不良債権比率も低く抑えられており、特段の問題があったようには見えないが、債券運用については、疑問がある。
 債券運用のリスク管理については、デフォルトリスクに加えて、金利変動リスクの管理が重要である。金利が上昇すれば債券価格は下落し、金利が下落すれば債券価格は上昇する。2022年3月から始まった、アメリカの金融引き締めは、当然のことながら、金利を上昇させていった。つまり、債券価格が下落していったということだ。

 この金利変動に伴う債券価格の変動を許容範囲に収めるには、債券の残存期間の管理が重要になる。実は、シリコンバレーバンクの開示情報を見ると、この残存期間が、長すぎたのではないかという疑問が生じる。
表のように、平均残存期間は、売買目的で保有する債券については、2021年末時点に3.5年だったものが、2022年末時点には3.6年とわずかながら伸びている。
 一方、満期保有目的の債券の平均残存期間は、2021年末に4.1年だったものが、2022年末には6.2年へと大幅に伸びている。
 これは、金利上昇局面におけるポートフォリオ管理としては、適切ではなかった可能性が指摘される。金利上昇が予想されるときは、平均残存期間を短くするように努めるのが常識である。ここで、なぜ、わざわざ長くなるような管理をしたのかという点については、非常に大きな疑問がある。
 結果的には、シリコンバレーバンクの債券ポートフォリオは、大きな実減損を記録し、さらには巨額の含み損が発生したものと推定される。破綻時には、債務超過状態であったとされるが、その原因は、債券投資の失敗だと推定される。
 なぜ、このような失敗を招いたのかという点に関しては、厳密な調査が必要だろうが、公表資料を見る限り、かなり初歩的なミスのように見える。

他の金融機関に連鎖する可能性

 結論としては、現時点において、他の金融機関が連鎖的に破綻する可能性は、低いものと考えている。もちろん、連鎖する可能性を、完全に否定はできないのも事実だが、シリコンバレーバンクの破綻は、やはり個別金融機関のポートフォリオリスク管理の失敗だったというのが、私の見方である。
 もし他の金融機関に波及するとすれば、ポートフォリオのリスク管理に同様の問題を抱えている場合になるだろう。むしろ、そういった可能性の方が現実的なリスクだと考えている。貸出の不良債権化もあるが、債券運用が金利上昇による影響でダメージを受けているというケースは、現実的に存在していると推察される。
ただ、破綻するほどのリスクなのかという点については、どの程度のダメージなのかということにもよるだろう。今回のシリコンバレーバンクの破綻を受けて、金融当局の厳しいチェックが入っていくものと考えられるため、もし問題があるケースが発覚すれば、早期に対応することになると考えられる。破綻させるのか、破綻前に事業譲渡等で対応するのかという点に関しては、ケースバイケースとなるだろう。

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