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No.26 権田俊一氏 〜半導体薄膜技術の全容をまとめる〜

 1980年代の薄膜技術の全容をハンドブックにまとめ上げたのが、権田俊一先生です。その後も圧巻の1500ページを2冊、仕上げてくださった先生とNTSとの出会いは、NTS吉田社長の前職にまで遡り、四十余年あまりのご支援をいただいています。
 権田先生は三人兄弟の末っ子として、東京本郷の根津でお生まれになられ、上野湯島天神の境内で遊びながら育ちました。大阪大学の教授になり、2000年に大阪大学を退官しました。今日は、今のお住いの宝塚からインタビュー取材に応じてNTSを訪ねてくださいました。このあと、東大へ出向いて、研究会に参加するというのです。先生はどのような方なのでしょうか。

ーーどのような幼少期でしたか?

 「父親が日本車両という鉄道車両メーカーに勤めていたので、家には国鉄や地下鉄の車両の設計図がたくさんありました。物心つく頃には、その図をもとに模型の図面を作り、その図面を片手に、神保町から秋葉原にかけて電気商、露天商を巡って部品を集め、鉄道模型を作ったものです。板橋第3中学校では、NHKの学校放送を日本で初めて授業に取り入れたので、放送を授業として聞いたあと、同級生の前で内容の解説をしていました。当時の放送内容は生徒会の話もあり、生徒会長をしていたので、当時港区愛宕山にあったNHKに出向いて放送番組にも出演したことがあります。運動では機械体操をやっていました。」
 「何にでも手を出すのが好きで、機械体操も模範演技を皆の前でやってみせたり、卒業式では生徒会長としての挨拶を終わってから、自作の落語を披露して先生や父兄、仲間に聞いてもらったものです。」

 

ーー科学への目覚めはいつ頃でしょう?

 「機械や鉱石ラジオつくりなどに興味もあり、電気工作が身近だったので、早稲田の理工学部に進学したのですが、交流のあった助教授の先生がコーラスが好きで、先生と一緒にコーラスをやっていました。この先生が半導体の研究者だったので、半導体をやることになりました。夏休みには工場実習があるのですが、東芝マツダ研究所に行き、半導体の理論を教えてもらいました。卒業論文もこの助教授先生のもとで半導体理論をやり、大学院修士課程へ進んでからは、当時通産省電気試験所(のちの電子技術総合研究所)に行って、有名な理論家のもとで、理論の論文を仕上げました。この論文はアメリカの物理学会誌に投稿し、掲載されました。」
 「卒業後は公務員試験を受けて当時の通産省の研究所に入所。そこで光情報処理プロジェクトに参加して、レーザー光技術を研究し、このとき始めた分子線エピタキシーの研究が薄膜技術と深いかかわりを持つきっかけになりました。」

 

ーーとても幅広い、興味や経験を続けてこられたのですね

 「何にでも夢中になるのが性なんでしょうね。NTSがまだなかった頃に吉田社長と出会いました。その後NTSが起業して、薄膜ハンドブックを手掛けたいという熱意にほだされて監修をし、優秀な協力者の助けを借りて、最初のハンドブックができました。三冊目は編集委員に有名な大学教授を選んだので、忙しくてなかなか査読の時間をとってもらえず、自分で査読する原稿が多くなりました。とにかく原稿枚数が半端なく多くて、丸1年以上もの期間を掛けて、完成させたものです。」
 「大阪大学を退官してからは、旅行記に凝りまして10冊以上も自費出版でまとめてきました。最初はISBNの番号をつけて出版社から出したかったので、NTSに出版を頼んだのが5〜6冊あったでしょうか。」

 

ーー後進や未来の学者に何を期待しますか

 「流行や研究費の多さなどにとらわれずに、自分らしい独自の研究を目指してほしいですね。今の政府や研究資金の配分にあたる委員会などは、芽が出ていてお金を出せば、いい成果が期待できそうなところばかりに研究費を出しています。このためほんとうに新しい発想の将来の芽になりそうな研究には、資金がいっていません。少なくてもいいから、多くの研究者、特に地方の独自の研究をやっている研究者に研究費を配分すべきです。一見無駄に見える投資こそオリジナルな研究が芽生えるきっかけになるのです。研究者にたいする待遇のひどさも問題です。優秀な研究者を厚遇しないから、日本の科学技術は衰退を重ねています。真の科学技術立国を進めなければ、資源のない日本は衰退するばかりです。」
 「大学の先生方はとても努力されていますが、大学の雑用や研究費の獲得のための資料つくりや、報告書つくりなど、研究以外の仕事に忙殺されて才能を生かせていません。研究教育に有効なシステムつくりを一からやり直すべきです。」

 

趣味が高じてのたくさんの自費出版本

 権田先生は学生時代、山岳部にも所属され多くの山に登り、今は山登りをいろいろな角度から見直しているそうです。歴史的な伝承と山を結びつけると、伝説の”ヤマトタケル“も違った目で眺められますし、地理学、地質学的な観点から山々を見ると山の魅力が倍増するそうです。踏破された山々と日本古来の歴史との関連を調べ、次の著作に備えていらっしゃるとか。
 今日はいろいろ興味深いお話を伺えて、たくさんの収穫がありました。

略歴:
2011~2022年 大阪大学産業科学研究所・招聘教授
2009年 大阪工業大学・特任教授
2000年 福井工業大学・教授、(株)浜松ホトニクス・技術顧問
1998年 大阪大学産業科学研究所・所長
1984年 大阪大学産業科学研究所・教授
1962年 旧通商産業省電気試験所(のちの電子技術総合研究所)入所
     研究室長を歴任
1962年 早稲田大学大学院電気物理専修修士課程:修了

<取材日:2023/04/13>

NTS主な著作:NTS書籍情報にリンクします
2020年3月 2020版 薄膜作製応用ハンドブック 監修
2003年4月 21世紀版薄膜作製応用ハンドブック 監修
1995年11月 薄膜作製応用ハンドブック 監修
 
以下はNTSからの自費出版物
2021年5月 三田の山と道
2019年1月 宝塚の山と道
2018年2月 九州・山陽新幹線 沿線の山旅
2016年10月 北海道・東北新幹線 沿線の山旅
2015年9月 北陸新幹線 沿線の山旅

#半導体 #薄膜技術 #分子線エピタキシー