No.18 古川英光氏 〜やわらかゲルの3Dプリンター調理法〜
ド・ジャン博士(1991年ノーベル物理学賞受賞者)が提唱して誕生した「ソフトマター」に興味を抱いて物理学の新分野に進まれたのが山形大学の古川先生です。東京工業大学大学院で土日昼夜を問わず通った研究室で異色の先輩たちに囲まれ、異分野の知見や情報に触れるうちに、遅く芽生えたサイエンス・マインドだったと、とても穏やかでしかも本当に優しい癒やされるような声で語っていただきました。
――ご研究にあたっての先生の信条は何ですか
「私は同世代の男の子同様にマイコンとゲルマニウムラジオ作りに没頭していた時期がありました。機械は好きでしたが、現在の研究テーマも自らで進んで選択したのではなく、大学院で初めて聞いたソフトマターに興味を持ち、指導教授のすすめで選んだのです。しばらくして、まさに親や年寄が言うように石の上にも3年が経って、発見の感動や研究の面白さが、じわじわと生まれてきたのです。何となく続けていたら、興味が付いてきたという感じでしょうか。研究にあたっても焦らず、失敗を恐れないで、とにかく続けることが発見や成果に繋がると思いますね。」
「私は大学院ではパソコンで測定装置を動かすプログラムソフトを開発していました。当時は2枚のフロッピーを使うPCだったので、プログラムの読み込みやコンパイルにとても時間がかかり、操作しながら居眠りするほどでしたが、学生時代には無限の時間がありましたから、ひたすら計測システムの開発、しかもウルトラ何とかって命名して明け暮れていたのです。そんな結果の計測マシンを指導の先生方がすごく褒めてくださったので、俄然やる気が生まれたのを覚えています。学生指導でも、努力のプロセスを褒めることが大事なのだと気にかけています。」
――3Dプリンターのさきがけ研究をされていたとか
「たくさんの機種を開発して超高額のものから、お手頃価格のものまで商用化しようとしたのですが、様々な企業さんにも興味を持っていただいているものの、なかなか売れなかったですね。本当は食品分野への応用を通して、一家に一台という調理器具になれる可能性があるのです。保存性に優れ、栄養バランスや味、風味、調理の楽しさや時間短縮などのたくさんの可能性を秘めていると思います。」
「宇宙ステーションにお寿司を届けたい、と思っているのです。日本にはカップラーメンやカニカマのような世界に誇れるヒット商品がありますよね。電送によって日本の寿司を宇宙飛行士に届けられるのではと考えているのです。まだまだキラーコンテンツを生み出せる能力が日本にはあると信じたいですね。」
ご趣味がプレゼンテーションと話される古川先生、ところが研究生評判では口調やお声の様子が「まるで漫談のようです」とこちらも和やかな評価を頂いているようです。笑い声と信頼感があふれる研究室ですね。