No.7 服部敏雄氏〜フレッティング対策技術〜
服部先生は昭和23年生まれの74歳、愛知県愛西市で6人兄弟の末っ子として育ちました。4人の姉たちに着せ替え人形のように可愛がられたそうです。父上はお寺の住職と高等学校教師を兼務していて、当時の村では新しもの好き、人気のお坊様だったそうです。そのため家の中には常に新しい製品が溢れており、当時でもとても高価だった一眼レフカメラ、8ミリカメラ、テープレコーダー、バイク、自動車などに小さい頃から触れることができたそうです。お姉さま方に「遊ばれる」中で、お父様から貰ったブリキの自動車おもちゃで分解・解体意欲が芽生え、あちこちで拾ってきた機械を壊したり、部品の取り出しに萌えた子ども時代だったそうです。
将来は設計事務所を持つ建築家になるか、それとも好きな機械を学ぶかで大いに悩み、東京工業大学へ進学されました。
――いろいろな記事や原稿で「みずみずしい感性」の大切さを書かれていますが、ご真意は何でしょうか
「大学時代で私は機械を学びましたが、当時はまだまだ圧倒的にハード重視でしたから、旋盤やボール盤の操作は得意でした。卒業後に日立製作所では研究技術を学び、それを活かし、様々な製品化に務めました。退職後に岐阜大学、静岡理工科大学で学生指導を行いましたが、学生を取り巻く環境は、ITに頼り過ぎていて、技術の本質を見失っているのではないかと懸念しています。今年の岐阜には大雪が降りましたが、さて「車のスノータイヤの交換をするか」というと、学生らは「先生、それはショップに任せた方が良いですよ」としきりに言うのです。ハード技術衰退の実情です。タイヤ交換はジャッキで車体を持ち上げて行うことは誰でも知っているでしょうが、随分とコツが必要なのです。タイヤを上げすぎてしまうと、ボルトを緩める際にタイヤごと回ってしまって外せません。さりとて、あまりに接地をしすぎると、ボルトに負荷がかかって緩めることすらできなくなります。これも経験があって初めて気づくことです。頭で分かっていても、経験が何より大切なのです。研究者には理論より体験を重視して欲しいから。技術をブラックボックスのままにしておいてはいけないと思うのです。」
――今回のご著書では、壊れる技術ということを主張されていますがどのようなことでしょうか
「スノータイヤ例でお話したように、タイヤや列車車輪交換技術での経験不足が、脱落事故につながる事件があとを経ちません。これなども社会全体が行き過ぎたIT化の結果から、人々のハード技術や知識の低下が露見した結果ではないでしょうか。掛け算の九九をまだ習わない小学生に電卓を与えるのは良くないことと知りながら、同類のIT道具を若い学生、技術者に無制限に与えられて、どんどん怠け癖がついているのではないかと案じています。技術よりも人間性、失敗経験や事故の体験を通して学ぶ、人間回帰が大事だと考えています。教科書のような正攻法だけでなく、一見して様々な知識や経験というものにムダはなく、人間としての厚みをもたらすと思うのです。その意味でも、技術を学ぶには『大きな失敗、素朴な疑問、若々しい感性に頼ること』が大事ではないでしょうか。」
――若い後進へのメッセージ
「若い方々には研究の合間に、とにかく旅をすること、できれば海外へ行ってそこから日本を眺めてほしいと願っています。技術や理論を学ぶには、何よりも経験と失敗がたくさんの示唆を与えてくれるものです。」
これは先生が雑誌の巻頭言や提言で添えられているメッセージです。
Make Fresh Engineer’s Dream Success with Substantial Training! Chin up! Cheer up! & Go abroad!
<実質的な訓練があってこそ、技術の夢は成功する>、<上を向き、元気を出して海外へ挑戦せよ>、とでも意図されているのでしょうか。「技術をブラックボックスのままに使わないで欲しい」というご経験からの提言と感じました。
略歴:
1976年 東京工業大学大学院理工学研究科博士課程修了、博士(工学)取得
同年 日立製作所に入社、機械研究所に配属。
発電機、蒸気タービンなどの重電機器、超電導リニアモータカー
などの新製品の設計開発に携わる。
1984年 日本機械学会奨励賞
1985年 日本機械学会論文賞受賞
2004年 岐阜大学工学部 教授
2006年 日本材料学会 破壊力学部門委員会委員長
日本機械学会材料力学部門業績賞受賞
2009年 日本機械学会 機械材料・材料加工部門 部門長
2011年 ターボ機械協会 蒸気タービン分科会主査
日本機械学会 機械材料・材料加工部門 功績賞受賞
2012年 日本機械学会代表会員
上記 力学カンファレンス M&M2013岐阜大会 実行委員長
2014年 静岡理工科大学理工学部 特任教授 岐阜大学名誉教授
<Zoom取材2022/01/13>
主な書籍: