デザイン思考、アート思考・・・SF思考 ~生みの苦しみ?楽しみ⁇~
出版不況と言われて久しい昨今、多くの方に喜んで頂ける所謂売れる本を上梓するためにはやはり良い企画であることが必須です。
良い企画を生み出すために我々企画スタッフは日々悪戦苦闘する訳ですが、闇雲にあれこれ考えても簡単に良いアイデアが降りてくることはありません。
新しいアイデアを生み出す上で考え方の枠組みやツールのようなものがあれば便利です。先人の頭の良い人たちが編み出したKJ法、ブレーンストーミング、マインドマップ・・・etc.の手法を使う事は大変役立ちます。これ等発想法の数々はネットで調べても大量に検索できますし、多くの参考書も書店で手に入ります。また、これ等はグループで行うとより効果的です。会社や諸々の活動での企画立案等で活用することで思わぬブレークスルーが期待できるかも知れません。
今回は新規のアイデアを一人で企画立案するような状況において大変役立つ思考法を筆者の理解と活用の範囲で紹介します。「デザイン思考」「アート思考」、さらに最近話題になっている「SF思考」です。
デザイン思考
デザイナーが作品を創造する際に用いる思考法です。デザイナーの仕事とは、まず顧客であるクライアントのニーズを正確に理解することから始まります。顧客の「ああして欲しい」「こうして欲しい」というニーズを正しく汲み取り、それを形に表現する作業です。顧客のニーズ中心という意味ではバッハなどの職業音楽家・昔の侍(サムライ)、現在ではSEや弁護士・会計士等の士業(サムライギョウ)の仕事と似ているかも知れません。
我々出版業においても顧客(読者)が何を求めているのか、読者のニーズに応えることがヒットへの近道です。では読者のニーズはどうすれば正しく知ることが出来るのでしょうか?この答えは一筋縄には行きません。著者やターゲットユーザと思われる方々に意見を聞いたり、アンケート調査をしてみたりするのは勿論有効です。特に著者との綿密な打ち合わせは必須です。しかし、意見を求めた特定のユーザの意見が多くのユーザの意見を代表していると言えるのか?また調査結果に本音が表れているのか?等非常に疑問です。真のユーザニーズ(インサイト)はユーザ自身も良く分からないという現実もあります。
ではどうするか?
私は、‟読者の立場、状況を徹底的に想像する“という泥臭い方法が有効だと思っています。徹底的・俯瞰的にというところはポイントです。始めのうちはユーザの立場などぼんやりしていますが、深く考えるに従い色々なシチュエーションが鮮明化し、想像の中でユーザのニーズが何となく浮かび上がってきます。これは訓練で誰でもある程度できるようになります。
‟創造は想像から“・・・誰にでも出来る簡便な方法ですが経験的にお勧めです。
アート思考
デザイン思考がユーザニーズをベースとしているのに対し、アート思考は芸術家個人の想い、創造したい世界観をベースとした思考法です。あくまで内部から湧き出る想い、こうありたい、またこうあるべきだといった妄想をベースとしていると言えるかも知れません。
ユーザニーズに拘り過ぎるとユーザのインサイトに基づいた画期的な商品は出来にくいという弊害があります。スマホが発売された半年ほど後に日本の携帯電話会社が行った市場調査によると、次に欲しい携帯電話はという問いに対し、90%以上の人はカパカパのガラケーと回答しています。
ロボット掃除機や新しいSNSサービスなど然り、今まで無かった製品やサービスの類はアート思考が向いていそうです。「~はこうあるべきだ」とある種決めつけて妄想し、それを実現するためにはこういった製品・サービスが役に立つという順で開発を進めます。
この妄想をベースとしたアート思考は、子供の頃から妄想好きだった私個人的に大変好きな思考方法です。何時でも何処でも楽しく出来るという利点もあります。
SF思考
SF(Science Fiction)を使った思考法です。未来を見据えた製品・サービス開発に有効です。考え方の基本はアート思考であると思われます。未来のこうありたい、こうあるべきだという世界を妄想し、実際にSF小説を仕上げるという所が特徴的です。具体的なSF小説を仕上げる事で、未来の生活・衣食住・仕事・遊び・コミュニケーション・そこで使うガジェット・乗り物等リアルに体感可能です。実際の商品開発にも多大なインスピレーションが得られます。
ビル・ゲイツ、イーロン・マスク、オバマ前大統領などSF好きを公言しているエグゼクティブは数多くいますが、SFから現実の商品開発・政策立案に多くのインスピレーションを得ているのかも知れません。
以上、3つの思考法を簡単に紹介しましたが、一人で諸々考えるにあたり、最も基本になるのが‟一人ブレーンストーミング“だと思っています。あれこれ考えていると別人格の自分が登場して反対意見をだしてきたり、更に第三者が登場してきて違う角度から意見したりと賑やかです。・・若干病気でしょうか?(-_-;)
一人ブレーンストーミングを行いながらデザイン思考、アート思考、SF思考等の枠組みを脳内の分人を使って議論し、新しいアイデアをクリエイトするという、企画とは何とも楽しい仕事です。
<2023.1.18>