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バイオミメティクスからエコミメティクスへ ~人類は生態系を模倣する⁈~
太古の昔から、人類は植物や動物などの生きものを生活の中で利用してきました。また、生き物の優れた特性や機能を学び、採用しようと努めてもきました。
レオナルド・ダ・ヴィンチが鳥を徹底的に観察し、羽を解剖して飛翔のメカニズムを研究した話は有名です。ダビンチはこの研究からヘリコプターの基になるアイデアを思いついたと言われています。
近年、生物の優れた機能・仕組みを工業製品に応用するバイオミメティクス(生物模倣)が注目され、さまざまな関連製品が市場に登場しています。例えば、
・ハスの葉の表面構造を真似た超撥水材料
・モルフォ蝶の美しい翅の発色機構を真似た構造性発色繊維
・カワセミの嘴の形状真似た空気抵抗の少ない新幹線の構造
・ヤモリの足裏の構造を真似た吸着性能の高い接着剤
・オジギソウが葉を畳む原理を利用した高分子アクチュエーター
・ゴボウのくっつく実の仕組みを真似た面ファスナー・・・等々。
さらに近年では、地球環境への関心が高まり、バイオミメティクスの考え方を拡張して生態系のメカニズムを製品や人間の活動に適用しようとする研究も注目されています。
自然への観点を強めたという意味から‟バイオミミクリー“と言われたり、エコロジーを真似るという意味から‟エコミメティクス”と呼ばれたりします。
エコミメティクスは、個々の動植物の構造や機能だけでなく、集団や全体の活動に焦点を当てています。狭義には渡り鳥やイワシの群れがぶつからない仕組みを交通システムに応用したり、蟻塚内の温度・湿度を一定に保つ構造を省エネ建築の参考にしたりします。
広義には森や山、湿地帯や海洋といった広範な動植物の相互作用に基づく生態系の原理を持ち込んで、サスティナブルな人間社会を構築しようとします。
では生態系の原理を人間社会にいかに実装すれば良いのでしょうか?その答えは容易ではありません。30年ほど前に行われたバイオスフィア2という大変興味深い実験が、私たちに多くの洞察を提供しています。
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バイオスフィア2
それは1991年から2年間、アメリカのアリゾナに建設された巨大な構造物で行われた実験です。その目的は、地球外惑星での人類の生存可能性を検証することでした。バイオスフィア(生物圏)2とは、本来の生物圏である地球(バイオスフェア1)に次ぐ位置づけから命名されました。
世界中から集められた動植物によって人工の熱帯雨林、サバンナ、湿地帯や海洋などが再現されました。その閉鎖空間内に成人男女8名が集められ、実際に生活して人類の将来について確かめる試みです。如何にもアメリカらしい野心的な(トンデモな?)プロジェクトでした。
しかし、実験が始まると、食料や酸素不足などの予期せぬトラブルが次々と発生します。当初の計画では繰り返し100年かけて実験する予定でしたが、結局2年でプロジェクトは中止されました。
人工的に環境を再現する事の難しさに加え、実験要員の精神面の不調や人間関係の軋轢が非常に大きかったとも言われています。
これは、生態系にはまだまだ解明されていない謎が多く残っていることを示唆しています。バイオスフェア2の実験は成功したとは言えませんでしたが、我々に多くの教訓をもたらしました。
生態系のバランスを考えるにあたり、近年ウイルスも含めた微生物の役割が非常に重要であることが解明されつつあります。土壌、河川、海洋や空気中には多種多量の微生物が存在しています。しかもそれらは、相互に影響しあいながらコミュニケーションを図り、全体の調和を保っています。
これらウイルスや微生物を含めた生態系の解明はまだまだ始まったばかりですが、将来的に重要な発見が期待されます。
異常に暑かった今夏を振り返ると、地球沸騰は一層酷くなっていると感じます。このまま進むと将来地球は人が住めない星になっていると感じることすらあります。
しかし人類は生態系メカニズムを含めた自然環境について着々と知見を増しています。これ等新たに獲得される新しい知識は、今後の我々の在り方に大いに影響を与えるはずです。
科学の進歩、特にエコミメティクスによって人類は地球の危機を克服できる。と私は思います。
<2023.10. 7>
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(概要)微生物資源の整備と利活用の戦略 (nts-book.co.jp)
(概要)バイオミメティックスハンドブック (nts-book.co.jp)