No.15 三宅晋司氏〜ひとの癒やし研究家〜
日本の労働人口減少をさらに追い込んでいるのが、働く人の心の問題と両親の介護です。現役世代では1年間に多くの働き手が職場離脱を余儀なくされている実態を知る機会は少ないのですが、私たちは知らず知らずに多くのストレスに囲まれて生きているのです。
そこに光明があったのが癒やし研究家としての三宅先生。北海道にお住まいの緑と光に溢れた書斎からのインタビューです。
――物理学科を卒業されてから心理生理学への転身はどのような経緯なのですか?
「大学院環境科学研究科で指導教授から騒音の脳波による評価の研究テーマを指示されました。快適さと不快な音の違いがどの様に脳波に現れるか。つまりあいまいさのエントロピーを視覚化するというアルゴリズムの研究から、人の心と体の研究に至ることになったのです。」
「学部時代は,ラインプリンタという文字のみを印字するプリンタを用いて,どのようなプログラムを組むことでデータの可視化ができるのか、随分と苦労した思い出があります。」
――最近数年間は当社でのご出版が連続しています。どのようなご研究成果をお示しになっているのでしょうか?
「Q&Aブックはとても時間を掛けて著しました。大学を退官してから、十分な時間が取れたからですが、ひとを対象とした実験を行う学生や研究者の皆さんへの参考になるように詳細な実験マニュアルとなるように心掛けました。その前の著書も人が感じるストレスや快適さをどのように測定するか、脳波や血圧、交感神経と副交感神経などの生体信号をどの様に把握すればよいのか。そしてどの様に対処すれば良いかを探るための基礎資料となるよう配慮しました。」
「ストレスには、ネガティブな印象が強いのですが、ポジティブなストレスもあるのです。また,例えば職場の人間関係や仕事に関するストレスでは、その原因は特定できても排除することができません。するとひとは心の疲労回復や癒やしを求めますよね.空腹や喉の乾きを癒やすのとは違って、どうすれば心や気持ちをリラックスさせることができるのか、どのような事が大切なのか、まだまだ未知の領域が多いのです。」
――先生の書斎には緑が多く、ワーケーション研究もされていらっしゃるそうですね
「産業医科大学では快適性研究の成果として、1/fゆらぎ風というエアコンの実験を拡張させて、温度のゆらぎを実現できるエアコンの製品化を企業と共に行いました。部屋の環境の質を高めるには、温度や風のゆらぎが有効だという実証が成果となりました。」
「北海道に戻ってから、改めて緑の効果、インドアでの森林浴になる観葉植物のグリーンがストレスに効果があることを実感しています。自然の効果は知り尽くせないものですが、ワークバランスを考える上でバケーションの大切さを実証しています。私の住まいの隣に貸別荘があるのでそこを利用して、公立千歳科学技術大学の皆さんと近くの温泉を楽しんだりしながら、一緒に研究という、まさにワーケーションの実証実験を行っている最中なのです。」
現代人は様々なストレスとの戦いで疲れ果てています。気分転換に街に出て談笑や飲酒を禁じられたコロナ禍が確実に社会を変容させてしまいました。街なかでキレる若者や老人、悲惨な戦争勃発と、人の心も社会もギスギスと音を立てているようです。三宅先生から送られた北海道の四季を収めた写真を観ながら、せっかくブームになったリモートワークがまた元に戻りつつある風潮に切なさを感じました。癒やし研究家三宅先生の次の研究成果を渇望したいものです。