町田樹の哲学と人生

2014年冬、ソチオリンピック。私は出会ってしまった。町田樹という、スケーターに。

基本的にスポーツ観戦が嫌いでオリンピックもほとんど見ない私だったけれど、たまたま見たフィギュアスケートのエキシビジョンに衝撃を受け、一瞬にして好きになったのだ。

無理好き。もさい眼鏡男子が一気に華々しい姿に変身するギャップに倒れたし、アーガイル好き(癖)だし、何より彼の滑る、演じる姿がとても美しかった。氷上にはスケーター町田樹ではなく、ロックスターに憧れる青年がいた。

そこでフィギュアスケートにどっぷりつかるかと思いきや、その直後町田樹は引退してしまった。泣いた。フィギュアスケートにはまることなく、その後「ユーリオンアイス」というフィギュアスケートアニメにはまることになるのはまた別の話。

そんな町田樹が、いよいよスケートリンクからも去るという。これは!見に行かねば!ということで、2018年10月6日、さいたまスーパーアリーナにて行われた「カーニバルオンアイス」を観てきました。人生初のスケート観戦、人生最初で最後の、町田樹。

防寒として、ニット、ストール。念のため持っていったコートは使わなかった。普段アイドルをのぞいているオペラグラスは、大変役にたった。

生まれて初めてのスケート観戦はただただ「最高」としか言いようがなかった。氷の削れる音、氷につくライン、オペラグラス越しに見るスケーターのリアルな表情、スピンやジャンプの着氷のリアル感、鳥肌が立つ、自然と歓声が出る。

ジェイソンブラウンさんの真のエンターテイナー感とか、村上佳菜子ちゃんの愛らしい笑顔とか、ランビ&デニス子弟ペア最高of最高とか、織田くん~!とかネイサンチェンかっこいい!とか、宇野くんマジ天使~!とか、ザギトワちゃん圧倒的強い~!(おろしていた髪を一つくくりにして、ジャケット脱いだ瞬間叫んだよ)とか、いっぱいいっぱい感想はあるのですが(雑)ラストに出てきた、町田樹の姿に、秒で涙目になる。

生まれて初めての町田樹。人生最後になるかもしれない町田樹。なんとか涙をこらえていた。泣いたら、町田樹の姿がゆがむ。すでに若干ゆがんでいたけど、私はあの表情、滑り、人生を、この目に焼き付けようと必死だった。彼はオペラグラス直径数センチの円の中を、華麗に舞っていた。ジャンプの着氷に失敗した姿に、少しだけ涙が出た。転んだって立ち上がる姿が、まさに人生そのものだった。転んだっていい、また立ち上がる。その姿になぜだか励まされた。ラスト、青い光に包まれた彼を見て、いよいよ涙が止まらなくなった。その光の中に、幸福や、彼の求めた何かがあるような気がした。9分間に人生が詰まっていた。全然9分とは感じさせない、一瞬の人生だった。汗のきらめく姿が、美しかった。

終わった後はとにかくぼろぼろ涙が止まらなくて、それが「町田樹に出会えた喜び」なのか「もう会えないかもしれない悲しみ」なのか、「素晴らしい演技に打ち震える心」なのかわからなかった。ただ、ひたすらに「出会えてよかった」と思える人だった。

最後、彼は「フィギュアスケートをブームでなく文化に」と言っていた。羽生くんを筆頭に盛り上がっている現在のフィギュアスケートを、文化に。最後に一言、と言っておきながら全然一言じゃないあたり、彼らしい。また見に行こうと思う。まだまだ面白いスケーターはたくさんいる。個人的にネイサンチェンが大好き。友人たちにも勧めたい。このnoteを読んだ方も、よかったら見に行ってほしい。生で見るからこその感動と体温がそこにある。

自分の哲学に生きる町田樹は、自分の意志で、自分の目指すもののために、氷上を降りる。その強さは、その姿は、いつまでも私を励ましてくれる。どうか、町田樹さんのこれからの人生も、満たされたものでありますように。

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