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And then,

あれもこれも忘れていくのに、なぜだれかれのまつげのようすや話しかたのくせは何度でも脳裏に蘇るのだろう?

磁気テープのフィルムがなぜか数センチだけ劣化しなかったり、永久凍土に眠るマンモスの肉片がとつぜん発見されたりすることがある。
偶然?


それから /swimmy

まつげの数とか ひと呼吸ごとの句点
ゆるやかな歴史の ふたしかなくぐもり

細く伸びたふたつ 影の合間を抜けた
三度方角をたしかめた風は 耳を遠く撫ぜる

高いEsにわずかなフラットを
かけている声、その声
いつかわたしを呼んでいた
比ぶれば敵わない
かつて愛したざわめき超えて会いに行けば
もうふれることのないやさしい語彙

ルビふるふりする そのやさしさに生きたい
カフェオーレな程度の許容範囲
迷わせて

杜撰に選んだ絵画の隅で暮らす
ひかり灯すように
明るいほうの窓だけ少しあけてみて

Esにわずかなフラットを
かけている声、その声
いつもわたしを呼んでいた
比ぶれば遠くなる
かつて愛したざわめき超えて会いに行けば
もう思い出すことのない小さな他意

高いEsにわずかなフラットを
かけている声、その声
どうかわたしのもとへ
ほどけた昨日忘れ
かつて愛したざわめき超えて会いに行けば
もう
新しい花の名も
色づかなかった憧れも
意味はもう求めずにいよう


冒頭に貼ったMVと素敵な黄色のジャケットは友人のおみおが作ってくれた。送られてきたジャケットのイラストには
「リボンは記憶の中の繋がりを表しています」
というコメントが添えられていて、私は驚いた。この曲は記憶や忘却をテーマにしていたけれど、おみおにそれを話したことはなかったから。繊細に感じ取ってくれたのだなと想像し、とてもうれしく思った。

私たちは経験したことのほとんどをはっきりとは覚えていられない(と私は思っている)。一方で、ひどく断片的ではあるけれども、鮮明に思い起こされる場面も幾らかはある。脈絡もなく思い出してしまうだれかや何か、その言動やすがたかたち。それらはいつしか「忘れられないこと」から「私にとって重要だったこと」へとコンバートされ、意味を求められていく。自らを過去に引き摺り込もうとする。
本当は意味なんてないかもしれない過去の断片にとらわれて生きること、その心地良さとむずがゆさを曖昧に歌ってみたいなと思い、この詞を書いた。


そう、この曲では久々にアコギを弾きました。私にしてはめずらしく大胆なストロークで弾いたはずなので、ぜひ左ギターにも耳を澄ませてみてほしいです。
今までやっていなかった系統のポップソングだけれど(私たち世代には少しなつかしい、ゼロ年代終わり頃のJポップロックっぽさは意識した)、swimmyらしい、あたたかくてちょっと寂しい曲になったと思います。曲自体は4月に出したのですでにずいぶん季節がめぐってしまったけれど、「4月」が嫌いな人にも聴いてもらえる曲になっていたらいいなと思っています。

※ストリーミングの英語タイトルは「after that」になっていたのか!


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