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アーティスト・永井天陽さん作品集『SOLAYA NAGAI 2013-2023』のご紹介
永井天陽(ながい そらや)さんは、アクリル材や剥製、既製品など様々な素材を用い、境界が多重に存在するような彫刻作品を制作されているアーティストです。
永井さんが10年間に渡って制作した作品を収録した『SOLAYA NAGAI 2013-2023』は、2023年に埼玉県立近代美術館にて開催された個展「アーティスト・プロジェクト#2.07『遠回りの近景』」に併せて出版されました。
こちらの記事では、永井さんの作品をご紹介するとともに、作品集の魅力について、書籍の制作協力として関わった私の視点からお伝えします。
《永井天陽さん プロフィール》
1991年埼玉県飯能市出身。
2016年に武蔵野美術大学大学院造形研究科美術専攻彫刻コースを修了。
アクリル材や剥製、既製品など様々な素材を用い、境界が多重に存在するような彫刻作品を制作、発表。
物や出来事へのささやかな疑いをきっかけに、人が無意識に抱く感覚や常識、認識への問いをテーマとしてきた。
また近年では、工業製品の製造過程に用いられる技術や、大量生産されている安価な素材などに着目し、作品への取り込みを試みている。
自身の感覚的な要素に対し、どこにどのような素材・技術を掛け合わせることで“まだ誰も見たことがないもの” を形作れるのか、表現の探求を続ける。
▼作品集『SOLAYA NAGAI 2013-2023』の詳細はこちら
永井天陽さん 作品のご紹介
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作品集を出版するきっかけとなったのは、2023年に埼玉県立近代美術館で永井さんの個展「アーティスト・プロジェクト#2.07『遠回りの近景』」の開催が決定したことです。
作品集『SOLAYA NAGAI 2013-2023』には、個展の展示作品も収められています。
以下では、撮影した写真とともに、永井さんの作品をご紹介します。
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今回は、作品シリーズ「metaraction」と「urnto」について、永井さんの言葉をお借りしながら辿ってみましょう。
metaraction
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metaraction
内と外、重なり合うことのない互いの存在が輪郭を消し合う。
それは例えば骨壷のようなものかもしれない。
「metaraction」は、永井さんが10年間にわたって取り組んできたシリーズ作品で、既製品を象ったアクリル材に、バービー人形やぬいぐるみなどを詰め込んでいるのが特徴です。
一見するとポップな印象を受けますが、たとえば上の写真「metaraction #32 PL-1」は、マリア像とバービー人形が重なり合い、異なる2つの女性像が交錯しているようにも感じられます。
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「metaraction #31 P-1」は、展覧会のメインビジュアルになった作品です。
招き猫の型を取ったアクリル材の中に、ウサギのぬいぐるみが詰め込まれています。
瞬時には中身がウサギだと分かりませんが、ぬいぐるみが手に持っているニンジンからウサギを連想できます。
じっくり眺めていると、外側のかたちと内側の物体が何なのか分かりますが、「両者を認識すると、次第にズレを感じ始める」のが面白い点です。
私が最初に感じた「ズレ」は、「共通点がないように思える招き猫とウサギがなぜ合体しているのか?」ということでした。
さらに観察すると、小判やニンジン、耳のかたちなど、特徴的な部分がピッタリ重なり合うのではなく、少しズレた状態で融合しているため、「どちらの存在を意識すれば良いのか?」と知覚が曖昧になっていきました。
「観察すればするほど、正確に認識できなくなっていく」という不思議な体験を通して、「存在の不確かさ」を意識する作品だと感じます。
urnto
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urnto
誰かがお店の売り場に逆さまに置いたコップ、雑多に売られて重なり合うロート。
空間を内包する形を探し出し、持ち帰り、型として引用している。
少ない手数で曖昧な存在を探る試み。
「urnto」シリーズは、既製品の中に鳥の剥製や毛皮を詰め込んだ作品です。
"urn"は骨壺を意味しています。
上の写真は、数メートルもの高さがある吹き抜け(センターホール)に展示された作品群です。
30点を超える作品が宙に浮かび、存在を主張している様子に圧倒されました。
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「urnto 23-5」と「urnto 21-34」は展示室内に設置された作品です。
止まり木に載せられた作品は、可愛らしいおもちゃのように見えます。
しかし、既製品からはみ出しているのが鳥の羽だと分かったとたん、鳥の存在を意識するようになります。
「urnto」は、私たちが思い浮かべる鳥からは、かなり乖離したかたちです。
けれども、鳥を要素として分解し再構築することで、新たな生を獲得しているようにも感じます。
「骨壺」という死を連想するテーマでありながら、生と死が循環しているようなイメージを呼び覚ます作品です。
永井さんの作品の魅力
永井さんの作品の魅力は、「鑑賞者の思考・認識を回転させる」点だと感じています。
永井さんの作品はポップなカラーが印象的ですが、外側と内側のズレに対する違和感を入り口に、鑑賞者の思考を変容させていきます。
私は、展示会場で作品に囲まれた時、自分の思考や認識がどんどん移り変わっていき、激しい混乱を覚えました。
それは非日常を味わいながらも、日常の中に潜んでいる秘密に触れるような、ワクワクする体験でした。
忙しない日々を送っていると、物事をパッと見ただけで認識したと錯覚してしまいます。
でも、立ち止まってよく観察すると、別のものに思えてきたり、連想したりと思考が飛躍し発展していきます。
私は永井さんの作品に出会って、「知覚したものをそのまま受け取るのではなく、様々な方向から捉え直す」という考え方に触れることができました。
作品集『SOLAYA NAGAI 2013-2023』の魅力—作品とデザインの重なり合い
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ここからは、作品集『SOLAYA NAGAI 2013-2023』の装丁に注目してみます。
作品集の装丁は、デザイナー・三上悠里(みかみ ゆうり)さんが手がけられました。
三上さんは、グラフィックデザイナーとして、特に現代美術、演劇、教育、ソーシャルデザインなどの文化・芸術領域において積極的に活動されている方です。
作品集の制作にあたり、三上さんは「永井さんの作品の世界を書籍で表現する」ことに非常に注力され、様々なアイディアをかたちにしてくださいました。
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書籍の表紙に注目すると、オレンジとイエローが使われているように見えます。
しかし、透明なイエローのカバーを外すと、実はピンクと白でデザインされていると分かります。
永井さんの作品の特徴となる内外の境界や関係性、認識のズレといった要素が、装丁で表現されているのです。
また、中面の写真は、見開き全体に掲載されているページもあれば、写真のサイズや位置を変えて配置されているページもあります。
ページをめくるたびに写真の見せ方が変化するデザインは、永井さんの作品に出会って認識が変わっていく様子に重なると感じます。
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単純に作品の写真を並べるのではなく、永井さんの作品や思想に寄り添い表現された作品集です。
作品集は2つのセクションで構成され、「SECTION1」では埼玉県立近代美術館での個展、「SECTION2」では2013年から2022年にかけて制作された作品をご覧いただけます。
また、佐伯綾希さん(埼玉県立近代美術館 学芸員)、半田颯哉さん(アーティスト/キュレーター)によるテキストも収録されています。
永井さんの作品の魅力が詰まった一冊、ぜひお手に取っていただけましたら幸いです。
『SOLAYA NAGAI 2013-2023』
発行年:2023.12.26
著者・発行元:永井天陽
デザイン:三上悠里
テキスト:佐伯綾希
付録:半田颯哉
サイズ:W152mm×H195mm
仕様:72ページ
▼作品集『SOLAYA NAGAI 2013-2023』の詳細はこちら
▼永井天陽さんが参加される展示のお知らせ
![](https://assets.st-note.com/img/1724334790915-UjULqcZGh8.jpg?width=1200)
会期:2024/9/5(木)〜9/28(土)
会場:アートかビーフンか白厨
住所:〒106-0032 東京都港区六本木5丁目2−4 朝日生命六本木ビル 2階
(エレベーターの左手奥にある階段を2階までお進みください)
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電話番号:03-6434-9367
開催時間:17:00〜23:00
休館日:日・月
観覧料:無料
アクセス:
日比谷線「六本木駅」徒歩4分、大江戸線「六本木」徒歩7分
千代田線「乃木坂駅」徒歩13分、南北線「六本木一丁目駅」徒歩13分
参加アーティスト:
菊池虎十 / Taketo Kikuchi
岸裕真 / Yuma Kishi
清川漠 / Baku Kiyokawa
永井天陽 / Solaya Nagai
松浦美桜香 / Mioka Matsuura
主催:ArtSticker(運営:The Chain Museum)
協力:株式会社 講談社
展覧会の詳細はこちら↓