廃材を使って未来を描く: 画家・綾海さんとのワークショップ
2024年4月11日(木)と16日(火)の2日間、株式会社明治産業で行われた画家・綾海(あやみ)さんとのワークショップのようすをレポートします。
廃材を使って「100年後の未来」を描く画家・綾海さん
今回のワークショップは、明治産業の社員自身が企画・実施するアート活動=「MAC会議」の一環として、メンバーの宮口さんが企画したものでした。
今回のゲストとなる綾海さんは、キャンピングカーで日本全国を旅しながらその土地ごとの廃材を調査・活用して「100年後の未来」を描く活動を続けている画家です。
今回の記事では、社員と共に行なったワークショップのようすと、綾海さんへのインタビューをご紹介していきます。
綾海さんとのワークショップ
綾海さんへのインタビュー
以上2日間のレポートに続き、ここからは連日のワークショップを終了した直後の綾海さんと行なったインタビューのようすをお届けします。
——企業の社員さんに向けて今回のようなワークショップを行うのは初めてでしたか?
綾海さん 企業の社員の方のみに向けたワークショップは初でした。でも、こちらが予測できない絵になっていくという点では、子供も大人もどちらも変わらない面白さがありますね。
——2日間のワークショップを通して、この会社の人々や、会社全体の雰囲気をどのように感じられましたか?
綾海さん まず第一印象として、社員さんたちは皆さん仲が良いんだろうなと感じました。アートに限らずどんなワークショップをやるにしても、まず参加者同士の関係が良くないことには楽しめないだろうなと、始めるまでは少し不安でもありました。だけど皆さんワークショップが始まると本当に楽しそうにされていたから、思わずこちらも楽しくなるようでした。
——確かにこの会社のメンバーには、どんな活動も抵抗なく、まずは自分たちで楽しみながら答えを見つけていくようなムードがありますね。
綾海さん 今回の作品も、仲が良いからこそ出来た絵、みたいな感覚はありますね。多分ほとんどの社員さんは、本格的なアート制作をしたことが無い方だったと思いますが、どなたもやっつけで済ませるようなこともなく、きちんと「どうやるか?」「どう作るか?」みたいな会話も聞こえていたので、良かったなと思います。
——段階ごとに絵が変わっていくようすを体験できるワークショップでした。綾海さんご自身がそのプロセスのなかで驚かされた場面などはありましたか?
綾海さん 人によっては、自分の絵の上に次の絵が描かれることを嫌がる方もいるんですが、今回そういった反応はありませんでした。どころか、(創作にあたってまだ一人ひとりのなかに完成形が)無いなかでも探してみようとする姿だったり、自分の描いたものに絵が重なっていくのがむしろ良かった、嬉しかったというような声が聞こえたりもしていて。会社がアートを通じて社員教育や交流を続けてこられた成果なのかな、と感じていました。
——今回、綾海さんはワークショップを通じてずっと「『流れ』を意識して、みんなで作っていきましょう」とお話されていましたね。
綾海さん 毎回このワークショップで出来上がる作品は、想像もしていなかったものになっていくんです。皆さんが互いに発する、予測できない波を受け止め合いながら進めていく作業は確かに難しくもあるんですけど、やっぱり楽しいんですよね。
——綾海さんご自身の活動についてもお尋ねします。それまでの画家活動から現在のような廃材を使ったアート活動へ移行されたことで、どのような変化がありましたか?
綾海さん 廃材を使うようになってからいま3年目くらいなのですが、それ以前と比べると、一つひとつの素材そのものの歴史を知ろうとするようになったり、素材がどのように生まれて/死んで/そして死んだ後にどうなっていくのかというような循環のプロセスにも目が向くようになりました。
また、廃材に限らず、歴史や文化のなかで人間一人ひとりがどのように生きてきたか、その行動や活動みたいなことまで考えるようになったことは、とても大切なことだったと思います。
私は絵を描いたり、ものづくりをすることは、それを通して「世界を知る」ことだと思っているので、私自身だけでなく、私の活動に携わって下さる方にも、こうしたワークショップがその時テーマになっている素材へ目を向ける機会になれば良いなと思っています。
「プラスチックってどういう風に生まれてるんだっけ?」「石油で出来ているんだったら油に戻せないのかな?」「戻せるとしたらどれくらいのエネルギーが必要なんだろう?」という風に素材としっかり向き合ってみることを通して気づけるものがあるんじゃないかと思っています。
綾海さん 私は自分が出会った人に幸せになってほしいと思って絵を描いていますが、その幸せのひとつに「自分で選択できる」ことがあります。自分で判断できる選択肢を広げるためには、物事の本質を知ることが大切です。
例えばSDGsなんかも、なんとなく新しいルールのようなものとして捉えるのではなく、「やっぱり自然って大事だよね」だったり「医療や科学の面からも◯◯って大事だよね」という風に、まず自分の中にきちんと落とし込んだうえで「だからSDGsを実践するんだ」と自分で選択できることが、一人ひとりの幸せに繋がっているんだと思うんです。
そのように物事の本質を知ろうとすること、常に「問い」を持っていて欲しいという思いが、私にはあるのかもしれません。まずはどんな簡単な「問い」でも良いとは思うんですけど。
——ワークショップの中でも「人は自分が納得出来ないことには動けない」というお話もされていましたが、いずれも大切なのは「問い」ですね。「問い」があるからこそ、その先に「納得」が生まれ、未来を変える「選択」や「行動」が生じる。だからこそまずは普段の生活で問題にすら感じていなかった物事にどのように気づかせて、一人ひとりの「問い」としてもらえるか? その機会としてのアートやワークショップなのだと。
綾海さん 本当にそうですね。今回、竹林の絵を出しましたけど、じゃあ良い竹林ってどういうものだろうか?とか、この 竹林は「雨傘がさせる※」だろうか?みたいに、私の作品や活動を通して1つだけでも新たな「問い」を抱くきっかけになれば良いなと思っています。
(※一般的に良好な竹林環境は「番傘を指して歩いても傘が竹に当たらないくらいの間隔」が必要と言われており、綾海さんはそのことを自身の作品に描き込んだ)
——綾海さんは、ご自身の活動のテーマを「100年後の未来を描く」とされています。
綾海さん 私が「100年後の未来」というのをテーマに掲げている理由は、「100年後にこうあって欲しい風景を絵に描いている」というわけではなく、実はそう投げかけること自体が、鑑賞者一人ひとりにもそのことを自分自身で考え、本質に迫ってもらうための「問い」になると思っています。
私にとって望ましい「100年後の未来」をお答えするとしたら、100年後に生きている人たちも、自分自身で選択出来るような人生を歩めていたり、自分の中に幸せを見つけられているようであったらな、と思っています。
——最後に、綾海さんがアーティストとして活動を続けた先に見てみたい風景や、今後チャレンジしてみたいことがあればお聞かせください。
綾海さん まずはこれから先も作品を作り続けたいということがありますが、個人的には私、宇宙がすごく好きなんですよね。私の作品には月がよく出てくるんですけど、月は「太陽が沈んだ後に出てくるもの」として「次に来るもの」「次の世代の人たち」を表現していて、未来への祈りのようなものでもあります。いつか月に行ってみたいんです。そして月の素材で絵の具を作って、 月をテーマに絵を描いてみたい。それが私の夢です。
PHOTO:山中慎太郎、橘ちひろ
TEXT:三好剛平(三声舎)