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【翻訳】●クー・フランの病とエウェルのただひとつの嫉妬●

 ・『エウェルの嫉妬』を読みたかったけれど粗筋以外の日本語訳が見つからないので思い余った結果
 ・本人の英語力は地を這うレベル
 ・そのため翻訳の内容についての質問は受けつけかねます(誤訳についてのご指摘はありがたく……)
 ・物語の前半でクー・フランの妻は「エンヤ(エーネ、あるいはエスネ)」とされ、後半は「エウェル」になっています。
 ・ご存じのかたも多いとは思いますが、この物語はふたつの違う話を統合したものだと分析されています。そのため、妻の件など、もとの物語の段階でおかしな部分も多々あります
 ・前半で人名とされるEoghan Inbhir(ヨアン・イニリ)が後半で地名になってしまっているのも、おそらくその統合のせいかと(後半でも一部では人名ですが、たぶんエオホズと混同されてる…
 ・登場人物の名前は英語読みとアイルランド語読みが混在しています
 ・人名や地名など固有名詞の一部は訳せないままになっております
 ・一文が長いところは適宜、改行しています
 ・意訳し、補足し、削除したほうがわかりやすそうな冗長な部分は若干削除しました
 ・本文中の[]内は、英文にあるものです。【】は、つけたしました


 ・二種類のパブリックドメインの英語訳をもとに翻訳しています
 ・オカリー版には注釈がいくつもあるのですが、年代的に英訳者のオカリーではなく、(すべてではなくとも一部は)リンク先のサイト主さんが記したものがあるようなので、注釈はパブリックドメインではないと判断し、本文のみを載せています。
 【2023/12/12追記】リンク先だったサイトが閉鎖したため、オカリー版は投稿者本人のnoteにリンクを変更しています。


 ・兄貴好きのマスターがざっくりと話の内容を知りたかっただけの代物です
 ・おなじようなことを考えているかたもいるのではと公開
 ・意味が不明な部分もあります
 ・こまかいことを気にしないひと向け


 


●クー・フランの病とエウェルのただひとつの嫉妬●


英語版二種
オカリー版 : https://note.com/nteyu/n/ne60a754479c5
レイフィー版: http://www.luminarium.org/mythology/ireland/cuchulainnsick.htm
日本語訳  :安藤ゆゆ



 アルスター人は毎年、 サウィンの三日前、 サウィン当日、それにつづく三日間、祝祭をする習慣があった。
 それはアルスター人が毎年、ムルセヴネの平原で祝祭に専念する期間だった。その間、ゲームと競争、快楽と娯楽、そして食事と宴会以外に、彼らはなにもしなかった。
 そしてこの習慣から、いまでもサウィンの三日間は、エリン全域で行なわれている。

 あるとき、ムルセヴネの平原にて、アルスター人によって祭りが開催された。
 誰もがサウィンで戦と勇気による戦利品を展示していた。 いつも戦利品を持って祭りを開催するしきたりだった。
 ひとりひとりが殺した敵の舌を切り落とし、それをポーチに入れていた。数を多くするために、獣の――おもに牛の舌をいっしょに持ってくる者もいた。
 そして、それぞれ順番に、戦利品を見せた。そのときには、太股のうえに自身の剣を置いた。功を偽っていたなら、剣は主にきっさきを向けるからだ。これは疑問に思うことではなく、当時は悪魔が武器から叫ぶのがふつうだった。ゆえに、それらの武器は主を護ることができるのかもしれなかった。

 すべてのアルスター人は、この日、祝祭に来た。コナル・ケルナッハとフェルグス・マク・ロイ、ふたりだけを除いて。
 祭りを開始しようと、アルスター人は述べた。
 クー・フランは云った。
 「いや、コナルとフェルグスが到着するまではだめだ」
 フェルグスは彼の養父であり、コナルは彼の仲間であったからだ。
 詩人のシェンハは云った。
 「ふたりを待つあいだ、フィドヘルをし、ドルイドに歌わせ、曲芸師に芸をさせよう」
 その後、彼が云ったように行われた。

 彼らがこのようにしているあいだ、鳥の群れがやってきて、湖のうえに浮かんだ。エリンでは、これ以上に美しい鳥はなかった。
 その場にいた女性たちは、鳥を手に入れたいと願った。彼女らは鳥をつかまえる夫の才能を自慢し、鳥の所有について互いに争いはじめた。
 コンホヴォルの妻、エンヤ・エタンハイスレフは云った。
 「私は両肩に、この鳥の羽根を持っていなくては」
 「それは誰もが求めるものです」と、ほかの女性が云った。
 「もし誰かがこの恩恵を受けるなら、私が最初に受けるべきだわ」と、クー・フランの妻、エンヤ・イングヴァは云った。

 「どうしたらいいのかしら?」
 「簡単です」
 女性たちの途惑いに、オアとアダルクの娘、ラヴァカンは明確にして単純な答えを出した。
 「クー・フランを捜します」
 彼女は動き、そしてクー・フランに語った。
 「アルスターの女性たちは喜ぶでしょう。もし、あなたが捕らえた鳥を与えられたなら」
 彼は剣を鞘から抜いて彼女を脅した。
 「お嬢さんがたは、鳥狩りしてくれるやつをほかに見つけられないのか?」
 ラヴァカンは、「怒ることではないでしょう」と返した。
 「彼女たちはあなたのせいで、三つの汚点のうちのひとつ、すなわち半分盲目になっているのだから」
 というのも、アルスターの女性の三つの汚点は、腰まがり、どもり、半分失明である。コナル・ケルナッハを愛したすべての女性は曲がった歩行をし、コンホヴォルの息子であるクースクリド・メンを愛するすべての女性は話す能力に支障をきたした。彼が吃音症だったためだ。
 おなじように、クー・フランを愛したすべての女性は、クー・フランに似せるため、片眼のみ盲目を装った。彼は、怒っているとき、しばしば片眼が鶴でもつつけないほど頭に引っ込み、もう一方の眼は突き出て、子牛を煮られるほどの大釜くらいに大きくなる。

 「戦車を、ロイグ」と、クー・フランは云った。ロイグが用意した戦車にクー・フランは乗り込み、ブーメランのように剣を投げつけ、鳥の爪と翼とが水に近づくようにした。
 彼らはそれをすべて捕まえて持ち帰り、女性たちに配った。二羽の鳥を受けとらなかったのは、エンヤだけだった。
 彼はついに自分の妻のところにやって来た。「機嫌が悪いのか」と、クー・フランは彼女に声をかけた。
 「怒ってないわ」と彼女は云った。「私が配ったものだと思っているから」
 「あなたは相応しいことをした。彼女たちのなかに、あなたを愛していない女性はいない。あなたが分け前を与えない相手はいない。だけど私自身は、あなた以外に分かち合うひとはいないの」
 「機嫌を直してくれ」と、クー・フランは云った。
 「鳥がムルセヴネの平野にやって来るか、またはボイン川にいれば、そのなかで最も美しい二羽を手に入れるから」

 しばらくして、彼らは湖の上に二羽の鳥を見た。鳥は赤い金の鎖でつながっていた。鳥はおだやかな歌を歌い、そこにいた者たちは眠りについた。クー・フランは鳥を追うために立ちあがった。
 「もし、おまえが俺たちの忠告を聞くなら」
 ロイグが云い、さらにエンヤが云った。
 「あなたは近づくべきじゃないわ。あの鳥の背後には特別な力がある。ほかの鳥ならば、あなたは捕らえるでしょう 」
 「そんなことばを俺に?」と、クー・フランは云った。
 「投石器に石を入れろ、ロイグ」
 ロイグは石をとり、それを投石器に入れた。クー・フランは石を投げたが、失敗した。
 「ああ!」
 彼は嘆いた。別の石をとり、また投げたが、それは鳥たちを通り越した。
 「惨めなものだ」と彼は云った。
 「最初に武器を持ったその日から、今日まで失敗したことがないのに」
 そして彼は重い槍を投げ、それは鳥の一方の翼を通り抜けた。鳥は飛び去り、槍は水のなかに落ちた。

 クー・フランはひどい気分で移動し、背中を岩にもたれ、すぐに眠りについた。そして夢のなかで、ふたりの女性が向かって来るのを見た。ひとりは緑色のマント、もうひとりは五つ折りの襞のある真紅のマントを纏っていた。
 緑色のマントの女性がクー・フランに近づき、微笑むと、馬の鞭をひと振りした。もう一方も彼に近づき、微笑んで、おなじように彼を殴った。彼女たちは長いあいだそのようにしていた。つまり、それぞれが交互に打って、彼が瀕死になるまで。それから、彼女たちは彼から離れた。

 すべてのアルスター人がクー・フランの状態を知り、彼を目覚めさせるべきだと訴えた。しかしフェルグスは、「いや、こいつは幻を見ている。動かさんほうがいい」と云った。
 少しして、クー・フランは眠りから覚めた。
 「誰がおまえをこんなふうに?」アルスター人は彼に云った。
 彼は、しかし、彼らと会話できなかった。
 「俺を運べ。《綺羅光る贅沢》の館にある病床に。Dun Imrithでも、 ドゥン・デルガでもなく」
 「エウェルのために、ドゥン・デルガに連れて行こう」
 ロイグが云ったが、クー・フランは承諾しなかった。
 「いや、《綺羅光る贅沢》の館だ」
 ただちにクー・フランはそこに運ばれ、一年が経っても《綺羅光る贅沢》の館にいた。その間、彼は誰とも話さなかった。

 翌年の年末、十月三十一日に、アルスター人たちはクー・フランのそばにいた。フェルグスが壁際に。コナル・ケルナッハは彼の頭のほうに。クー・フランの養子である《赤い縞のルギド》は、枕元で彼を支えていた。エンヤ・イングヴァは足元にいた。
 たまたま、このように位置するとき、ある人物が訪れ、寝室の入口近くに座った。
 「なにをしに来た?」
 コナル・ケルナッハが問いかけると、「お話ししましょう」と、その人物は応えた。
 「もしあそこに横たわっている人が健康であれば、彼はすべてのアルスター人に対するよい守護者となるだろう。いまのような大病や衰弱のなかでは、彼はより大きな守護者となる。私はなにも恐れない。彼と話すために来たのだから」
 「あなたを歓迎しよう。なにも恐れる必要はない」
 アルスター人たちが述べると、客人は立ちあがり、これらの詩を歌った。


   ああ、衰弱したクー・フラン
   もうすぐその治療がなる
   もし彼女らがあなたとともにいれば――彼女たちは来るだろう――
   アイド・アブラットの娘たち

   クルアハの平原にいるリー・バン
   《素速いラヴリド》の片腕である彼女は
   次のように云った――
   それはファンに心からの喜びを与えるだろう
   クー・フランと結ばれたなら

   クー・フランが私のもとに着いたなら
   その日はなんて素晴らしい!
   金も銀も山と積まれ
   酒飲みたちはワインをそそぐ

   この日の私の友人が
   スアルダウの息子クー・フランなら
   眠っているうちに見たすべて
   彼は軍の力もなく得るだろう

   南に広がるムルセヴネの平原
   サウィンの夜、不幸なめぐりあわせもなく
   私からリー・バンが送られる
   クー・フラン、あなたの病を癒すため


 「あなたは何者だ?」
 アルスター人は訊ねた。
 「私はオェングス、アイド・アブラットの息子です」
 その男は立ち去った。彼がどこから来て、どこに行ったのか、みな、わからなかった。

 すぐのちにクー・フランは起きあがり、彼らに話しかけた。
 「これは幸運だ!」とアルスター人は云った。
 「なにが起きたのか教えてくれ」
 「去年のサウィンの夜、幻を見た」
 クー・フランは、あのとき見たことすべてを語った。
 「俺の王コンホヴォル。なにをしたらいい?」
 コンホヴォルは応えた。
 「起きて、例の岩のところまで行きなさい」

 クー・フランは出ていき、かの岩に着いた。緑色のマントの女が近づいてきた。
 「これは都合がいい。ああ、クー・フラン!」
 「よくあるものか。昨年の訪問の目的はなんだったんだ?」
 「それはけっして、あなたを傷つけるためではなかったわ。私たちは、あなたとの友愛を求めていたの。私は、あなたを迎えに来た」と、女は云った。
 「アイド・アブラットの娘、マナナーン・マク・リールに見捨てられたファン。彼女はあなたに愛情をいだいている。私はリー・バン。夫である《素速い剣捌きのラヴリド》から伝言があるわ。彼はあなたにある女性を与える。あなたが彼を援け、《歪んだシェナッハ》と戦ってくれたら。そしてエオホズ・イーウル、ヨアン・イニリとぶつかってくれたら」
 「俺は戦える状態じゃない」
 「それはもう少しつづくけど。あなたは癒され、失われた力はあなたに戻る。ラブリドはあなたに贈りものを与えるでしょう。彼は世界で最もすぐれた戦士だもの」

 「ラブリドはどこにいる」
 「マグ・メル、喜びの平野に。でも、いま、私は別のところに行きたいの」

 「いっしょにロイグを行かせよう。あなたが来た場所を知るために」
 「それなら、彼を来させなさい」

 それから、ふたりはファンがいる場所まで進んだ。リー・バンはロイグを自身の肩に乗せた。
 「今日、あなたは動いちゃだめよ、ロイグ」と、リー・バンは忠告した。
 「あなたが女性によって保護されていない限りはね」
 「こんなのは慣れてない。女性の保護下だと?」
 「永遠の恥ね! そこにいるのがクー・フランじゃなくてよかったわ」
 「俺にはそのほうがありがたいね。あいつと代わってやりたいよ」

 彼らは島のそばまで到着した。目の前の湖に、青銅の小舟があった。ふたりは船で島に渡り、立派な屋敷の戸口に立った。近づいてきた男に、リー・バンは話しかけた。


   《素速い剣捌きのラヴリド》はどこに?
   勝利した軍隊を超えて
   強力な戦車の群れにも勝利を収める
   彼は血まみれの槍を見つめている


 その男は彼女に応えた。


   素速さの息子ラヴリドは急いでいる
   たくさんの軍勢がともに駆けている
   完全に敗北した
   まもなく森の平野で虐殺がはじまり
   フィドガの平原が死体で埋まるだろう


 彼らは屋敷に入った。屋敷のなかには五十の三倍の寝椅子があった。それらの上に五十の三倍の女性。全員がロイグを歓待した。
 「歓迎します、ロイグ。あなたとともに来た人のために、そして、あなた自身のために」

  リー・バンは云った。
 「ロイグ、すぐにファンと話をする?」
 「彼女がいる場所を知っていればな」
 「あの子は別の部屋にいるの」
 彼らはそこに入っていき、ファンに挨拶した。ファンも他の者とおなじように、ロイグを歓迎した。

 ファンは、 アイド・アブラットの娘であった。アイドは火を意味し、彼は燃えるような眼をしていた。ファンは、その眼から流れる涙の名前。そう名付けられたのは、彼女の美しさが澄んでいたからだ。涙以外に彼女の美しさを喩えられるものは、この世になかった。

 彼らはその場で、ラヴリドの戦車が島に近づく音を聞いた。
 「今日、ラヴリドは気が塞いでいるわ」とリー・バンは語った。
 「彼を出迎えてくるわね」
 リー・バンは外に出、ラブリドを歓迎した。

 「ようこそ、《素速い剣捌きのラヴリド》、軍団の代表、軽い槍の射手、盾を割るもの、重い槍を撒き散らすもの、負傷させるもの、貴族の狩人、虐殺の探究者、最も美しい姿、大軍の破壊者、富をばら撒くもの、戦士を襲うもの、ようこそラヴリド!」

 ラヴリドはなにも答えず、夫人は再び口をひらいた。

 「ようこそ、《素速い剣捌きのラヴリド》。糧を準備し、すべてに気前よく、戦いを求め、脇腹を負傷した、誠実なことば、厳格な正義、やさしい統治、強力な右腕、仇を討つ情熱、馬にやさしい、ラブリド、ようこそ、ラヴリド」

 ラヴリドはまだ答えなかった。彼女はもういちど、ほかの詩(うた)を歌った。

 「ようこそ、《素速い剣捌きのラヴリド》、もっとも勇敢な戦士、もっとも傲慢な長、力の破壊者、戦いの戦士、全滅の闘士、弱者を高めるもの、強者の征服者、ようこそラヴリド、ようこそ」

 「妻よ、おまえの云うことは正しくはない!」
 その男、ラヴリドは云った。


   「妻よ、私には自慢も誇りもない。
   私は名声を主張しないし、偽りもしない。
   嘆きだけが心を揺さぶる。堅い槍のために。
   私に対抗して数が増える。恐ろしい戦いがはじまる。
   英雄たちの右腕が血に染まった剣を振るう。
   多くの軍がエオホズ・イーウルを王として心に留めている。
   誇りを持てはしない、厳しいことばもない。
   誇りと傲慢は、遥かにあるべきだ、妻よ」


 「あなたの心をやわらげましょう」と、リー・バンは云った。
 「こちら、ロイグよ。クー・フランの御者がここにいて、あなたの軍に加わると云っている」

 ラヴリドはロイグに挨拶をした。
 「歓迎します、ロイグ! あなたとやって来た淑女と、あなたと来る彼のために。すぐに自身の土地に戻りなさい、ロイグ。リー・バンも、あなたに同行する」

 ロイグはエウァン・ウァハに戻り、クー・フランたちに見てきたことを語った。
 クー・フランは起きあがり、顔を手で拭った。そして彼は明るくロイグに挨拶し、友人がもたらした報せが自分の心を強くしていると感じた。


※※※◆◆※※※◆◆


 [この時点で、序文に示されている物語の中断が発生する。そして、赤い縞のルギドがアイルランド全土の王に選出されるタルヴェシュの説明がある。また、病床に横たわっているはずだったクー・フランが、王の義務についてルギドに激励する。
 物語とは実際には関係がないこの挿入ののち、物語は進む。しかし別の観点から、クー・フランが夢うつつの状態からほんとうに目覚めたが、まだ病床にいるところで文脈がとれる。
 オェングスのメッセージは伝えられたように見えるが、しかしクー・フランはリー・バンとの二度めの出会いはしていないようであり、またロイグにも頼んでいないようである。
 場からエンヤは姿を消し、クー・フランの本妻の立場はエウェルにとられている。たとえ整合性がなかったとしても、ここでは、おなじ伝説に基づいているが、ふたつの異なる手によって作られたふたつの物語がある。そしてロマンスの全体的なスタイルは、よりよいものに変わる。最初の終わりと二番めのはじまりが似ていないため、そのギャップはルギドの選挙の話によって埋められた]

【英語訳のなかにはこの上王決定のエピソードを削除しているものもあります。その部分はこちら → https://note.com/nteyu/n/n8781b695981d


※※※◆◆※※※◆◆


 さて、クー・フランに関しては、このように物語らなくてはならない。
 彼はロイグを呼んだ。
 「行ってくれ、ロイグ。エウェルのところへ。俺を負傷させたのは妖精の女たちだと、俺が時間とともに良くなってきていることを伝えてくれ。そして、こちらに来て、いっしょに住むようにと」

 青年ロイグは、クー・フランを鼓舞するために云った。


   夢見るような眠りの病床など
   英雄には似合わない
   おまえのまえに現れた魔女たちは
   灼熱のTrogachの平原の住人だろう

   彼女らはおまえを打ち負かし
   長くおまえを虜にした
   そして女性らしい愚かさで
   おまえを遠くに追いやった

   起きろ! これ以上、弱るな!
   妖精たちに贈られた弱さを振り払え
   すぐに切り離し遠ざけろ
   戦士としての強さのために

   おまえは若造みたいにうずくまっている!
   ほんとうに打ち勝てるか?
   戦のために近づいてきた彼らは
   おまえの武勇と行動とに震えるか?

   いまなおラヴリドの国は
   意図を明白に送っている
   立ちあがれ、うずくまる者よ
   そしてまた重要なことをなせ
  

 ロイグは励ましたのちに出発し、エウェルのもとに訪れた。そしてクー・フランの様子を彼女に話した。
 「あなたが悪いわ、ロイグ。あなたは妖精郷でさまよう者として知られているのに、まだ治療法を見つけられず、あなたの主人を治せない。アルスター人よ、恥を知れ!」と、彼女は云った。
 「あのひとたちは気高い行ないをしようともせず、彼を癒しもしない。もしコンホヴォルがこのように拘束されたら、眠れなくなったのがフェルグスだとしたら、傷を受けたのがコナル・ケルナッハだったら、クー・フランは彼らを救ったのに」

 彼女はその後、このように詩を歌った。


   ああ、リアンガヴラの息子よ、悲しいかな!
   しばしば丘を訪れるのに
   あなたはまだ持ってこない
   美しいデヒテラの息子の治療法

   武勇高いアルスターではあるけれど
   養父と友人のいずれも恥ずべきね
   世界を広く探すことがないのだから
   友人クー・フランの治療のために

   もし眠れないのがフェルグスならば
   ドルイドの技で彼を癒せるでしょう
   デヒテラの息子は自宅で眠れない
   それを成し遂げるドルイドを見つけるまでは
  
   もしそれがコナルなら、おなじように
   傷や痛みに悩まされ
   あの猟犬は世界じゅうを探しまわる
   治療のために医者を雇うまでは

   ロイガレ・ブアダハが
   戦での傷に耐えられなくなったなら
   クー・フランはエリンの土地を探しまわる
   イレフの孫、コナズの息子を治癒するために

   もし眠りと永久の病気になったのが
   悪賢いケルトハルであれば
   妖精塚で昼夜を問わず
   猟犬は彼を癒すために迷子になるでしょう

   戦士の長、フルヴィデが
   こんなに長く寝ていたなら
   ああ! 猟犬は乱暴者を救うでしょう
   固い地球を貫いても彼は為す

   トリムの丘の主人が彼をだめにした
   彼女たちは偉大なる武勇から彼を切り離した
   猟犬を凌駕した猟犬たちのために
   ブルーの丘の眠りに罹った

   ああ! あなたの病気が私に移ればいいのに
   コンホヴォルに仕える鍛冶屋の猟犬!
   私の心は痛み、私の体もきっとそうなる
   あなたが私によって治ればいいのに

   ああ! 私の心は血を流す
   平原を駆ける者は病んでいる
   彼の地は祝祭のために飾り立てられながら
   彼はここに来ることができなかった

   エウァン・ウァハから彼が来ない理由は
   彼から切り離された崇高な形のために
   私の声は弱々しく冴えない
   彼が悪い状態にあるために

   一か月、一年、私は寝ないでいる
   季節は過ぎたが、私は眠れていない
   やさしいことばをかけてくれる者もいなかった
   リアンガウラの息子よ、私はなにも聞いていない


 エウェルはそれからエウァン・ウァハに赴き、クー・フランの看護をした。彼女はクー・フランのベッドに座って云った。
 「これは不名誉ね。女性の愛のためにこうして横たわっている。長く横たわることは、あなたを苦しめる」
 彼と会話をつづけ、そして彼女は詩を口にした。


   起きなさい、アルスターの戦士
   目覚めなさい、健康と幸福のために
   そして素晴らしい姿のコンホヴォルを見て
   彼はその眠りを許さないでしょう

   見て、肩は水晶で飾られ
   見て、角杯は戦利品を使っている
   見て、彼の戦車は谷間を堂々と通り過ぎる
   見て、彼のフィドヘルの戦士の動きを

   見て、その力を持つ彼の戦士を
   見て、彼の高貴な、洗練された夫人を
   見て、勇敢な経歴の王たちを
   見て、ひじょうに高貴な女王たちを

   見て、たしかな冬のはじまりを
   見て、それらの変化のすべての驚異を
   見て、それがもたらすものを
   その寒さ、その長さ、それは美しさを欠いている

   この重い睡眠、これは病気よ
   戦闘能力の不足に、衰弱を追加している
   長い眠りは過度の飲酒とおなじ
   衰弱は死への秒読み

   あなたが酔っている妖精の眠りから醒めなさい
   大きな熱意、気高さで放り投げなさい
   やさしいことばを持つ大勢の友人たちが待っている
   起きなさい、アルスターの戦士


 するとクー・フランは起きあがり、顔に手をやって、すべての重苦しさと疲れとを払拭した。それから立ち上がり、求めた場所に向かって歩いた。
 そこにリー・バンが現れた。彼女はクー・フランを妖精の丘に招待した。
 「ラヴリドはどこにいる?」
 「あなたに伝えるのは簡単だわ」と彼女は云った。


   ラヴリドは、いま、清らかな湖の上に
   女性の群れが行き来する
   あなたはその地では疲労を感じない
   もし《素速いラヴリド》を訪ねるなら

   やさしい女が整えた幸福な家
   熟達した多くの学者
   最も美しい色合いの深紅色
   それはラヴリドの頬のよう

   彼は殺したオオカミの長を振り払う
   彼の薄い赤い剣で
   包囲している敵の鎧を壊し
   戦士の大きな盾を打ち砕く

   血走った眼のような肌の傷跡
   あらゆる勇敢な偉業をなしとげた
   最も素晴らしい男性
   何千人も切り伏せたひと

   最も有名な物語の、最も勇敢な戦士たち
   エオホズ・イーウルの地に着いた
   金の輪のような彼の髪――
   彼の息はワインの香り

   戦いを求める最も有名な男たち
   遠い国境でその激しさを感じられる
   船も馬もすべるように素速く進む
   ラヴリドの住む島を過ぎて
  
   多くの他者と異なる行為をした男
   《素速い剣捌きのラヴリド》
   彼はそう強いられない限り人を切らず
   軍の休息を維持する

   馬には赤金の首当てと馬勒
   そして、それだけではなく――
   銀の柱と水晶の柱
   彼の家を支えている


 「俺は行かない。女の招待では」と、クー・フランは述べた。
 「じゃあ、ロイグを行かせて。そこにあるすべてのことをあなたに伝えさせる」
 「ならば、あいつに出発させよう」
 ロイグはリー・バンといっしょに行き、スピーチの平野を通り過ぎ、勝利の樹を越え、エウァン・ウァハの平野とフィドガの平野とを過ぎた。
 そしてそこに、アイド・アブラットが娘といっしょにいた。

  ファンはロイグを歓迎した。
 「どうしてクー・フランはあなたといっしょに来ないの?」
 「あいつは女性の招待に応じるのが好きではないし、あなたからの招待であるかどうかを知りたがっていた」
 「それはまちがいなく私からのもの。クー・フランに、すぐに私たちを訪ねさせてください。戦いが始まるのは今日だから」
 ロイグはリー・バンとともに、クー・フランのもとに戻った。
 「どういうことだ、ロイグ?」
 クー・フランの問いに、ロイグは答えた。
 「もう時間だ。戦いは今日はじまる」
 そして、彼はこう歌った。


   俺は到着した、めでたい陽気さで
   ありふれているにも関わらず、めったにない邸宅
   多数の筋のついた石塚で
   風になびく長い髪のラヴリドを見つけた

   俺は彼を石塚で見つけた
   あまたの武器の中に座っていた
   最も輝かしい黄色の髪
   それをまとめる金の髪留め

   そして彼が俺を見つけたとき
   五つ襞の真紅のマント姿で
   彼は俺に云った
   「あなたは私とともに来ますか、
   Faelbe Finnの家に?」

   ふたりの王が家にいる――
   Failbe Finnとラヴリド――
   それぞれの周りに、五十の三倍の人々
   それはひとつの家の数

   その右側に五十人が寝る
   五十の寝椅子
   その左側に男たちの体重がのしかかった
   五十の寝椅子

   ベッドは、真紅、
   緑、白、金色で飾られた
   そこにある素晴らしい蝋燭は
   光り輝く宝石

   西側の扉にある
   太陽が沈む場所に
   灰色まだらの鬣を持つ馬の群れ
   そして赤茶の別の群れ

   東の扉には
   綺麗な三本の深紅の樹々
   悠久の鳥の歌声
   王の砦から出てきた若者のために

   前庭の樹から
   心地よい調べ
   太陽に照らされる銀の樹木
   金のように素晴らしい輝き

   そこに六十本の木があり
   頂上は接続している
   めいめいから三百ずつ
   果実は多様に成っている

   貴族の庭には泉があり
   五十の三倍のまだらのマントで
   金のフィブラが輝いていた
   まだらのマントの耳で

   笑い楽しむミードの大桶があり
   家じゅうの者に配る
   従来どおりの生活、不変の習慣
   いつまでも、いつまでも満ちている

   その素晴らしい館には、乙女がいる
   エリンのすべての女性にまさるひと
   彼女は金の髪で生まれ――
   美しく、すべてが備わっている

   それは歓びを与え、並外れている
   彼女がすべてを惹きつけるのとあべこべに
   すべての男の心は壊れゆく
   彼女の愛と恋情とのために

   高貴な乙女は云った
   「あなたは誰?
   もしあなたがそのひとなら
   少しのあいだ、こちらに来て――
   ムルセヴネの彼に仕える者」

   ゆっくり、静かに近づいた――
   俺は自身の名誉のために不安に襲われたが
   彼女は云った
   「彼はここに来ますか?
   誠実なデヒテラのただひとりの息子」

   ああ! とうに癒しのため
   おまえが行ったなら
   俺のまえに輝いていた
   あの素晴らしい屋敷を見ただろう
  
   エリンのすべてが俺のものならば
   幸せな丘の支配権を与えるだろう
   些細な行為ではない
   辿りついた場所で暮らしつづけるために


 「その冒険はいいものか?」とクー・フランは訊ねた。
 「じつにいい。おまえがそこに到着することは正しく、その国のすべてが良い」
 そしてロイグは、妖精塚の幸福を彼にさらに語った。


   俺は明るく、高貴な土地を見た
   そこには虚偽も裏切りもない
   そのなかには偉大な軍勢の王がいる
   《素速い剣捌きのラヴリド》

   スピーチの平野を通過したとき
   恵まれた木を見た
   花に覆われた平原を
   足早に通りすぎた

   リー・バンは云った
   俺たちがいた場所で
   「私にとってどれほど愛すべき奇跡でしょう
   もしも、あなたがクー・フランだったら」

   はてしなく才能豊かな美しい女性
   アイド・アブラットの娘たち
   有名なファンの美しさは
   女王たち以外には誰も届くことがなかった

   俺は云うだろう―― それは俺が聞いたことだ――
   ファンの姿は、俺は常に云うが
   罪を犯さぬアダムの血統
   そのなかに彼女ような存在はない

   俺はよく切れる武器を持った
   輝ける戦士たちを見た
   戦士たちの服は見事で
   卑しい者の衣服ではなかった

   祝宴で美女を見た
   彼らのすべての娘を見た
   高貴な若者が
   木の多い丘を越えるのを見た

   俺は歌の民を見た
   彼らの曲は心地よく響いた
   あの家の女性のために彼らは奏でた
   迅速にそこから逃げ出さなければ
   音楽に害され、俺は無力になっただろう

   俺はエンヤと彼女のかわいい侍女がいる丘を知っている
   しかし、戦争が起こりそうな国の感覚から
   誰も逃れることはできない
   美しい姿でいる、彼女ひとりを除いて


 クー・フランはすぐに、彼とともに戦車でその土地に向かった。ラヴリドも、すべての女性たちも、彼らを歓迎した。そしてファンはクー・フランをことさらに歓迎した。

 「なにをすればいい?」
 クー・フリンの問いにラヴリドが答えた。
 「敵軍の周囲をまわらなければならない 」
 彼らは敵軍のもとに行き、一面を見まわした。敵軍は無数に思われた。
 「あんたはあっちにまわれ」と、クー・フランはラヴリドに指示した。
 ラヴリドはその後すぐに離れて行き、クー・フランは残った。二羽の黒いワタリガラスが鳴いた。敵軍の多くが笑った。
 「それはありえそうだ。―― エリンからの怒れる男は、ワタリガラスが予言する」
 軍は烏を追い払い、その地に休息の場所がないようにした。

 早朝、エオホズ・イーウルは手を洗うために泉に行った。クー・フランは、そのとき、フード付きの外套(ククルス)からのぞく、彼の剥き出しの肩を見た。クー・フランが投げた槍は、エオホズを貫いた。
 彼は三十三人をひとりで殺した。その後、シェナッハ・シアボルセが襲いかかってきて、彼らは激しい戦闘をした。クー・フランはシェナッハを殺した。

 ラヴリドが来て、彼の前で軍を止めた。ラヴリドは虐殺を断念するようにクー・フランに懇願した。
 「いま、俺は恐れている」と、ロイグは云った。
 「あいつは充分な戦闘をしていない。持て余す怒りをこちらに向けるだろう」

 「ひとを行かせてくれ。あいつの熱を消すために、三つの大桶に冷たい水を準備してくれ。あいつが入った最初の大桶は沸騰し、ふたつめの大桶は誰もその熱に耐えられない。 三つめの大桶の温度でやっと、ふつうになる」

 クー・フランを帰還を見たとき、ファンはこのように歌った。


   フィドガの平原で祝宴がひらかれる
   彼が導く戦車のように、この晩を震わせる
   踏みつけられたすべての地が揺れる
   若く髭のない青年が乗っている

   血のように赤い天蓋が揺れている
   歌うけれども妖精の鳴声のようにはいかない
   戦車が深みのある低音で歌っている
   深く低く単調な音で、車輪が応じる

   馬は引き綱に支配されて跳ねている
   彼らと匹敵するものはない
   少し待って! 私は彼らの優雅さに注目している
   春の速い風のように動いている
 
   風は強く、彼の息は止まる
   金のボールを五十浮かせる
   王たちは彼らの動きを混ぜたら洗練されるだろう
   彼らと肩を並べる者はいない

   両頬の四つのえくぼが輝いている
   ひとつは緑、もうひとつは青みがかり
   ひとつは血が流れるような赤に染まって
   最後のひとつは、最も明るい色合いの紫

   七重の光が彼の眼から煌めき
   誰も彼を盲目だと蔑むことはできない
   誇らしげなまなざしと暗い色の睫
   スカラベのように黒く、彼の眼を飾る

   彼の優秀さは名声が認める
   エリンじゅうで賛美されている
   高く盛った長い髪は三つの色合い
   若く髭のない若者
   
   刃は赤く、新しい血にまみれている
   銀の柄が輝いている
   黄金の突起が散らばった盾
   縁には白い青銅(フィンドルーネ)

   惨殺された者たちを越えて歩いている
   求める戦は危険を冒してでも奪いとる
   仲間の勇士の哀歌がつづく
   これらのどれもクー・フランとつり合わない

   ムルセヴネから来た彼を歓迎する
   強き戦士、若きクー・フラン
   彼と出逢うため彼方から強いたのは
   アイド・アブラットの娘たち

   堂々たる象徴としてのあらゆる樹
   すべてが赤い血の雨で染まった
   悪魔が行なうような戦争が起きている
   彼がふたたび荒れ狂うように泣き叫ぶ


 リー・バンは彼を歓迎し、次のように話した。
 「クー・フラン、ようこそ。王を援ける、ムルセヴネ平原の偉大な王子、偉大な気高い心、戦いに勝利した戦士、強い勇敢な石、血のように赤い怒り。勇猛なアルスターの戦士をもてなす準備はできている。乙女の眼を眩ませる美しい顔貌。あなたを喜んで迎えるわ」

 「あなたはなにをしたの、クー・フラン?」と リー・バンは云った。
 そして、このようにクー・フランは答えた。


   俺は槍を投げつけた
   流れのヨアンの軍を槍が貫いた
   名声は得たが、俺はまったく知らない
   俺の犠牲者は誰だった
   いったい俺はなにをした

   わずかに彼の力のほうが優っていた
   まったく発見できなかったし、正確な探知もできなかった
   俺の槍が殺した男は霧のなか
   それでも俺は、彼が命を落とさなかったことを知っている

   大軍があらゆる位置から接近した
   赤い馬に乗った大軍が俺の周りを駆け抜ける
   海の息子マナナーンから敵が来た
   ヨアン・イニリから、彼らを呼ぶために叫んだ

   俺はけっきょく戦いに参加した
   衰弱は過ぎ去り、充分な力を得た
   ひとりで三千人の敵と戦った
   俺が直面した敵に死がもたらされるまで

   エオホズ・イーウルの末期の呻きを聞いた
   その音は味方の口から聞こえてきた
   しかし、真実を語るなら、それは勇敢な行為ではなかった
   ほんとうに投げたなら、俺の射程内だった


 クー・フランはそれからファンと床に就き、彼女とともに、ひと月を過ごした。彼は一か月の終わりに別れを告げた。彼女は彼に云った。
 「私たちが逢える場所があるのなら、どこにでも行きます」
 そして、彼らが密会を行なった場所は、ニューリーだった。

 このすべてがエウェルに伝えられた。彼女は乙女を殺すためのナイフを磨いた。彼女とともに五十人の乙女が並んで、密会の場所に来た。
 クー・フランとロイグはフィドヘルをしていて、近づいてくる女性に気づかなかった。ファンが察知し、彼女はロイグに云った。
 「見て、ロイグ、私の見ているものを」
 「なにが見えるんだ?」

 「見て、ロイグ。あなたの背後を。あなたに聞いていた、素敵な女性がいます。右手に緑色の鋭いナイフを持ち、美しい形の胸には黄金のブローチが輝いている。彼女たちは勇敢な戦士が戦車で戦うように動く。フォルガルの娘であるエウェルは、顔色を変えている」

 「恐れることはない」とクー・フランは云った。
 「彼女はあなたに届きはしない。あの頑丈な戦車の、日当たりの良い席に座ってくれ。俺はアルスターの四分の一の、多くの多くの娘たちからあなたを護ろう。仲間の力に押され、フォルガルの娘が脅かすかもしれないが、破壊的な行為はない。彼女はあなたに憤慨しているが、俺がここにいるからな」

 クー・フランはさらに、エウェルに云った。

 「俺はあなたを避ける、妻よ。英雄として。争いのなかで味方に逢うことは回避する。あなたの震える手で槍を突いても俺を傷つけられない。あなたの輝く薄いナイフも。あなたの内の怒りは、しかし弱く、俺を恐れさせはしない。これは厳しい戦の報酬だった。女性の力によって癒されなくてはならない」

 「ねえ、聞かせて、クー・フラン」エウェルは云った。
 「どうしてあなたは、わたしにこんな恥をかかせるの? アルスターの女たちのまえで、わたしは恥辱を受けている。広大なエリンの地に住むすべての女性たち、そして栄誉を愛するすべての民のそばで。密かに忍び寄って来たけれど。あなたの力に圧迫されても、わたしは残る。戦いにおけるあなたの矜持はすばらしいけれど、わたしを捨てても、なにも得るものはない。どうしてあなたがそんな試みをするの?」

 クー・フランは云った。
 「云ってみろ、エウェル。彼女といるのを延ばしてはいけないのか? 彼女は綺麗で、純粋で利口だ。申し分ない技術もある。美しさをそなえ、王の連れ合いとしてふさわしい。海のうねりに乗ることができる。惚れ惚れするような顔つき、高潔な血統。見事な針仕事の腕。断固とした態度で助言する。畜舎は富んでいて、たくさんの牛がいる。彼女が持たぬものは、空の下にはない。大事な妻は守られるべきだ。だが、彼女は俺に贈られた。あなたとの誓いは破ったが、あなたは俺と匹敵する値打ちの、器量のよい、破壊的な力のある、勝利の戦士を見つけ出せない」

 「それはそうだけど」と、エウェルは云った。
 「あなたが執着している女性は、けっして私よりもすぐれているわけではないわ! なのに、すべての赤は美しく、新しいものだけが白く、頭上にあるものは輝いている。よく知るものは嫌う! 人間は己が持つものを劣っていると思い、欠けているものを崇拝する。じっさいには、あなたはそのときの賢明さを持っているのに!」

 「かつて、私たちは尊敬を持ってともに生活していた。もし私があなたの好意を得られたら、再びそうなるでしょう!」
 哀しみがエウェルに重くのしかかった。
 「誓って云うが」と、クー・フランは云った。
 「あなたは好意を見つけられる。そして俺が生きている限り得るだろう」

 「私を捨てて、すぐに!」と、ファンは泣いた。
 「いえ。私が捨てられるほうがずっとふさわしい」とエウェルは返した。
 「まさか。違うわ」とファンは否定した。
 「私は行かなくては。遠くから危険が迫っている」
 激しく嘆き悲しみたい気持ちが彼女を襲い、彼女のなかで感情がふくれあがった。ファンにとって捨てられることは恥であり、すぐに自身の家に帰ることでもあったからだ。そのうえ、クー・フランにいだいていた大きな愛が彼女を掻き乱した。彼女は悲嘆し、歌を歌った。


   強大な力が駆り立てる
   私は私の道を行かなければ
   ほかの名高き者を待つ
   私はここにいたいのに!

   私たちは安らいでいた
   あなたの力に守られて
   脅威を見つけるよりも
   アイド・アブラットの四阿で

   エウェル! 素晴らしいひと!
   あなたの夫を連れて行って
   私の腕は彼を諦めても
   憧れは私のなかに生きつづける

   秘密の隠れ家に
   いくども私を求める男たちがやってきた
   誰も私との約束は得られなかった
   私自身は情熱に燃えていた

   ああ! 人に愛を与えること
   彼がそれに気づかないならば
   追い払ったほうがいい
   彼が愛するように愛されていない限り

   五十人の女性がここに
   エウェル! あなたが連れてきた
   ファンを捕らえようとして
   殺すことを考えて

   私が必要とする日まで
   私の屋敷で待っている
   あなたの三倍の軍勢! 美しい乙女たち
   戦うならば私が勝利する

 
 さて、これらすべてがマナナーンに明らかにされた。すなわち、アイド・アブラットの娘ファンがアルスターの女性と不適当な争いをしていること、そしてクー・フランが彼女を遠ざけようとしていることを。
 マナナーンは東から夫人を探しに来て、彼らのまえにいたが、ファンひとりを除いて誰も気づかなかった。そして、マナナーンを見て、大きな恐怖と苦しみとがファンを襲い、彼女は詩を作った。


   見て、勇敢なリールの息子よ
   ヨアン・イニリの平原から―ー
   マナナーン、穢れない丘の世界を支配する主
   彼を愛していたときがあった

   今日でさえ、彼は気高く変わらない
   私の心は嫉妬を嫌う
   愛情は先鋭なもの
   労せずして道を作る

   ある日、私はリールの息子といた
   ヨアン・イニリの日当たりの良い宮殿で
   疑いなく信じていた
   別離など、決してないと

   偉大なマナナーンが私をめとったとき
   私は配偶者として価値があった――
   彼は彼の生活のために私に勝利できなかった
   度を越えたフィドヘルのゲームで
  
   偉大なマナナーンが私をめとったとき
   私は配偶者として価値があった
   二重に検査された金の腕輪
   赤面の対価として贈ってくれた

   海を渡るとき、ともにいた
   美しい五十人の乙女
   五十人の男に与えた
   非の打ちどころのない――五十人の乙女

   愚行しない五十の四倍
   それがひとつの世帯だった
   幸せで完璧な百人の男
   美しく健康的な百人の女

   マナナーンは近くに接近している
   海上で彼は加速する
  愚か者の眼に触れず、彼は自由
   騎手にように彼は来るが、船を必要としない
   たてがみのある波に乗る者

   彼はいま、私たちの近くを通り過ぎた
   眺める顔つきで
  妖精たちを除いて、すべての者は禁じられている
   人類のあらゆる群れは、彼の鋭い眼で探索される
   小さくても、隠されている秘密でも

   しかし、私にとっては決意が宿る
   女である私の心は弱いので
   心から、とても愛していた彼から
   脅威と侮辱だけを見つける

   私は行くわ! 名誉のために、穢れのない旅立ちを
   美しいクー・フラン! さようなら
   私の心からの願いは叶わなかった
   気高い正しさが私に逃げろと強要する

   旅立ちのときが来た
   悲しんでいない人がいるのは
   ひどい恥辱だわ
   ああ、ロイグ、リアンガウラの息子

   私は夫とともに去る、けっして敵と争わない
   マナナーンの配偶者をあきらかにしなければ
   私がこっそり行くと、誰も文句を云わないで
   彼を見て! 彼の姿は私が顕にする!


 ファンはマナナーンを追いかけ、マナナーンは彼女を歓迎した。そして云った。
 「ああ、妻よ。あなたは今後、クー・フランにつきそうのか。それとも、私とともに?」
 「誓って云うわ。ついていきたい別の人がいるけれど、私はあなたとともに行く。クー・フランを待つことはない。彼は私を捨て去ったから。そして、もうひとつ、あなたは素晴らしい男性。あなたは堂々とした妻を持たない。けれど、クー・フランは持っている」

 クー・フランは、マナナーンに向かう女性を見て、ロイグに云った。
 「あれはなんだ?」
 「リールの息子マナナーンと行くファンだな。おまえが気に入らなかったんだろ」

 その後、クー・フランは三倍の高さで跳ね、南に向かって三回大きく跳躍し、ルケアに着いた。彼は飲まず食わずのまま、山のなかに長いあいだ留まった。毎晩、眠っていたのは、ルケアの中央を通る道だった。

 それからエウェルはエウァン・ウァハへ行き、コンホヴォルを訪ねた。彼女はクー・フランの状態を彼に語った。
 コンホヴォルは、詩人、技量のある者、アルスターのドルイドたちを派遣し、彼を止め、エウァン・ウァハに連れてくるようにした。クー・フランはしかし、一団を殺そうとした。彼らはクー・フランの足と腕とを押さえ、正気がいくらか回復するまで、ドルイドの呪文を唱えた。
 クー・フランはそれから一団に飲みものを求め、ドルイドは彼に忘却の杯を与えた。
 それを飲んだ瞬間、彼はファンのことも、己がしたことすべても忘れてしまった。
 エウェルに与えられた、嫉妬のための忘却の杯もあった。クー・フランより、彼女はもっと酷い状態であったからだ。
 そしてマナナーンは、クー・フランとファンとのあいだにマントを振った。永遠に、彼らが二度と逢うことがないように。


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