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【翻訳】●クー・ロイ・マク・ダーリの悲劇的な最期●


 現在、4種類確認できる『クー・ロイの最期』のうち、YBL版です。

 

●クー・ロイ・マク・ダーリの悲劇的な最期●

Aided Conroi Maic Dairi
Yellow Book of Lecan
英語版: R.I. Best 【1905年発行の本】



1.
 なぜアルスターの人々は、ダーリの息子クー・ロイを殺したのか?
 語るのはたやすい。
 ファルガの人々の包囲戦から攫われたメンの娘ブラートナドのため、淡い赤色の三頭の牛とオハンの三人の男のため、つまり、よくそのIuchnaの牛の耳に乗っていた小鳥のため。その牛といっしょに大釜が運び去られた。それは彼らの子牛だった。
 大釜の一杯に三十頭の雌牛。鳥がそれらの牛に向かって歌っているあいだ、毎回たっぷりと搾乳されていた。
 それゆえに『幽霊戦車』のなかで、クー・フランは云った。


   砦内に大釜があった
   三頭の雌牛の子牛
   その喉に三十頭の雌牛
   それが大釜の一杯だった

   彼らはその大釜に頼っていた
   闘争は楽しいものだった
   彼らは二度とそこから離れなかった
   それが満杯になるまでは

   そこにはたくさんの金と銀
   それはかなりの発見だった
   俺はその大釜を持ち去った
   王の娘とともに


2.
 ダーリの子クー・ロイは、彼らといっしょに包囲戦に行ったが、彼らは彼を認識しなかった。すなわち彼らはクー・ロイを「灰色のマントの男」と呼んだ。
 砦から連れ出されたすべての長は、「誰が殺したのですか?」と。コンホヴォルは云った。「私と灰色のマントの男」それぞれ順番に答えた。

3.
 しかし、戦利品をわけあっていたとき、彼らはクー・ロイに分け前を与えなかった。正義が彼に認められなかったからだ。
 クー・ロイは牛の間を走りまわり、自身の前に集めた。腰帯のなかに鳥を集め、ブラートナドを脇の下にかかえた。そして、大釜を背負って出て行った。
 アルスターの人々は誰も、クー・フランひとりを除いて、彼と話をすることができなかった。
 クー・ロイはクー・フランに襲いかかり、地に押しつけた。そして剣で髪を刈り、彼の頭に牛糞をこすりつけて帰った。

4.
 その後、クー・フランは丸一年、アルスター人を避けていた。
 しかし、ある日、モーン山地の頂上にいたとき、黒い鳥の大群が海の向こうからやってくるのを見た。彼は即座に、そのうちの一羽を殺した。
 その後、アイルランドの西にある《カラスの嘴》に来るまで、彼はすべての土地で群れのうちの一羽を殺した。つまり、彼が切りとった黒い鳥の頭、《カラスの嘴》はそれから名づけられた。
 これはクー・ロイの拠点の西側で行なわれた。クー・フランは自身に恥をかかせたのが彼であると知った。そして、クー・フランはブラートナドと話をした。海を越えて連れて来られる以前から、彼女を愛していたからだ。彼女はファルガの人々の王、Iuchnaの娘だった。つまり、彼らは海の島々の「防波堤」であった。
 クー・フランはサウィンの夜に、再び西方で彼女と逢引きをした。さらにEraind【マンスターの部族】のある州は、クー・フランとともに出陣した。
 その日、彼女はクー・ロイに助言を与えた。すなわち、アイルランドに立つ、あるいは横たわっているあらゆる柱石で、彼の街のために立派な要塞を建設するべきであると。
 Clan Dedadが一日で要塞の建設に乗り出したので、その日、クー・ロイは要塞にひとりでいた。
 ブラートナドとクー・フランとのあいだには合図があった。つまり、彼女がクー・ロイを洗うとき、川が白くなるように、アルスター人たちの方向にluchnaの牛のミルクをそそぐと。そのようにそれは行われた。川はその結果、《白い小川》と呼ばれるようになった。

5.
 ブラートナドは要塞の前でクー・ロイを捜していた。
 「砦に入って来て。そして大勢のひとが荷を持って帰ってくる前に、洗われてください」
 ちょうどそのとき、彼は頭をあげ、アルスター軍が谷間に沿って、騎馬と徒歩とでこちらに向かってくるのを見た。
 「向こうにいるのは誰だ?」
 「あなたの国民」と、夫人は云った。「砦を作るための石とオーク材*****とを持っている」
 「あれらがオーク材であれば、彼らは素速く移動する。石であれば、勝ち誇っている」
 彼はまた頭をあげ、それらをじっと見つづけた。
 「あれは誰だ?」
 「雌牛や畜牛の群れ」と、彼女は云った。


   「あれらが畜牛であれば、畜牛である
   あれは貧弱な雌牛の群れではない
   すべての牛の背に
   剣を振り回す小さな男がいる」
6.
 すぐにクー・ロイは中に入り、ブラートナドは彼を洗った。そして彼女は、彼の髪を寝台の柱と柵とに縛りつけ、剣を鞘から取り出して砦を開放した。
 彼は男たちが要塞を埋めつくして彼のもとに来るまで、なにも聞いていなかった。
 クー・ロイはただちに起きあがって侵入者に向かい、蹴りと拳の打撃とで百人を殺した。内部にいた従者は彼らに立ち向かい、三十人の英雄を殺した。それについて歌われた。

   「王の従者にもかかわらず
   彼は戦の策に長けていた
   武装した三十人の男を殺した
   それから彼は自害した」

7.
 Senfiacailが最初に叫び声をあげた。それはこう云われた。

   「Senfiacailがやってきた……
   百人の敵を殺した
   彼の戦闘力は素晴らしかったが、
   クー・フランによって死んだ」

 コルブレ・クアナッハが彼らに近づいた。

   「コルブレ・クアナッハがやってきた
   出会い頭に百人の男を殺した
   彼はコンホヴォルとともに戦っただろう
   もし怪物のような海が
   彼を溺死させなかったら」

 つまり、コンホヴォルとともに戦っていたとき、コンホヴォルの息子コルブレは、海の北に燃えさかる自身の拠点を見た。彼はそれを救うために海に入った。彼の泳ぎは見事だったが、溺れてしまった。

   「ダーリの息子、エオヒドの戦い
   岬から峡谷まで
   それは素晴らしい成果、百人の男を殺した
   それは、善き王のための復讐だった」

8.
 叫び声を聞いて、彼らは要塞の周囲に虐殺のためにやって来た。それはアイルランドじゅうのすべての石柱を投げた、the Clann Dedaの叫びだった。
 彼はこう云われた。

   「その後、the Clann Dedaがやって来た
   王を捜し求めて……
   百と三百
   千と二千」

9.
 彼らが要塞の付近で殺し合い、クー・フランが男の頭を離したころ、要塞が燃えていた。
 クー・ロイの詩人、 ファクトナは峡谷で馬のそばにいた。彼は云った。

   「あの若者は誰だ?
   クー・ロイの要塞のそばにいる
   ダーリの息子が生きていたなら
   燃えはしない」

 クー・ロイの御者であるFer Becrachは、コンホヴォルの息子コルブレに降伏し、自身の戦車に乗り込んだ。
 彼は馬を岩にぶつけ、馬も人間も岩に押しつぶされたと云われている。

   「Fer Becrach……
   おそらくおまえの言は嘘ではないな?
   厳しい海中に
   コンホヴォルの息子コルブレを連れて行った」


10.
 それからファクトナがやって来た。
 「そなたがファクトナか?」と、コンホヴォルは訊ねた。
 「確かにそうだ」
 「クー・ロイはそなたに親切であったか?」
 「本当に親切だった」
 「彼の恩恵についていくらか話しなさい」** **
 「いまはできない。王が殺され、私の心は悲しみに暮れている。もし誰も私を殺さないのなら、私の手が自らを殺すだろう」
 詩人ファクトナは云った。

[** 私【英訳者】は、『レカン黄書』の中で物語の連続性を打ち破る困難で曖昧な賛辞を翻訳することを試みなかった]
【一部、英訳の時点で抜けあり】


13.
 「それは王にふさわしい贈りものだ」と、コンホヴォルは云った。
 「彼からはほとんど得られなかった」と、ファクトナは云った。「ブラートナドはどこに?」
 「ここにいる」と若者たちは答えた。
 「彼女の救出の代償として、クー・ロイの首を刎ねてからだ」

14.
 その後、ブラートナドはその岩、すなわち《裁定の地》の岬に押しつぶされた。ファクトナが彼女に向かって突進し、腕のあいだに捕まえたため、彼女の背中で肋骨が折れた。そのまま彼は目の前の絶壁に彼女を強く放り投げ、結果、岩は彼らを諸共ぺしゃんこにした。そのため、彼らの墓は岩の下の岸にある。
 ゆえに、それは歌われた。

   「哀しむべきは
   ブラートナドとファクトナとの闘いだった
   そして彼らの墓は両方とも
   《裁定の地》の有力な土地に」

15.
 それにもかかわらず、虐殺はサウィンから春の半ばまで、毎日増加していた。
 アルスター人は自身の家から行き来し数えていたが、戦士の半分、あるいは三分の一を置き去りにしたと云われている。

  「メンの娘ブラートナドは殺された
   《銀の谷》上流での虐殺で
   夫を裏切る女のための偉大な行為
   それは***** だから」

 さあ、これがクー・ロイの悲劇的な最期です。


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