大手損保における保険料カルテルの疑いについてー法令遵守して頑張ってる担当者が報われてほしいー
少し前のニュースですが、損害保険大手4社と代理店が、企業向けの保険の保険料を事前に取り決める「カルテル」(不当な取引制限)を行ったり、自治体との保険契約の入札で談合を行ったりした疑いが判明しました。
昨年12月19日に、公正取引委員会が、各損保会社さんに立ち入り検査を実施しました。
その後、昨年12月26日に金融庁が発表したのが、各社に対する業務改善命令です。(保険業法132条)
※法文上は、「業務・・・に照らして・・・保険契約者等の保護を図るため必要があると認めるとき」に出されるものですから、現状、独禁法違反が認定されたわけではありません。
また、改善命令に基づく調査結果は、今年の2月29日までに改めて報告をすることになっていますから、その報告結果を待つ必要があるでしょう。
ただ、大手の損保さんにおいて、保険料の金額を事前にすり合わせるような事実が仮にあったとすれば、契約者の方々にとっては損失を被る困った話であり、これまで以上にコンプライアンスの遵守が望まれます。
これは、金融庁が発表したスライドの一部ですが、保険料調整の打診が他社からあり、それに応じたものは39%。そのうち53%が悪いことだと認識していたようです。そうすると、単純計算をすれば約20%程度の回答者は、悪いことと知りつつ、他社からの保険料調整の打診に応じたということであり、担当者の5人に1人が不適切なことをしていたことを意味します。もし、心当たりのある、自覚のある人がこの投稿をご覧になっている場合は、今一度日々の業務を見つめ直して頂きたいと願うばかりです。
他方、上司が認識していたケースは半分以下のようであり、組織的に保険料の調整がされていたと談ずることはできません。
余談ですが、わたし自身、交通事故事案はよく対応してきた者ですから、それなりに多くの損保担当者さんとお話をする機会があります。多くの方は、契約者の方にとってどのような解決が適切か、保険を利用した方が良いいか・薦めるべきか等、真摯に考えていらっしゃいました。一部の不適切な事案が、他の担当者の方についてまでイメージを下げてしまうことはあってはならないことだと思いますね。報われて欲しいなと、思います)
最後に、カルテルとはどのようなものか、簡単にメモ書きで記載しておきます。
複数の事業者が、他の事業者と共同して相互拘束・共同遂行することによって、公共の利益に反して、一定の取引分野における競争の実質的制限をもたらすことが不当な取引制限(カルテル)にあたります。
共同してとは意思の連絡があったことを意味しますが、裁判実務上、一方の価格の引き上げを他方が単に認識しているだけでは不十分ではあるものの、相互に他の事業者の対価引き上げ行為を認識して、暗黙のうちに認容すればよく、拘束し合うことを明示して合意することは求められません(いわゆる東芝ケミカル事件。このようなカルテルは当事者も悪いことを認識しており、明示的に合意することはまずありません。)
保険料の価格に関する行動が一致しているか、事前に担当者同士で連絡や交渉がなされたか、その内容はどのようなものだったか、等が考慮されます。
本件ではどのような判断がされるかまだ分かりませんが、上記の通り、保険料の打診に応じたという行動が、具体的にどのような認識のもとでなされたかが争点になるのかなと思います。
実際、金融庁の上記公表においても、「各社からの報告によれば、別紙のとおり、少なくとも1社の保険会社において不適切行為等があるとされた保険契約者が576先あった」旨の記載がされています。
今後も注目の案件ですね。
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