もう「リスキリングしなさい」と言わないほうがいいのでは?
タイトルが挑戦的になってしまいましたが、リスキリング自体に反対しているわけではありません。
パーソル総合研究所の「学び合う組織に関する定量調査」では、学習者が無学習者よりも、以下の点などでポイントが高いことが示されました。
・働く幸せの実感
・ワークエンゲージメント
・人事評価
僕のメインの活動である、ノンプログラマー向けプログラミング学習やデジタルスキル学習は、まさにリスキリングですが、その活動を通して、いきいきと楽しく学び働く、それが実現されつつある姿をたくさん見ています。
では、今回の主張は何かということですが、こういうことです。
外部から「リスキリングしよう」「リスキリングせよ」とプッシュするのは、もう効果がないのでは?場合によっては逆効果では?という話です。
人は自由が制限・強制されたと感じるときに抵抗し、反発的な感情をもつことがあり、これを「心理的リアクタンス」といいます。それが起きるのでは?と懸念しています。
観察していると、そもそも「リスキリング」というワード時点に、外圧的なニュアンスを感じ、見たくない、反発を感じるという方も少なくないのではとも感じています。
たとえば、先日「日経リスキリングコンソーシアム・アドバイザリーボード」による提言がありました。
「必須の課題である」「今いる会社に漫然としがみつくだけでは、望むキャリアも、生活の安定も得られない。」「日本社会を変革しなければならない。」など強めのススメの表現が見受けられました。
リスキリングを進めようとする取り組み自体は素晴らしいものですが、現時点でリスキリングに取り組めていない、そういった個人や企業が、これらの言葉を耳にしたときに、やる気がむくむく湧いてくるのかというと、そう簡単な話ではないように思うのです。
さて、提言の中で個人に向けたものは、「キャリア自律をしよう」「脱会社依存をしよう」というものでした。
たしかに、終身雇用は崩れつつあるので、キャリア自律は重要と思います。しかし、今現時点で比較的安定して働けているビジネスパーソンにとっては、このメッセージは自分ごととして響かないのではとも思います。
また、提言からは、今の会社で実現できることを諦めているような、そのようなニュアンスも感じます。
まずは、リスキリングは何のためにあるのか?その基本に立ち返る必要があるように思います。
ともにビジネスをしている顧客やチームが、まったくもって順風満帆、何も問題ないということはないはずです。みんな、何かの課題を抱えているはず。
たとえば、顧客が「データがぐちゃぐちゃで困っている」と感じている、同僚が「Excelコピペばかりで腱鞘炎になった」などです。
そこに対するアクションのひとつして、新たなスキルを身に着けて、課題を解決して、貢献して、ありがとうと言ってもらえる。
そういった活動を日々続けていれば、おのずとできることが増えていって、それが結果リスキリングになるのではないでしょうか。
つまり、リスキリングは手段の結果であり、それ自体が目的ではありません。
企業への提言も8つほど挙げられていました。たしかに、それらは施策としてはいずれも有効のように見えます。
しかし、今の状態のまま「燃料」のように施策をプッシュしていくことで、本当に従業員の学びの火が灯るのかというと、それも簡単ではないように思います。
日本のビジネスパーソンは約半数が学びの活動をひとつもしていません。それは、固定観念や潜在的な意識として「自分は学ばなくていい」というラーニング・バイアスが働いているというのが、ひとつの大きな要因と考えます。
また、職場で「学んでいる」と周囲に伝えると「裏切り」だとか「暇人」だとか、そのように思われてしまうのではないか、そういった学びとその共有・発揮に対するネガティブな文化が根付いていることも少なくありません。
燃料をどんどん投下して火をつけようとする前に、個人のラーニング・バイアスを解除する、職場の学びへのネガティブな文化を変えていく、これらを通して、火がつきやすくなる状況をつくる必要があるのではないでしょうか。
そのひとつの成功法としては、トップ自らの越境体験とリスキリングを推進し、シェアするというのが挙げられます。
LIXILでは経営陣すべてがノーコードアプリ開発を習得していましたし、フロント・ワークスやファンテックの事例ではリーダー自ら越境とプログラミング習得をしてました。
それらの姿が全社に伝わるのは、学びは新人や生徒のものだというラーニング・バイアスの解除や、学びに対するネガティブな文化を変える一助になるのではないでしょうか。
他にも「火がつきやすくするための施策」はあると思います。
ということで、リスキリングしろと直接言うのではなく、推進していきたいところ。作戦を考えていきます。
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