#イベントレポート「事業環境を変える!スタートアップが知るべきパブリックアフェアーズ」
「nikkeisha start-up table」では、スタートアップの「1→100」のために、成長期に直面するさまざまな悩みや課題に応えるべく、“社会との対話“の機会を提供しています。
ビジネスやサービスを展開する際に重要な、事業環境。環境は変えられない所与の条件であると、なんとなく捉えてはいませんか?特に、未だ世の中にない新たな事業を興していく際に、政府のルールメイカーや世論に働きかけを行っていくことで、そうした事業環境を整えていく活動が重要になってきます。
先日、「事業環境を変える!スタートアップが知るべきパブリックアフェアーズ」と題して、新しいビジネスを進めていくための「パブリックアフェアーズ」の基礎知識や具体的な実施内容を考えるウェビナーを開催しました。その中で、マカイラ株式会社の高橋朗さんと、株式会社メルカリで政策企画を担当する岡本洋平さんに語っていただいた“チェンジメーカーが知るべきパブリックアフェアーズの基本概論“について、少しだけご紹介します。
■いま必要とされる「パブリックアフェアーズ」とは?
前半では、高橋さんに「パブリックアフェアーズ」とは何か、について教えていただきました。
今まで世の中に無かったビジネスや事業で社会変革を目指す、スタートアップ企業や大企業のチェンジメーカーの方々。そうした方々にこそ必要な、「パブリックアフェアーズ」についてお話しします。
「パブリックアフェアーズ」とは、教科書的には社内外のあらゆるステークホルダーとの関係を構築していくPR(Public Relations)と、政府機関や政治家との関係を構築していくGR(Government Relations)との間に位置するものと定義されます。
マカイラでは、パブリックアフェアーズを、「ある企業・団体が、自分たちのミッションを実現するために好ましい事業環境を整える活動」と捉えています。ここで、「好ましい事業環境」とは、ルール形成やルール緩和、社会からの好感や支持を獲得していくことなどを指します。そのために、公共や非営利セクター、社会や世論に対して働きかけ、自分たちの社会的主張に理解・賛同してくれて、できれば支援してくれる仲間を増やしていく活動がパブリックアフェアーズです。
ここで重要なポイントは、「社会的主張」であるということです。
自分たちの利益だけを主張していては、仲間を増やすことは出来ません。相手や社会にとってもベネフィットをもたらす主張を練り上げて、賛同者を増やしていく仲間づくりが重要なのです。
さまざまな法規制など社会のルールは、当事者側からの要望を受けて、影響を被るステークホルダーたちとの合意形成が行われた後、最終的に変更されたり、形成されます。かつて、霞が関の官僚が(すべてとは言い過ぎかもしれませんが)、世の中の現状やあるべき姿に対して一番多く情報を持っていて、政治家に寄せられる声も踏まえて、おそらくは適切なルール形成が行われてきました。しかし、さまざまな価値観や新しい技術・サービスが出てきた現在では、政治家や官僚も自分たちの情報だけでルールを決めることに、不安をぬぐえません。
そのような中、個社の利益のみを狙った主張を持って行っても、なかなかルール形成にまでは繋がりません。社会全体にどのようなベネフィットをもたらす話なのかを訴えて、反対者も含めたステークホルダー全員の合意形成を目指す必要があります。
まずは、自分たちの利益だけにとどまらず、社会的なベネフィットを広く訴えて、仲間を増やしていくこと。
それがパブリックアフェアーズの取り組みです。
■パブリックアフェアーズの進め方
では、パブリックアフェアーズを具体的にはどのように始めて、取り組んでいけばいいのでしょうか。マカイラが支援する際には、そもそもどんな目的のために(Why)、どんな環境を(What)、どのように実現するのか(How)、というWhy-What-Howアプローチに沿って、「非市場戦略」を検討・立案し、実行していきます。
1.「非市場戦略の検討・立案」
Why(目的)・What(目標)を考えるステップです。
ここで、ビジネススクールでよくみるフレームワークである、3C(Customer、Consumer、Company)を市場戦略、PEST(Politics、Economy、Society、Technology)を非市場戦略と見立ててみましょう。
これまでは、外部環境である非市場部分、すなわちPESTがどのように変化するかの情報をいかに早く掴むことが渉外の仕事で、その上で3C=市場戦略側を迅速に修正して、目的実現を目指すことが企業戦略の在り方だったかと思います。しかし、これからは(世の中にない新しいサービスの社会実装を目指すスタートアップ企業の方々にとっては特に)、外部環境は所与の与えられた前提ではなくて、好ましい方向に変えられる、整えることが出来る対象と考えるべきです。そのような、どういった環境に整えるかを構想するのが「非市場戦略」です。
このように、外部環境は可変であることを前提に、そもそも自分たちはなぜ、何を目指しているのか、いわゆるミッションやパーパスと言われるレベルから深掘り、その目的にはどのような環境が、なぜ、好ましいのかを考えます【Why(目的】。
そのうえで、「好ましい環境」を具体化します【What(目標)】。例えば、どの法令のどのあたりがどのようになれば良いのか、社会のどの層からどのような支持が得られると望ましい環境になるのか、を考えます。
2.「3L(Rule、Deal、Appeal)」
上記で構想した非市場戦略をどのように実現していくのか(How)、実行フェーズの様々な活動を、「3L」と整理しています。「Rule」「Deal」「Appeal」のお尻をとって、3Lです。
まず、「Rule」とは、主に法令などまさにルールの形成・変更を目指す活動です。政策や法制度に関して調査し、あるべき姿をプラン、政策提言の形でまとめるなどして、実現を目指します。その過程で、様々なステークホルダーや政治家・官僚の方々に情報を提供して議論し、提言をブラッシュアップして行ったり、党や行政機関でさらに深い検討をお願いしたりすることもあります。
「Deal」とは、自治体など行政機関との個別の合意の取り付けです。たとえば、企業と自治体が連携協定を結んで新たな取り組みを進める、自治体と企業、さらにはNPOも参加して実証事業を行うスキームをつくる、など、トライセクター・コーディネーションといわれる連携のコーディネーションやサポートを行っています。
「Appeal」は、主に社会から好感・支持を得るための活動です。政策イシューに関するシンポジウムを開く、メディアに取り上げてもらう、あるいはSNS等で発信する、などによって、社会のターゲット層の理解や好感・支持を獲得することを狙います。さらに踏み込んで、社会からの認知・理解を改めるブランディングサポートまでさせていただくこともあります。
■いま求められる社会的主張の大切さ
現代では、テクノロジー・イノベーションに加えて、社会的課題を解決するソーシャル・イノベーションが求められているのだと思います。
今、日本では、既存の産業構造の大転換や少子高齢化、地方経済の衰退など、従来のやり方では解決できないことが増えています。世界でも、地球環境保護やダイバーシティへの意識の高まり、貧富の差の拡大など、この一年でこのあたりに関する意識が急速に高まっています。このような時代だからこそ、テクノロジーによるイノベーションだけでなく、ソーシャルによるイノベーションも求められているのだと思います。こうしたイノベーションの担い手であるスタートアップ企業やNPOにとっては、大きなチャンスです。
加えて、各国中央銀行の金融緩和を映じた「世界的なカネ余り」を背景に、今は、「投資先」と「投資する理由」を求めて、行き場のないおカネが余りまくっている状況だと私は考えています。逆に足りないのは、イノベーションを実現する「種」を持ち、社会的なインパクトを創り得るストーリーやロジックを持つスタートアップ企業やNPOです。
SDGsの認知が広がるなかで、とくに欧米の投資家にとってはESG投資が当たり前の話になり、大企業に対しても、社会的インパクトをもたらしうるようなストーリーとロジックを求めるプレッシャーが増しています。そして、大企業もまた、自分たちのミッションやパーパスに正当性や社会的意義を与えてくれたり、新しい知見やアイデアをもたらしてくれたりするようなスタートアップ企業やNPOを求めています。こうしてスタートアップと大企業が社会的視点で繋がった先に、さらに大きなソーシャルインパクトがつくれるのではないかと期待しています。
マカイラでは「社会変革組織のための公共戦略パートナー」というミッションを掲げ、スタートアップ企業やNPO、大企業の事業環境を整え、そのミッション実現をもっとサポートしていきたいと考えています。
願わくば、いったん社会課題を解決して事業環境を整えると、さらに大きな課題に直面し、取り組まざるを得なくなる。その解決のためには今まで仲間にしていなかったような方々を仲間に加え、新しい仲間がいるからこそより大きなインパクトを創ることができる。その暁には、さらに重要で大きな課題にも取り組めるようになってくる、そんなインパクト拡大再生産サイクルを、ぜひ皆さんとご一緒に創っていきたいと願っています。
■メルカリが取り組むパブリックアフェアーズ
続いて、メルカリの会長室政策企画マネージャーの岡本さんから、実際に取り組まれているパブリックアフェアーズの実例をご紹介いただきました。
メルカリのコーポレートミッションは「新たな価値を生みだす世界的なマーケットプレイスを創る」です。世界中の個人と個人とを繋いで、誰もが簡単にモノの売り買いを楽しめる、それにより資源を循環させる豊かな社会、個人がやりたいことを実現できる社会をつくっていきたいと考えています。
従来の消費社会は、製品開発から調達・製造、消費者に渡り、そして最終的に廃棄に至る、という流れでした。そこにメルカリのような二次流通が入ることで、古いものがお客様の間を転々と流通していく、それによって、資源が有効に使われていく、さらに、いつか回収されて(一部は廃棄されるかと思いますが)再び製品開発に活かされていき、ぐるぐると循環されていく、そのような社会を目指しています。
今回は、こうした社会を目指しているメルカリの政策企画チームがどのようなパブリックアフェアーズを行っているのか、実例をご紹介します。組織の意見とは異なる部分もございますが、担当個人の見解としてご了承いただければと思います。
メルカリにおけるパブリックアフェアーズは、「事業成長の支援」と「会社の信頼獲得」のためにあらゆることをします。その中でも、業務は大きく3つに分類されます。
1つ目は、非ビジネス領域での「事業支援」「信頼獲得」になります。さらに、この中にも「攻め」と「守り」の2種類があります。
2つ目として、ビジネス領域での事業支援というのもあります。ビジネスパートナーとのアライアンスづくりや、事業開発部門の交渉支援なども行っています。
3つ目に、社会におけるより良いルールづくりへ貢献していく、というのも私たちの業務となっています。
■非ビジネス領域での「事業支援」「信頼獲得」の具体例
今回は、非ビジネス領域での「事業支援」「信頼獲得」をご紹介いたします。
【攻め】
具体的には法律・ルールを変え、できることを増やしていくというのが主となります。この中でも、新しい技術・ビジネスに合ったルール作りを行うよう働きかけることが、従来の狭義のロビンイングと言われていたような分類かと思います。また、業界横断の自主規制や、官民で連携した共同規制の導入なども、「攻め」の取り組みです。
上記の図で赤いエリアが、現行の法規制で出来ることです。法・ルールを改正することで、新たな実行可能な戦略群が図の青いエリアにまで拡がります。
【守り】
守りでは様々なリスクに対処します。
法的リスク・政治的リスクの一つの例として、模倣品対策があります。模倣品が流通することは違法ですし、また政治からの圧力もかかる可能性があります。それらに対処するため、メルカリでは、権利者や同業他社の皆さまとCIPPというに加入し、一緒に模倣品対策を考えるということもしています。また、権利者の皆さまがメルカリに申し立てしやすいように、「権利者保護プログラム」も提供しています。
それから、様々なレピテーションリスクもあります。最近の例では、中央省庁とも予め相談し、新型コロナワクチンの接種券が出品されるのを事前に禁止するという動きをとりました。こうしたものが出品されることで批判を浴びるリスクを事前に回避した例と言えます。
経営陣からは、「政策企画チームには、社会がどうなるのかを考え、社会が変わるときに生まれる各課題をポジティブに解決すること」が求められています。
しかし、社会を変えていくことは、1社だけではなかなか難しいことですが、メルカリは様々な公的機関、民間いずれのステークホルダーに囲まれており、こうした方々に日々情報提供や巻き込みを図り、大きな社会の動きに繋げています。また、必ずしもステークホルダーに向けての働きかけだけではなく、逆にそれらのステークホルダーの方々の意見を社内に取り込んでくる、必要に応じて社内そのものも変えていくということが必要だと考えています。
以上を踏まえ、パブリックアフェアーズの事例をご紹介いたします。
●事例1(事業支援/攻め)
スマート払い提供サービスに関わる法改正
少額与信サービス等の登場に合わせて、先般、割賦販売法が改正されました。改正によって、AIを使って与信をすることが可能となりました。
従来は画一的な方法で行うとされていた支払い可能見込額調査ですが、メルカリではフリマアプリの使い方をみることで、どのくらい与信をしても大丈夫かを、AIで審査することが可能です。
そうした方法が法的にも可能になるよう、経済産業省の審議会に参加して、「こうした技術があります」ということをご紹介させていただきました。また、その他にも、さまざまな業界団体とも一緒に動いていました。この時期に、政府側もAIの活用を推進していましたので、その文脈に沿う形となったこともあり、改正に至りました。
●事例2(事業支援/攻め)
製品安全サポート
メルカリでは、製品をお持ちの方、すなわち、出品者の方、購入者の方の情報を持っています。そこで、製造事業者や輸入事業者の皆様とメルカリが連携し、それらの事業者様が日々お客様に発信されている製品安全に関する情報をメルカリから出品者・購入者の方にお届けする「製品安全サポート」を立ち上げました。製品をお持ちの方にピンポイントで情報が届きますので、例えば、もし製造事業者様が製品を回収するとなった場合には、お届けする情報に製造事業者様の連絡先を付すことで、お客様から製造事業者様へ回収のお問い合わせが行きやすくなります。
このサービスは、製造事業者様などからのご意見も聴取しながら立ち上げました。製造事業者様や輸入事業者様など、あらゆる事業者にとって共通課題と言える製品安全の確保に寄与するとともに、メルカリとしては循環型社会の構成員としての機能強化につながる施策です。
●事例3(事業支援/守り)
キャッシュレス決済における不正対応
昨年、キャッシュレス決済の不正利用、銀行口座の不正利用が相次いでいました。
そんな中、キャッシュレス事業者にとって、キャッシュインの元となる銀行口座との接続が停止されるということがありました。停止されると、当然キャッシュレスサービスにお金が入らなくなるため、決済に使えず、事業としては死活問題になります。キャッシュレスサービスが使えなくなれば、これまでキャッシュレスを推進してきた政府の取り組みに逆行することにもなります。
そこで、キャッシュレス推進に寄与するためにも接続を再開する必要がある、ということを政府当局等に御説明しました。他方、それだけではなく、こうした事態の原因となった不正利用を防ぐことも重要です。メルカリでは、接続再開の必要性を訴えるだけでなく、自らも不正対策・セキュリティ対策の水準を引き上げていきました。自社の意見を訴えるだけでなく、ステークホルダーの意見を取り入れて自らも変えていくことで、結果として、無事に銀行口座との接続が再開できました。
●事例4(信頼獲得/攻め)
メルカリ寄付
メルカリ寄付とは、モノを売って得た売上金を、さまざまな団体に寄付できるというサービスです。社会課題の解決に貢献し、会社とサービスの信頼獲得を目指しています。また、先日、3月11日には東日本大震災の被災自治体を寄付先に追加し、アプリ上でのポップアップ表示も行いました。被災自治体には、復興支援も継続していきます。
●事例5(信頼獲得/攻め)
マーケットプレイスに関する有識者会議
コロナ禍の影響により、昨年、マスク等の品薄が問題となりました。そのような中で、メルカリとマスクの品薄の関係性についてさまざまなご意見をいただきました。
そこで、メルカリとしても、社会の中での二次流通マーケットプレイスが果たすべき役割と機能とは何なのかということを改めて考えていこうと、有識者会議を設けました、有識者会議で議論をした結果を踏まえ、「安全であること」、「信頼できること」、「人道的であること」を柱にした「マーケットプレイスの基本原則」を策定しました。
社内的には自主規制によるリスク回避にあたりますし、対外的には消費者の保護や透明性の向上による信頼獲得につながる取り組みです。
●事例6(信頼獲得/守り)
ECモールの消費者保護に関する団体
消費者庁の検討会で議論されてきたオンラインマーケットプレイスに関する消費者保護の新しい法規制が、先日、閣議決定されました。
その議論の中で、オンラインマーケットプレイス業界各社の消費者保護に関する取り組みを積極的に情報開示すべきではないかとの指摘がありました。
業界としても日々意見交換をしていたところですが、そういうことであれば、情報公開を積極的にしていこうということで「オンラインマーケットプレイス協議会」という団体を昨年8月に立ち上げました。情報公開を進めることで、消費者の合理的な選択に役立ちます。また、消費者保護は消費者庁だけでなく政治も含めさまざまなところで議論されていることですので、積極的に取り組むことで事前に様々な観点でのリスクの回避につながる取り組みと言えます。
以上のように、メルカリのパブリックアフェアーズでは、事業成長の支援と会社の信頼獲得のために法律・ルールを変えるだけではなく、さまざまな打ち手を打っています。そのために、個社で動くこともあれば、業界団体をつくって業界をあげて動くということもしています。
これらの動きに共通する重要なことは「社会がどうなるのか」を考えて動く、社会が変わる時に生まれる課題をいかにポジティブに解決していくのか、これを念頭に置きながら、業務を進めていくことだと考えています。
■パブリックアフェアーズをより多くの方へ
事業環境を整えていく「パブリックアフェアーズ」。その概念や取り組み方について、ご紹介いただきました。今まで世の中に無かった新しい事業やビジネスを行うスタートアップ企業にとって、ルールを変えて、世論の支持を得て、事業環境を整えていくことは非常に有効な手段になるはずです。
1社だけでは出来ないことも、さまざまなステークホルダーや業界他社と情報交換をしながら進めていくことで、より大きな取り組みへと拡大させることが出来るはずです。
そのときに必要なことは、視座を高くもち、社会的視点で考えられるかどうか。「nikkeisha start-up table」とマカイラでは、そうした社会接続を今後も支援していきます。
より詳しく知りたい方や、一緒に社会への働きかけを行っていきたいという方は、ぜひご連絡ください。
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