わかりやすさと複雑さ - 「現代アフリカの紛争と国家」
「現代アフリカの紛争と国家」を読んだ。400ページ強あり、読むのにかなり骨が折れる。冒頭にいきなり余談だが、読書する際は、マインドマップでメモをとると便利でおすすめ。
前回の「ジェノサイド再考」の読後感と同様、ルワンダ史の複雑さを感じる一冊だった。
本書では、1990年代にアフリカで多発した紛争を「ポストコロニアル家産制国家(PCPS)」というモデルを用いて説明する。
ポストコロニアル家産制国家は、以下4つの特徴を持つ。
① 家産制的な性格を有すること
支配者を頂点とする恣意的な統治体制が敷かれており、支配者と被支配者の関係はパトロン・クライアント関係によって結びついている。
② 暴力的・抑圧的であること
支配者が軍事権・裁判権を恣意的に(服従者や、自分のパトロン・クライアントネットワーク外の者に対して)行使する。
③ 主権国家体制の中に位置付けられ、そこから国内党内のための資源を獲得すること
国外から調達した政治的経済的資源を国内統治安定化に活用する。旧宗主国からの経済的・軍事的支援など。
④ 市民社会領域を侵食すること
経済面でいえば、国家が経済開発を主導し、市場に対して介入する。企業の国営化や各種規制など。政治面でいえば、市民の政治・社会運動の抑圧など。
ざっくり言えば、
一人の支配者が、国内/外の各種資源(政治・経済・司法・軍事)を独占して、恣意的(時に暴力的な)な統治を行なっている国。
特に、③の、海外からの援助や軍事支援を国内統治に活用する点(国外にはいい顔して / もしくは東西冷戦の覇権争いをうまく使って金と軍事的援助を取ってきて、国内統治にガンガン活用)が興味深い。
なお、このポストコロニアル家産制国家の特徴は、植民地時代の統治手法の特徴と酷似している(というより植民地統治の手法を独立後の国家が引き継いだと言える)という点もまた面白い。
90年代のアフリカの紛争は、このような特徴を持つPCPSが解体する過程で発生したものであり、解体の契機は、
・国内の経済危機
・国際的な経済自由化の流れ
・冷戦終結に伴う政治的自由化の流れ
にあったという。
(ほぼ、国際的な流れの影響だなぁ)。
80年代以降、アフリカ諸国は長期的な経済停滞・危機に見舞われる。一次産品の値下がりや債務危機(中南米を起点に起きた債務危機で、アフリカに対する資金供与が厳しくなる)に襲われる。またそもそも国家が市場に介入して非効率な経済運営をしていたことも問題。
そんな経済危機の中、1980年代は世界的に新自由主義的な経済思想の流れがあり、世銀やIMF主導による経済自由化政策が導入される。(筆者が大嫌いな)構造調整プログラムなんかそれ。
(簡単にいうと、金が欲しけりゃ政治と経済の自由か進めい!というやつ。金の力を使って現地の事情を無視し、欧米の価値観をゴリ押しするもの、と個人的に見ている)。
また、冷戦終結に伴い、急速に政治的自由化が進む。冷戦後、アフリカの戦略的な価値が低下すること、先進国はアフリカの人権抑圧や汚職に目をつむって援助・支援をすることができなくなった。援助が欲しけりゃ、民主化(多党制の導入)を進めい!、的な。
PCPSでは、国内外の資源を独占して、それを元に統治を行なっていくが、
経済危機で、経済資源の総量が減り、
経済自由化で、国内から獲得できる経済資源の量が減り、
(国営企業の利益など、国内の経済資源を吸い上げられなくなる)
冷戦終結で、国外からの資源(経済・軍事資源)の獲得量が減り、
また民主化・多党制の導入で、各種権力資源(政治・軍事・司法)が揺らぐことになった。
統治の資源(力・源)を失うことで、アフリカ諸国の政治が不安定になり、紛争の契機となった。
ルワンダのジェノサイドも、大枠はこのPCPSのモデルにて説明でき、それはこのモデルで説明できる紛争の究極系でもある。
・・・
ルワンダのジェノサイドは、至極単純に理解しようとすると、フトゥとトゥチの「部族対立」である、と言える。
でも、その理解は、正しくない。
ただ、だからと言って、ルワンダのジェノサイドを正確に把握しようとするならば、複雑で、膨大に絡み合う事象を、しっかりと理解しなければならない。
そんなこと、普通の人はできない。
(というか、興味なくてしたいとも思わないと思う)
これは、別にルワンダに限らず、全てのことに言えて、
どんな(単純簡単に見える)出来事でも、それには複雑な背景がある。
単純で短絡的な理解は、危険だけど、
複雑さを理解するのは、困難である。
なかなかに難しい問題である。