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S高等学校 吉村 総一郎校長に聞く、VR教育のあれこれ
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吉村 総一郎(よしむら そういちろう)先生
1982年広島県呉市生まれ。S高等学校校長。N高・S高等学校とN予備校でプログラミング講師をしている教育従事プログラマーでもある。
引用:https://www.soichiro.org/
私が入学したころはまだN/S高等学校でVR教育は導入されていませんでした。ではVRという既存技術をなぜ、教育へと活かすのか。
日頃からVRのゲームで生徒と盛んに交流し、プログラマーとしての経験も豊富な吉村校長に、素朴な疑問から、校長の考えるビジョンまで幅広く、深堀りさせていただきました。
取材・文=若宮 佑真
S高等学校 校長までのキャリア
ーー今はS高等学校の校長をされている吉村総一郎校長ですが、それまではどんなキャリアを歩まれてこられたんですか?
もともと自分は大学時代は東京工業大学の生命工学科という所で、細胞生物学などに使う顕微鏡の開発をやっていました。その時に画像解析などでプログラミングが必要だったので、プログラミングの技術を身につけながら研究をしていました。
自分の周りの皆は、就職をするときに製薬企業だったりだとか顕微鏡の企業などに行く人が多かったんですけど、自分はプログラミングの技術が、すごい楽しいなと思ってシステムインテグレーター(主に個別のサブシステムを集めて1つにまとめ上げ、それぞれの機能が正しく働くように完成させる仕事)に就職しました。
そして、そこの会社では金属の金型を設計するための支援システムなどを作っている会社で、そこのシステムリーダーをしたりしました。
その後に株式会社ドワンゴに転職しました。
そのころはまだ「ニコニコ」とか「ニコニコ生放送」などはメジャーではありませんでしたが、ニコニコ動画のツールなどを色々作っていたので、ニコニコ行ってみようか!ということでドワンゴを受けてみたら受かって、そこでは、ニコニコ生放送の開発リーダーなどをしていました。
その後、学校法人角川ドワンゴ学園理事の川上量生(かわかみ のぶお)さんから、新卒メンバーをエンジニアとして育ててきた実績などが評価されて、N高でプログラミング教育を目玉として作ってほしいと言われました。そして2016年からコンテンツ開発やシステム設計などに関わり、N高等学校のIT全般の担当部長のようなことを任された後、N高等学校の副校長を経て、現在S高等学校の校長もする事になりました。
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なぜ今、VR教育なのか?
VRに興味を持ったきっかけ
ーーVRに興味を持たれるきっかけは何でしたか?
VRがすごいなって聞いたきっかけは、ドワンゴの中のエンジニアだった時に、VRが好きな人たちが結構いました。その人たちが「Oculus」っていうのはすごいぞって話になって、その「Oculus」の最初の製品版が発売されて、それを輸入して買ったって言う人がいたんです。
その時にマインクラフトのVRを体験させてもらったんですよね。VRゴーグルを被って、切り立った壁を歩かされたんです。それがマジすごいなと思ったのを覚えてますね。
なぜ今VR教育なのか
ーーなぜN/S高等学校でこのタイミングでVRを活用した教育を始めようと思ったのですか
なぜ今のタイミングだったのかっていうとやはり「Oculus Quest」という存在が非常に重要だったと思います。VRの技術って結構2012年くらいからあったんですが、まだまだ値段も高かったし荒削りな技術だったんです。ですが「Oculus Quest」は技術的にすごく成熟していたんですよ。
ここ数年くらいで急激に技術が進歩して、多くの人がちゃんとVRを使って学ぶことができるってことが分かってきたんですね。そこが一つの大きな転機だったと思います。
※Oculus Quest(オキュラス クエスト) N高等学校でバーチャル学習に使われているVRデバイス。FaceBookの社名変更のためMeta Questに名称が変更される。
VR教育が必要な理由
ーーなぜN/S高等学校でVR教育が必要なのですか?
VR教育って、実は研究ではずいぶん前から、VR教育でのトレーニングがすごく教育効果が高いと言われてたんですよ。ただ残念ながら、その当時はそれを実現するためのデバイスがまだあまり一般的になっていませんでした。なのでVR教育をずっとやりたかったんですけれども、できていなかったっていう状況がありました。
そしてVR教育って具体的に何が良いかというと、やはりオンライン学習の弱点を克服することができる技術だという点です。
オンライン学習は、スマホなどを使えば動画を見ながら24時間どこでも高品質なものが学べるなどメリットがあるのですが、今のオンライン技術だけだと集中して学ぶには何か足りないんですよね。やはり小さい画面を見たりして学ぶのは大変ですし、全身を使って体感で学習することはできないんですね。
ネットの学校でのオンライン学習って体力作りの面でもすごい不安があったんですよ。生徒の皆さんは高校生なので、体力作りができないと将来にいろいろな不安があったりするので、基礎の上で体力作りは重要なんですよね。
VRの教育は、集中して学べますし、全身で体験して学習できることが利点なんです。
また従来のオンライン学習では、、コミュニケーション能力が高まらないんですよね。オンラインの既存のチャットやZOOMだけでは、非言語のコミュニケーションまで教えられないことも問題だと思っていました。
VRでは非言語のコミュニケーション能力が高められるんですね。
ZOOMやSlackなどは、言語コミュニケーションですよね。言葉や文字を使ってコミュニケーションをとるっていうのがメインなんですけれども、非言語のコミュニケーションは相手との距離感や首をかしげたり動作を含めたコミュニケーションなんですよね。
だからタクシーの中で話す時、密室の中で話す時、教室の中で話す時、浜辺で海を見たり、星を見上げながら話す時など、やはりそのシチュエーションによってやはりコミュニケーションの幅って変わってくるのですよね。
そういったものを全部、VRのコミュニケーションですることができる。
体を動かすアプリケーションが沢山あって、スポーツもできるので、そして体力をつけることができる。そういった物も含めてVRってオンライン学習の欠点を全部補うことができるのだと思います。
これからのVR教育
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VR教育を使って新しくできる事
ーーVRを活用した教育によって、新しくどんなことが出来るようになると思いますか?
たとえば、まさに今やっている最中(2022/02/24現在)のVR修学旅行ですよね。こういったものは、VRがないとできなかったことだと思います。
VR修学旅行は世界中のいろいろな名所を回ることなどをしています。VR上での修学旅行はリアルだと絶対できないことができますよね。
たとえばナスカの地上絵だと、実際にペルーに地上絵を見に行くのって結構大変なんですよ。地球の裏側なので、時間がかかりますし、おそらく宿泊とかガイドをつけて往復したりすると、普通に数百万円ほどかかると思うんですよ。それがですね、VRを使うと、安全に簡単に体験できる。そういった体験ができるというのは非常に価値のあることかなと思います。
もちろんVR修学旅行だけじゃないです。面接練習や英会話のトレーニング、ダンスや写真撮影をするワークショップなど、シチュエーショナルな体験ができます。そういうのはバーチャルの空間ではやりやすいけど、実際にやろうと思うと機材の購入など、いろいろ大変だと思うんです。でもバーチャルなら準備が必要な体験も結構簡単にできるんですよね。
これからVRを使ってやってみたい事
ーーこれからVRを使ってやってみたい取り組みや活動などはありますか?
これからVRでやっていきたいことはいっぱいあるんですけど、自分は国際交流とスポーツをしてみたいと思っています。
国際交流とスポーツにすごい可能性があると思っていて、今もVRのスポーツはあって、N/S高の生徒の中でも流行っていたりするのですが、なかなか敷居が高いんです。気軽にできるタイプのスポーツが、もっと普及できないかなと思っています。体を動かしてコミュニケーションをとることが楽しいみたいな”箱”を作っていければすごく嬉しいなと思ってます。
インタビュー後に・・・
ーー私からのインタビューの時間は以上にさせていただきます。本日は本当に面白い話を聞かせていただいてありがとうございます。私は今まったくVRに触れていないのですが、今後はVRを使っていろんなことをしてみたいなと思いました。
最後に一点だけ、VRって汎用技術で、スマホと同じようなものなんですよ。
例えばガラケーしか使ってないおじいちゃんに、「スマホは使わないので必要ない」みたいなふうに言われたときに、そのスマホの良さを伝えるのってけっこう大変ですよね。電話をかけたり写真を撮ったりはガラケーでもできますし、アプリも「iアプリ」などのサービスが使えるので、なかなか良さを伝えるのが難しいんですよ。
VRもそれと同じで、360度の視界が変わって耳から聞こえるものも全部変わるユーザー体験を言葉で伝えることは難しいんですよね。だから本当に触ってもらうしかないかないと思っています。百聞は一見にしかずってことですね。ショップなどでぜひ体験していただきたいなと思います。
おわりに
VRの体験は言語化しづらいものではありますが、たしかに教育分野において大きな役割を果たしていることを認識しました。私も最近までなぜN/S高等学校でVRが必要なのか疑問に思っていましたが、吉村校長のお話を聞いて少し理解できた気がします。
この場を借りて取材に協力して下さった皆様にお礼を申し上げます。今後ともN/S高新聞をよろしくお願いします。
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