♯3 人工呼吸器下の患者に対する腹臥位は死亡率を減少させる
さて、CQの改良もできたところで、論文を見ていきましょう。
今回紹介する論文はこちら
はい。論文のタイトルに結論が書かれているので、潔く書きます。
結論
P/F比(PaO₂/FiO₂比)が100mmHg未満の人工呼吸器下の患者に対する
腹臥位は、死亡率を16%減少させる
結論だけ知りたい方はここで読み終えていただいても構いません。しかし、本論文には腹臥位実施による合併症に関する記述もあるため、ぜひ最後まで読み進めていただけると幸いです。では、まず本論文の研究方法から。
システマティックレビューとメタアナリシスについて
研究の初学者の方であれば初めて聞く言葉ではないでしょうか。一言でまとめると下記となります。
システマティックレビュー:特定のテーマに関する既存の研究を体系的に集めて分析する手法
メタアナリシス:システマティックレビューの一部として行われることが多く、複数の研究結果を統計的に分析し、効果の大きさを数値で示す手法
要は、同様のテーマの論文をまとめてくれている論文という理解でいいと思います。なので、CQを定めて論文を読み始める時には、これらの手法を用いた論文を読むことで、該当テーマで明らかになっている現状が概観できるのでオススメです。では、次に要約を。
要約
本研究で明らかにしたいことは、「急性低酸素性呼吸不全および重度の低酸素血症患者において、腹臥位換気が仰臥位換気と比較して死亡率を低下させるかどうか」
本研究は、2010年に発表されたものである
対象とした論文は、(1)人工呼吸器管理下で、P/F≦300 mmHgの成人または新生児を過ぎた子供を対象とした論文、(2)腹臥位の介入を2日以上行っている論文の計10本
1日当たりの腹臥位の実施時間の中央値は14時間、実施期間の中央値は4.7日間であった
P/F比が100mmHg未満の人工呼吸器下の患者に対する腹臥位は、死亡率を16%減少させる。一方、P/F比が100mmHg以上の患者に対する腹臥位は死亡率に対する影響を及ぼさなかった
腹臥位の実施1~3日間は、P/F比を27~39%増加、人工呼吸器関連肺炎(VAP)の発生率を低下させたが、挿管期間の短縮には至らなかった
腹臥位は、褥瘡の発生、挿管チューブの閉塞、胸腔ドレーンの抜去のリスクを増加させる
総評
論文を読んで最初に感じたことは、「この結果を臨床現場に共有したい」ということです。僕は救命救急センターに所属していた頃は、P/Fが100mmHg以下の重度の低酸素血症の患者には腹臥位を行わず、比較的安定している患者に30分ほどの短時間の実施をしていました。これを読んでくれている読者の方も同じような介入をしていないでしょうか?
もしそうであれば、明日から重度の低酸素血症患者に長時間の腹臥位を行ってみましょう。勿論、複数人で安全に留意しながら。
他方、本研究は2010年に発表されているものであり、発表から14年の月日が経っています。そのため、新たな知見が生まれている可能性はあります。
また、この論文を読んでも、僕が掲げたCQにすべて答えているわけではありません。具体的には下記です。
45~60度の斜位をつけた側臥位や完全側臥位の有効性
腹臥位の最適な実施時間と期間についての探求
そのため、今後は、今回取り上げられた論文の枝葉となる10本の論文の内容や、上記のCQに関連した論文を探していこうと思います。