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♯2 人工呼吸関連肺炎(VAP) 疫学とCQの改良


無事、自己紹介を終えたので改めて記事を書いていきます。
前回は、人工呼吸器装着下の患者を受け持ったことがある多くの看護師が抱くであろう臨床疑問(CQ)を紹介しました。
次のステップとしては、CQにケリをつけるべく論文を探すのですが、まずは人工呼吸関連肺炎のことを知るべく、ざっくりと情報収集をします。

定義

人工呼吸関連肺炎(ventilator-associated pneumonia: VAP)は、気管挿管下人工呼吸を開始して48時間以降に新たに発生する肺炎を指します

成人肺炎診療ガイドライン2017より一部抜粋

発症率

VAPはICUにおける最頻の感染性合併症であり、報告により異なるが全挿管患者の8~28%が発症します¹ ²。VAPの発症率は入院初期に最も高く、VAPの約半数は、人工呼吸開始後最初の4日間に発生します。また、人工呼吸開始後5日間で3%/日、5〜10日目で2%/日、以後1%/日の割合で増加すると推定されています³。

1. Rello J, Ollendorf DA, Oster G, Montserrat V, Bellm L, Redman
R, Kollef MH. Epidemiology and outcomes of ventilator-associated pneumonia in a large US database. Chest 2002;122:2121.
2. Chastre J, Fagon JY. Ventilator-associated pneumonia. Am J Respir Crit Care Med 2002;165:867–903.
3. Cook DJ, Walter SD, Cook RJ, Griffith LE, Guyatt GH, Leasa D,
Jaeschke RZ, Brun-Buisson C. Incidence of and risk factors for venti- lator-associated pneumonia in critically ill patients. Ann Intern Med 1998;129:440.

死亡率

VAPの死亡率は24〜50%に達し²、VAPを発症していない患者と比べ、死亡率は2倍になると推定されています⁴。

4. Safdar N, Dezfulian C, Collard HR, Saint S. Clinical and economic consequences of ventilator-associated pneumonia: a systematic review. Crit. Care Med. 2005; 33:2184-2193

リスク因子

VAP発症のリスク因子は長期人工呼吸管理、再挿管、発症前の抗菌薬投与、原疾患(熱傷、外傷、中枢神経疾患、ARDSなどの呼吸器疾患、心疾患)、顕性あるいは不顕性誤嚥、筋弛緩薬の使用、低い気管チューブのカフ圧、移送、仰臥位など多数存在します²

VAPバンドル

VAPバンドルは、VAP予防のために一連の対策を組み合わせたケアプロトコルであり、その実施がVAP発症リスクを減少させることが示されています。

I. 手指衛生を確実に実施する
II. 人工呼吸器回路を頻回に交換しない
III. 適切な鎮静・鎮痛をはかる。特に過鎮静を避ける
IV. 人工呼吸器からの離脱ができるかどうか、毎日評価する
V. 人工呼吸中の患者を仰臥位で管理しない

バンドルとは”束”のこと。上記のケアを複数項目行うことでVAPの発症率を減らすことが可能となります。

日本集中治療医学会 ICU機能評価委員会 人工呼吸関連肺炎予防バンドル 2010改訂版より


ここまで概観して

VAPは、発症すると治療に難渋し、死亡率も高い。また、VAPの定義が曖昧なため、誤嚥性肺炎などとの鑑別が困難という特徴があります。さらに、既存のスクリーニングでは主観的な要素も含んでおり、診断が困難ということが分かりました。今の予防策としては、VAPバンドルが主流のようですね。

VAPからVAEへ

先日、同じ研究室でNPコースに所属している友人にこの件を伝えると、「今はVAPではなくVAE(ventilator-associated events :人工呼吸器関連イベント)を使用しているよ」とアドバイスをもらいました。

恥ずかしながら知りませんでした。。。餅は餅屋ってことですね。今回は、CQの解決に繋がる論文を探したいため、VAEに関して詳しく言及はしませんが、VAEはVAPの前段階として位置づけられており、VAPと比べると診断指標が客観的であるという特徴を有しているようです。そのため、VAEを早期に鑑別することでVAPの予防が期待できるようです。

CQの改良

先ほども述べましたが、VAPは診断が困難という特徴を有しているため、元々のCQでは、該当する論文が少ないのではないかという疑問を抱きました。そのため、CQを改良します。

人工呼吸器装着中の患者に対する側臥位の体位交換は人工呼吸関連肺炎(VAP)の予防に有効なのか?

以前のCQ

人工呼吸器装着下の患者に対する側臥位や完全側臥位、腹臥位等の体位交換は、患者の健康アウトカム(死亡、挿管期間、肺炎の予防)を改善するか?

改良したCQ

こうすることで、人工呼吸器装着下の患者に対する側臥位や完全側臥位、腹臥位による効果を幅広い視点で知ることができます。
このようなCQの改良は、研究に取り組むときにもよく行われます。洗練されたCQは、良い研究を生み出します


次回予告

次回は、いよいよCQの解決に繋がる論文を紹介しようと思っています。こうご期待!


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