企業ステージを転換する仕事を知る
株式公開などを目指す中堅企業へ入社して、それぞれの仕事をおこなっていく上では、いくつかの根本的な課題があります。
第一は、入社直後は従来から継続されている創業経営者主導による事業運営が、当然ですが継続しておこなわれており、すべての懸案事項について経営者が決裁するという事実です。
この点、大手企業出身者がもっとも驚くことであり、自分がなんのために入社してきたか、という存在意義が見出せなくなる原因にもなります。
どうしても、これまで在籍していた大手企業の経験や実績をベースに物事を考えてしまい、新たな企業へ入社してその企業を前進させていくといった気構えがあり、処遇や役職などによって、つい力がはいってしまう、と言えるでしょうか。
また、目の前にある混沌とした状況をなんとかしたいという前向きな思いや姿勢から、じっとしておれないことのほうが自然なのかもわかりません。
しかし、この事態は当分続くと思っておいたほうがよいでしょう。
創業経営者は、確かに自社の次のステージへ向かって挑戦しています。
だからこそ、新たな人材を採用するのですが、一方既存の機能、いわゆる「ワンマン体制」をすぐに解体することはありません。
理由は、人や組織はすぐに変われないということを知り尽くしているからです。
また、権限移譲は、一歩間違うと自分の経営者という地位を危うくさせる、と恐れるからです。
だからこそ時間をかけて慎重に物事を進めていきます。
この時間をかけるという部分は、こと営業活動に関しては真逆です。
非常にスピーディに物事を決裁します。
理由は、事情をよく知り現場の人間とも双方の信頼関係が構築されているからです。
だからこそ、ある程度の規模まで企業を発展させることが可能なのです。
第二は、入社した人材のポジションについてですが、採用面接のときに詳しく説明する経営者であればよいのですが、間々説明不足で入社されるケースがあるようです。
経営者が仕事内容に関して丁寧に説明をされたケースがりました。
私が総務人事担当の管理職で応募した際、その面接時の説明内容は、おおむね次のようなものでした。
「当社は、総務はあるが、数人の社員がいるだけで事務用品の発注や受付など簡単な仕事をしているだけです。現在、人事はありません。入社すれば、それぞれの機能を一から一人でやってもらうことになりますがよろしいですか。
株式公開をおこなうので公開に対応できる内部管理体制の構築をお願いし
ます。
経理部でもすでに人材を採用しましたので協力しながら進めていただきたい。
5年程度はかかると思っていますので、辞めないで責任をもってお願いします。
また、会社特有の雰囲気がありますが、社員の人間性は良いと思いますのであまり心配しないでください」といった感じの話でした。
かなり長時間にわたって説明を受けましたので、入社前の心境としては随分と良いイメージが残った感がありました。
当然、このときの印象から長く勤務できるという直感がありましたが、株式公開を中止されたことで約5年弱で退職しましたが、説明されたとおりに実践してこられた経営者だったと思います。
このように入社に際して十分な説明をされる経営者は、私の転職経験と面接経験から見ると非常に少ないと思います。
先ずは、自分がおこなう仕事内容をよく把握しておくことが必要となります。
また、役職や給与から見ると中堅企業のほうが、大手企業より処遇は良い場合があります。
一方、組織機能が出来上がっていませんから組織機能における役割の行使は、この段階ではできないことがほとんどだと思っておいたほうがよいでしょう。
すくなからず総務以外の管理部門においても自らが先頭に立って日常業務をこなし、人を育て、役割分担を教え、組織機能を作っていくという作業が発生します。
現在の仕事をこなしながら、将来のための仕事やるというダブル、あるいはトリプルの能力を発揮していく必要があります。
それができて初めて役職者としての権限が発揮できるようになると思います。
また、この間、収益部門における権限移譲と会社全体における組織機能やマネジメント機能の構築といった、さらに骨太の改革が実行されます。
こちらは経営者自らが計画的に進めていきます。
これらの機能がある時点で融合されてきて、そして会社全体の機能ができあがります。
勿論、その間には、人を育成しその機能を運用できるようにしておかなければなりません。
このようなプロセスを是非イメージしておいてください。
最後は、コンプライアンスに関してですが、入社時におけるコンプライアンスについて過剰な期待は避けることです。
どのような企業でもスタートは、営業優先で事業拡大を図っているため、先ず利益を出すことに注力しています。
さらに就業環境があまり良くないため入退者が非常に多いといった特徴があります。
そのような環境の中で対応していますので大手企業のような適切な管理がなされていないことが大半です。
現実の問題から将来どのように転換させていくかを経営者といっしょになって考えていくことが肝要となります。
経営者自身かなり悩んでいます。
もっとも、このようなことに悩んでいない経営者であれば、転職そのものを再考したほうが良いでしょう。
なんといっても大きな矛盾を抱えての船出になります。
ひとつひとつのかじ取りについて経営者と慎重な議論と対応方法の検討をすることが大切です。
そのような企業に入社された場合、企業を成長発展させるためのいくつかのステージがあるということを認識しておくほうが、仕事を進めていく上でより重要な要素だと思います。
大手企業に在籍していた者からすると、「そんなの当り前」と思われるでしょうが、中小企業では、その「そんなの」ということがほとんどできていません。
この点、非常に悩ましい問題ですが、経営者といっしょになって将来の着地
点を探っていく努力が求められるでしょう。
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