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カオスなのに成果が出せる不思議な組織

ソニー子会社時代、なにがおもしろかったのか。
人、仕事、組織に、それぞれにおもしろさがあった、と私は思っている。
人のおもしろさは、先ず社長自身がおもしろい人だった。
この人が社長なの、と思わせるほど面白い。
中堅社員以上の言葉を聞くだけではなく、自分自身の目と耳を使って現場の事実を把握していた。

仕事の話をしていても、真面目な話か、と思えば、遊び心を出して私たちを挑発したりする。
とにかく、この人のところへいってなにかを話したくなる。
何度話したことだろう。
あまりに話がおもしくて、よくこの社長といっしょになって、笑いころげていた。

この人だけがおもしろいわけではない。
むかしからソニー子会社(別な子会社に在籍していて、新たに出来た会社へ転籍した人たちだったが)にいる人たちは、なぜかおもしろかった。
人がそうなのか、この会社で仕事をしていると、おもしろいキャラクターになるのかわからなかったが、私にはその両方だろうと思えた。

この会社、ひとことでいえばカオスだ。
だからといって秩序がないわけではない。
役員もいるが、役員が絶対的な権限をもって何事かを行使するわけでもない。
一言でいえば、中堅社員に仕事のやり方を任せていた。
いわゆる現場に権限を委譲しながら仕事を組み立てさせる、という方法だっただろうか。
役員は、中堅社員がおこなう新たな仕事の中身についてゆさぶりをかけるという役目をはたしていた。
社員自身(多くは管理職だが)が提案した企画に関して、役員にゆさぶられて反論できず、その可能性について役員(一部の部長も加わっていたが)を納得させることができなければ、そこで終わる。
自分次第でどうにでもなる。

組織を横断するのも勝手だ。
組織の線引きはされていたが、組織図だけであり、社員は勝手に出入りして自分が必要だと思う人間と話をする。
あるいは話だけでなく、いっしょにプロジェクトを立ち上げて進めることがしばしばあった。
組織図は、人と仕事の塊を表すだけだ。
たいした役目はない。

むしろ新たな仕事が生まれると組織も、次々と生まれていった。
組織図は、どんな仕事をやっているかという名を表しているだけだ。
だから、突然変わるから大変だ。
カオスでは、相転移が頻繁に起こる。
やっかいなことは、相転移したものをうまくコントロールしながら成果に結びつけてゆくことだ。
この会社の人たちは、これがとてもうまい。
いわゆる管理会計を活用するのだが、現場の責任者(管理職と私のような管理職もどき)が作成する投資計画とアクションプランが必須だった。
これによって企画書をつくることになるが、役員からのゆさぶりに勝てば、投資を自ら実行していくことができた。
当然、利益責任をもっているので、みな必死だが、自由にやれることが人間が本来もつ力以上の能力を発揮させていたように思えた。
まるで、中小企業の社長になったように自分の部署を運営するからだ。

だが、このように自由度が高い組織というものは、責任者の立場にある人間にとっては大変だ、責任者の能力が、簡単に丸裸にされる。
管理職もどきも丸裸にされた。

カオスのようななかにも、成果が生まれていく仕組みがあった。
自由にやれるのだが、自信がない人間にはきつい環境だろう。
自信があって自分でやってやるという人間にとっては、これ以上の環境はない。

ソニーの子会社だったが、言葉は悪いが、人をたらしこむのがうまい組織だ。
それも社長の権限でやっているわけではない。
管理職と思われる人たちが、自由に考えて行動しているのだ。
なにか現場から変えていこうという提案能力が高く、組織が消えたり、新たに組織が生まれたりというスピード感があり、カオスだけあって、常に組織にゆらぎがあった。
決して役員や企画部門だけで変えていくわけではない。

だから、私のような外様の人間にもチャンスが生まれる。
私も入社当初、この会社のカオスには、鳩に豆鉄砲のように驚いていた。
やりたい奴にやらせる、若い人間にチャンスを与える、可能性に挑戦させる。
そこにプロパー社員や経歴、あるいは職種などといった概念が必要なく、やりたい人間は、好きにやればよいという自由がある。
ただし、事業計画で成果は、しっかりと把握されているわけだ。
このような機能があれば、アップオアアウト(Up or Out)も必然だ。
自由もあるが、厳しさもある。

人や組織(実態は人なのだが)に勢いがあった。
当然だろう、学歴など関係ない素手の戦いができるのだ。
こんな人間の集まりだ、勢いがでないわけがない。
仕事に迫力があった。
個人の力が発揮できる機能がそろっていた。

こんな組織運営は、本来、中小企業が得意とするものだが、その後、中小企業をみてきたが、カオスがあるような組織運営ができていた企業はない。
私が在籍した中小企業から大企業へ変貌している企業が1社だけあるが、創業経営者と比較的話ができたほうだが、組織にカオスなどはなく、成果報酬の高さで事業を拡大していたが自由度は低かった。
私が退職した後のことはわからないが、経営者のずば抜けた経営能力とM&Aを活用しながら成長しているのではないか、と推測している。

ソニー子会社で出会ったカオスをもった組織運営など、他社でまったくみない経営スタイルだった。
ベンチャー企業や中小企業ほど、このような経営スタイルがよいのだが、カオスをつくれるかどうかだろう。
これは案外むずかしい。
経営者がもつ権限における微妙なさじ加減が必要になるからだ。
人がもっているおもしろさも必要だ。


この意味では、そのような片鱗が見えたのが、石破さんだ。
『1日に各党への挨拶を行った石破茂首相が、前原氏から「石破カラーをちゃんと出して、がんばってください」と言われると、「出したら、ぶっ叩かれるから。出すと国民は喜ぶ党内は怒る」』
という石破さんの人柄だ
カオスを生みだすには、こんなことを平気で話せる人物が組織の長になることだろう。
今は党内基盤が弱く、この人のしなやかさやおもしろさがでないと思われる。
しかも、この人がいる組織は、本来硬直的だったのだが、前首相の岸田さんのやり方によってカオスが生まれはじめている。
岸田さんというのも、案外おもしろい人なのかもわからない。
今まで、岸田さんが所属していた政党は、選挙に強いだけあって組織は硬直化していたが、カオスをつくっていくには度胸もいる。
カオスを生み出すことができるには、岸田さんのような人物がいる。

良いか悪いかはわからないが、少なくとも岸田さんが組織にカオスを生み出したから、石破さんは首相になれた、と私は思っている。
この先、政治は、おもしろくなっていくのかもわからない。

ソニー子会社でみてきた組織運営は、人を中心とした柔構造の組織運営なのだ。
人がやらないことをやっている。
やっている経営者や社員には、その意識もないのではないか、と私は思っている。
この会社、むかしからこのような経営スタイルでやっており、社長も社員も体得できていたからだ。
だから、ソニーは世界的な企業になった、と確信できた。
もっとも、日本人からみると不謹慎きわまりないと思われるだろう。
それほど、日本人がもっていると思われる感性(感心・感激・感動)とは違うものがあった。

まねできないやり方だから、教えられないのかもわからない。
言葉で体系化することもできない(むずかしい)。
他社がまねできない不思議なマネジメントスタイルだ。
今のソニーとはかなり違うと思う、
当時の社長は、1956年、まだ社員数500名ほどだった東京通信工業へ入社されていた方だからだ。
私が学んだマネジメントは、ソニーといってもかなり古いものだ。
いわばソニーが成長していく初期の時代から1995年ごろまでのものだ。

私は、今でも新しいマネジメントに感じている。
死ぬまで忘れられない楽しい贈り物をもらってしまったようだ。

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