成長したいという創業経営者の葛藤と現実
私は、新入社員時代を営業職からスタートし、約11年間にわたって営業活動の第一線で仕事をしてきました。
その後、総務、人事、経理と約20年以上を管理部門で仕事をさせてもらい通算32年間の会社生活を送ってきました。
そのような職業生活の中にあって転職した中堅企業や中小企業の事業運営には、多くの戸惑いと違和感を覚えたものでした。
それは仕方ないと言えば、仕方がないことなのですが、中堅企業や中小企業とは、今だ、発展途上の会社であり、数々の問題を抱えながらなんとか成長していこうと日々努力している存在だからです。
だからこそ、これらの企業は、私のような大手企業出身者を採用して新たなステージへ踏み出そうとしていました。
このことは、言ってみれば社内に専門的な人材がいないので外部から招へいしようとしているわけです。
この点も入社すればすぐに理解できることなのですが、私が経験した企業はすべて営業主体で組織が作られており、内部管理体制において最低限必要な機能をもっているに過ぎませんでした。
先ずは食べていくことが前提であり、管理は社長自らがおこなっていることが大半です。
中堅企業や中小企業からすると、このことは、極当たり前の光景だと思います。
大手企業だけで働いていると、このような光景を見ることはほとんどないと思いますが、データからみれば日本における企業数の約9割は中小企業であり、そこで働く人達は、労働人口の約7割にもなると言われています。
むしろこの光景が普通であり、大手企業の光景のほうが特別なものなのです。
往々にして、人は、自分が見た最初の景色を主体として物事を眺めてしまい、その他のものを客体として見てしまうという本能的な性質があります。それにしても私は、世の中を知らな過ぎた、と感じたものです。
この頃、今ではこれが当り前だと理解できるようになってきました。
私のような人間を採用しようとする企業経営者は、少なからず今までの事業運営を改革しようという意欲をもっています。
そうでなければ、高い人件費を払って雇用しようとは考えないからです。
その意味で創業経営者は、常にシビアであり、自社の拡大発展という視座から目を離すことはありません。
もっとも直ぐに大手企業並みの事業運営を取り入れるかと言えば、これもまたそうではありません。
理由は、創業経営者を中心としたシンプルな組織機能を有しているからです。
いわゆる「ワンマン体制」といわれるものです。
世の中で一般的に言われる「ワンマン」という言葉の響きには、あまりこのましい言葉でとらえられていませんが、企業経営における「ワンマン」は一概に悪いとばかりは言えません。
なぜなら企業が発展する過程は、人による強いリーダーシップが求められるからです。
一般的に、企業における決定事項のすべてが社長で決まることを「ワンマン経営」と言っていると思われますが、ある程度の規模まで成長発展しているということは、まさに経営者の「リーダーシップ」が機能している証拠でもあります。
それでも企業規模のさらなる拡大を目指していくという目的から、あるいは株式の公開を目指して内部管理体制を確立するため、という理由から多くの人材を採用します。
私が見てきた企業は、すべて後者の株式公開を目標にして人材の採用をおこなっていた企業でした。
当然、このような企業における処遇は、給与あるいは役職とも大手企業並みか、あるいはそれ以上の条件を提示されます。
そこには、やはり経営者の強い意欲が感じられるものです。
しかし、私が経験した企業なかで、現在も成長できている企業は極めて少数です。
中小企業の成長は、ワンマン体制から集団体制にいかに転換していくかという、経営体制脱皮の競争ですが、創業経営者は、このステージを乗り越えることがむずかしいようでした。
人は変えたがるのですが、経営体制を変えることをしません。
経営の意思決定に対するスピードへの不安や他人に権限委譲することへの恐怖、あるいは経営体制そのものに関して理解ができないということが根底にあるようにみえました。
中小企業からの脱皮は、私は経営体制をいかに転換していくか、ということに尽きると考えています。
ワンマン体制で一兆円を超える売上を上げている経営者がいますが、それでもその規模になれば、各部署へ権限委譲されているからこそ、成長できているのだと考えています。
社会的には、メディアなどに露出する経営者の姿がワンマンにみえていますが、経営体制がある程度確立しているから成長していくものです。
勿論、そのようなタイプの経営者が率いる企業には問題があります。
経営者が突き進みますから、既存分野で問題を積み残していくということでしょうか。
また、経営者の経営判断だけで特定の分野へ経営を集中したりしますから、市場の状況によっては、急激に業績を悪化させたりします。
私は、中小企業の創業経営者の葛藤をまじかにみてきましたが、やはり人の意見に耳を傾け、自ら学び、人と経営の時間軸をみながら着実に経営体制を構築していくことができる創業経営者が率いる企業が成功をしていくのだ、と信じています。