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資格試験に役立つ「読書のすゝめ」

日商簿記1級や建設業経理士1級の講師を担当していると、しばしば「問題の意図が読み取れないから読解力を上げたい」というご相談を頂きます。

何かの本で読んだ気がするのですが、読解力の向上に関する研究はまだ始まったばかりで、科学的に「絶対にこれ!」と言えるような方法がある訳ではなさそうなのですが、私の経験から「確かに読解力が上がったかもしれない」と思える方法をご紹介したいと思います。

それが、タイトルにもあるように「読書」です。

ただ、「読解力を上げるために読書を行いましょう」とだけ書いたのでは、何の新鮮味もないでしょう。

そこで、この記事を読んでいる方の多くが、(主に簿記検定などの)資格試験の受験に関係する社会人の方であることを前提に、私が思う読書のポイントについてまとめてみたいと思います。

試験勉強との兼ね合い

まず、第一にポイントとなるのは試験勉強との兼ね合いです。

試験勉強をしていると、テキストや参考書等を読んだり問題集を解いたりするので精一杯でしょう。
「そんなタイミングで読書をする時間なんて無い!」と仰る方も多いと思いますが、私も同じ考えです。

ですから、試験勉強を本格的に行っているときに読書のことはあまり考えなくて構いません。

読書をするのにオススメなのは、「試験が終わってから結果発表までの間」です。特に、合格しているかどうか微妙で、試験の翌日から必死に勉強しないといけないほどヤバい結果でもなければ、合格確実で試験の翌日からすぐに次の目標に向かって動けるほどの自信もないという場合です。
(もしくは、合格したらその試験の勉強は終える予定だが、その次の目標ややるべきことが明確に決まっていない場合もお勧めです。)

こういう場合、今まで必死にやってきた勉強を続けるモチベーションの維持は難しいでしょうし、かといって、必死に頑張ってきた分、急に何もしなくなるのも勿体ない感じがします。

そんな場合に、よく受講生などに読書を勧めています。

読書を通じて読解力の向上が期待できるほか、「文章を読む」という習慣を維持していれば、万が一、試験の結果が残念になったとしても、こまめに本・文章を読む習慣が身についているので、今まで読んできた本をテキストや参考書に変えれば、すぐに試験勉強モードに切り替えられるため、次の試験に向けた学習の再始動が行いやすくなります。

試験が終わったあと、一度、動画や短文SNSを見る習慣が身についてしまうと、そこからまた勉強モードに切り替えるのが大変です。
「動画や短文SNSを見るな」とまでは言いませんが、それ以外の時間つぶしの習慣として読書をその候補に入れて、取り入れてみると、受験生にとって様々なメリットがあります。

もちろん、勉強の息抜き・気分転換で読書をするのもアリですが、ずっと文字を見続けると息抜きにならないという方は、無理して読書をする必要はないでしょう。ただ、この記事の続きの内容を見て、「自分に効果がありそうだ」と思ったら、読書の時間も少し作ってみてはいかがでしょうか。

どんな本を読むとよいのか

では、どんな本を読むと良いのでしょうか。

私が受講生の方にお勧めしているのは「小説」です。
その理由の1つは、読解力向上に繋げるのであれば、なるべく文字だけで記されたものがよいのではないかという考えです。

そしてもう1つの理由が、小説が基本的にフィクション、つまり"作り話"であるという点です(中には、事実に即した小説や自伝的小説といったものもありますけどね)。

作り話は、この世に存在しない架空のお話ですから、登場人物の名前や性別・年齢、職業、登場人物同士の人間関係などをすべて小説の文字から読み取らなければなりません。
日本人が書いた日本を舞台にした小説などは、ある程度、事前に持ち合わせた常識的な知識で推測できる部分もあるかもしれませんが、それでも、すべてが分かる訳ではありませんし、小説が変われば前提も当然変わるでしょう。
ある小説で登場した"サトウ"という登場人物が物腰の柔らかい好々爺だったからといって、他の小説の"サトウ"という登場人物がまったく同じ性格ということはほとんどなく、年齢も性別も職業もまったく違うのが普通でしょう。

こうした登場人物の情報だけでも把握するのが大変なのに、それに加えて、発言の意図や情景なども文字だけから読み取らなければならないのが、漫画や映画などに比べて小説の難しいところで、これが原因で小説から離れてしまった方や、そもそもほとんど読んだことがないという方も多いのではないでしょうか。

ただ、簿記検定で登場する問題のほとんどがフィクションです。
(フィクションなので当たり前ですが)聞いたことがない会社が、聞いたことのない製品を謎の工程を経て作って売っているという状況を問題文から読み取って、指示に従った計算や会計処理を行わなければなりません。

おそらく簿記検定以外の試験でも、問題文が作り出した架空の設定を踏まえて考えなければならないことは多かれ少なかれあるのではないかと思います。

そんなときに、「文字で書かれたフィクションの世界を読み解く経験値」が意外と影響してくるのではないかというのが私の仮説です。

漫画や映画は文字以外の情報も使って理解することができるので、たとえフィクションであったとしても、「文字で書かれたフィクションの世界を読み解く経験値」は増えません。

また、新聞や実用書は基本的に現実のことしか書かれていませんし、X(Twitter)やLINE、InstagramなどのSNSで読む文章も、多くが現実に起きていることでしょうし、中にはリアルな人物像を知っているために、その人物像で行間を補って理解していることも多々あるでしょう。

「文字で書かれたフィクションの世界を読み解く経験値」を積む方法というのは、そう考えると意外と少ないものですから、その観点で小説は非常に有効なのです。

上述のように、試験が終わって結果発表までの間に何をしていいか分からないという方は、気になる小説を読んでみるのはいかがでしょうか。
気になっていたけど試験が終わるまで我慢していた映画やドラマの原作本などでもよいでしょう。
興味がある方は、ぜひ実践してみてください。

なお、簿記の1級や上級レベルに挑戦していて管理会計や意思決定の内容も学習している方は、ビジネス関連のノンフィクションものを読むのもありかもしれません。
こうしたノンフィクションの本を読みながら、本の中で取り上げられている企業がどんな意思決定を行ったのか、その根拠は何なのか、その結果どんなことが起きたのかといったことを知ることは、管理会計分野の問題を読み解く必要がある場面でイメージを膨らませる補助をしてくれます。

ただ、そのときもなるべく「知らないこと」がたくさん載っている本の方が、読解力向上にも繋がるのではないかと思うので、該当する方は、そんな本を探してみるのもいかがでしょうか。

筆者の場合

ちなみに、私が日商簿記1級の合格に向けて勉強していた高校時代は、通学中の電車の中も貴重な勉強時間でした。
(当時はスマートフォンが無かったというのもありますが)その間、ずっと簿記のテキストを読んでいたせいで、試験に合格して簿記1級の勉強から解法された瞬間、今まで簿記のテキストを読んで時間を過ごしていた通学中の電車の中の手持ち無沙汰に耐えられなくなり、図書館で小説を借りて、通学中の電車の中で簿記のテキストの代わりに読んでいく生活が始まりました。

当時読んでいたのは、ほとんどが小説で、中には全巻合わせて1,000ページを超えるような小説もありましたが、本当に面白い(と評判の)小説は"のめり込む"ように読めるもので、それまでほとんど小説を読んだことがなかった自分でも、段々と小説を読む習慣が、苦にならずに身に付いていきました。

その習慣は大学を卒業する頃まで続きましたが、おかげで、元々は苦手だった国語の現代文の読解問題なども、小説を読み始めて1年程度で劇的に良くなった記憶があります。

おそらくこのときの経験が、公認会計士試験や気象予報士試験、情報処理技術者の試験にも活かされているのではないかと考えています。

どんな試験も「問題を読む」という読解が必要ですから、読解力はあるに越したことはありません。

読解力を伸ばすには文章を読むのが一番なのは確実だと思いますが、個人的には「文字で書かれたフィクションの世界を読み解く経験値」がポイントだと思っているので、そんな視点で読書を捉え直してみてはいかがでしょうか。


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