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アルミニウム原子半径の計算とデータとの照合


まえがき

「原子半径」と聞くとミクロすぎて、身近に感じられないという方に読んで欲しい記事です。

この記事で伝えたいこと

アルミニウム原子が球体であるという仮定
・アルミニウム(固体)は面心立方格子構造で充填率が$${74\%}$$であること
アルミニウム原子量が約$${27}$$であること
を用いて、アルミニウムブロックの重さから、アルミニウムの原子半径を計算し見積もることが出来る。結果は下記の表1にまとめた。
※アルミニウム原子量は、より正確には$${26.98\cdots}$$である。

表1:  pmは「ピコメートル」ピコとは10のマイナス12乗のこと。

一般論

命題

金属の原子半径 : $${r\ [m]}$$
立方体状の金属結晶の1辺 : $${l\ [m]}$$
金属結晶の充填率 : $${k}$$
金属の原子量 : $${w}$$
金属結晶の質量 : $${m\ [g]}$$
アボガドロ定数 : $${N_A\ [mol^{-1}]}$$
とすると、下記の式が成り立つ。

$$
r = l \times \sqrt [3] {\frac{3 k w }{4\pi N_A m}}\ \ [m] \ \ \cdots(1)
$$

証明

金属結晶の1辺が$${l\ [m]}$$であるから、体積は$${l^3 [m^3]}$$となる。
すると、金属原子が占める体積は、金属結晶の充填率が$${k}$$である事から、

$$
 V=kl^3 \ [m^3]\ \ \cdots(2)
$$

となる。

また、金属の原子量が$${w}$$、金属結晶の質量が$${m\ [g]}$$である事から金属結晶中の$${mol}$$数は$${\displaystyle \frac{m}{w}\ [mol]}$$となり、金属結晶に含まれる原子の個数$${n}$$はアボガドロ定数$${N_A}$$を用いて、

$$
\displaystyle n = N_A \frac{m}{w}
$$

と表せる。原子が球体である事を仮定すると、原子半径を$${r\ [m]}$$として、

$$
V = \frac{4\pi r^3}{3}\times n \\ \ \\
= \frac{4\pi r^3}{3}\times N_A \frac{m}{w}\ [m^3]\ \ \cdots(3)
$$

が$${n}$$個の金属原子の体積の総和である。
$${(2),(3)}$$が等しい事から

$$
kl^3 = \frac{4\pi r^3}{3}\times N_A \frac{m}{w}\\ \ \\
\Leftrightarrow r^3 = k l^3 \times \frac{3 w }{4\pi N_A m} \\ \ \\
\Leftrightarrow r = l \times \sqrt [3] {\frac{3 k w }{4\pi N_A m}}\ \ [m] \ \ \cdots(1)
$$

$${Q.E.D}$$

具体的な計算

$$
r = l \times \sqrt[3]{\frac{3 k w }{4\pi N_A m}}\ \ [m] \ \ \cdots(1)
$$

を実物のアルミニウムブロックに適用する。
左辺の文字が全て得られることを確かめよう。
まず、1辺$${4\ [cm]}$$のアルミニウムブロック(立方体)の重さを計ると$${m=175.2\ [g]}$$であった。

1辺4cmのアルミブロック

また、固体のアルミニウムは面心立方格子構造を取る事から充填率は$${k=0.74}$$である。

さらにアボガドロ定数:$${N_A = 6.02 \times 10^{23}\ [mol^{-1}]}$$、およびアルミニウム原子量:$${w\fallingdotseq 27}$$であることを使うと、$${(1)}$$の右辺の文字が全て得られたことになる。
よって、アルミニウム原子半径$${r\ [m]}$$を下記のように計算することができ、理論値$${142.4\ [pm]}$$を得る。

$$
r = l \times \sqrt [3] {\frac{3 k w }{4\pi N_A m}} \\ \ \\
= 0.04 \times \sqrt[3]{ \frac{3 \times 0.74 \times 27 }{4 \times 3.14 \times 6.02 \times 10^{23} \times 175.2} }\\ \ \\
= 0.04 \times \sqrt[3]{ \frac{3 \times 0.74 \times 27 }{4 \times 3.14 \times 6.02 \times 10^{2} \times 175.2 } } \times 10^{-7}\\ \ \\
= 0.04 \times (0.0356 \times 10^{-7}) \\ \ \\
= 0.001424 \times 10^{-7} \\ \ \\
= 142.4 \times 10^{-12}\ [m] \\ \ \\
= 142.4 \ [pm]
$$

データとの照合

wikipediaによると$${143\ [pm]}$$となっている。

※原子半径も色々な種類がある。より詳しくはこちら。

実験のための道具紹介

物理を実体験として学ぶ意欲のある方向け。
自分が使ったものは1辺$${40\ [mm]}$$の物だが、実験の為の商品を貼っておく。

あとがき

大まかで非常に古典的な描像による計算ではあるが、精度が出ているのがおもしろい。

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