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ep.10 名前も知らない映画のような日々の話 前編



旦那と付き合う前の話、恋人がいなかった空白の期間の間に、少しだけ一緒にいた人のことを残しておきます。



過去の恋愛や今の旦那については、付き合っている時リアルタイムで友人や家族に話したりしていて皆知っているような感じでしたが、この人の話は友人にも家族にもちゃんと話したことがなく、何となくずっと自分の中にしまっていて。いつか、記録に残したいと思う日が来たら、思い出として何らかの媒体に書こう、と決めていました。




でもそれは、未練とかそういう類ではなく、喩えるなら、どこかの小さい映画館のレイトショーで流れている、知らない誰かが作った自主制作映画のような日々だと思っているので、あくまで小説、脚本を書くような心持ちで記録します。


「いつか、この日々を小さな映画にしたいね、文書くの好きでしょう?百ちゃんが脚本書いてさ、私が絵を描くから」





その人は絵を描く仕事をしていました。
SNSで知り合った、同い年の人。住んでいる場所がわりと近い、ただそれくらいの理由でぽつりぽつりと話すようになって、ある日「美味しい焼肉屋さんがあるから良かったらどうですか?」と誘われて仕事終わりにご飯を食べることに。お互いの職場から行きやすい場所を、という折衷案で十条駅の改札口で待ち合わせました。
10分ほど早く着き待っていましたが、後続の電車から、帰路に着く人混みに紛れながら改札を出てくる全身黒い服を着たすらっとした髪が長めの人、一目見てああこの人だ、と思いました。


もっと「初めまして〜!」という感じで初対面モードなやりとりをするのかと思いましたが、初めましてのやり取りとかはなく、知り合って3年?くらいの感じで「ごめん遅れて、(焼肉屋)こっち」と気だるそうな感じで喋るし、先に歩いて行ってしまうし、正直最初の印象は えっ?何これ?と思ったことを覚えています。

焼肉屋に向かう途中の線路沿いの細道を歩いていた時に、前方から自転車が来て、その時に私をそっと内側に入れてくれて、その時に あぁこの人はただの素っ気ない人では無いな、と気づきました。



焼肉屋で何を話したか、は全然覚えていません。
ただ、思ったより会話が弾んだこと、絵を描く仕事をしていて、色々な企業やアーティストのロゴを描いたりしていること、気だるげそうに見えるのはもともと、一人称は公私共に私 ということが分かったことだけ覚えています。


お腹いっぱい焼肉を食べ、何となくまだ話し足りないねとなって何となく赤羽方面まで話しながら散歩しました。もうどこの歩道橋か覚えていませんが、途中登った歩道橋の上から車を眺めながら「私が白い車、百ちゃんは黒い車、先に5台通った方が勝ちね」となんでもないものにも遊びを見出して盛り上がったり、「どこから来て、どこに行くんだろうね」と行き先を想像したりして、とても楽しかったことを覚えています。感性が好き、というのはこういう感じかな、初めて思いました。



じゃあ今日はこれで、となった時に「明後日は空いてる?仕事早く終わらせるから、どうかな」と言われ、会う約束をしました。


そんな感じで気づけば週に2度ほど会ってご飯を食べて散歩して、彼の仕事の手伝いをしたりしながら過ごしました。色んな話をしました。
「アートに色がついているとしたら何色だと思う?」
「芸術と美術の違いって何だと思う?」
絵を描く仕事をしていたから、そんな話ばかりしていたと思います。
ご飯を食べながら当たり前のように「次いつ会う?」と聞かれて、私も当たり前のように明日は夜勤だから明後日なら行けるよ、とか答えて。


仕事終わり、待ち合せて松屋で並んで牛丼を頬張りながら


「私この間同僚に好きな女性のタイプを聞かれて、松屋で一緒に牛丼を食べてくれる人って答えたんだよ」




と、彼に嬉しそうに言われ、「へぇ〜まさに今じゃん」なんて軽い感じでやりとりする、そんな感じの日々が続いていました。それが、楽しかったんです。



ただ、付き合う付き合わないの話だけはお互いしませんでした。気づいたら一緒にいることが多いけれど、これって何なんだろう、と次第に思うようになりました。




続きます↓

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