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03
「お先しつれいします~」
ホールのスタッフにひとこと声をかけ、厨房からスタッフルームに入った。
「おつ!今から帰る?」
「おつかれさまです….はい…」
「一緒かーえろ」
考えるのも面倒だったので口から出た感情を優先した。
「はい~」
バイト先を出ると途端に気が緩んでしまう。
駅まで一緒に帰る道中が長くて仕方がない。
「明日1限から?」
会話に困ったのか当たり障りない会話デッキを展開してきた。会話困るくらいなら誘うなよ、と思ったが失礼に値すると思って考えないことにした。
「明日は3限からっすね」
「そーなんだ。私明日休みなんだぁ」
先輩が自分に好意を持っていることは薄々知っていた。
てかバイトのみんなが煩さかった。うるさいというのは比喩で、口には出さないが雰囲気で伝えようとしてきた。
目は口程に物を言うとはこのことかと。
「休みなのうらやましいです」
「へへん、いいでしょ。」
「俺3限からでも、さぼりたくなりますし」
「「俺」?」
「え?」
「「俺」って言うんだ。バイト中「僕」じゃないっけ」
「あー、一応「僕」っていうように気を付けてます」
「へぇーおもしろいね。てか時間よかったらご飯いかない?」
悩む。好意を持たれてるとはいえ淡い期待をさせてしまうのはいけないとも思うが、このまま先輩の感情の揺らぎを見てみたいとも思う最低な思想の自分がいるのもまた事実だった。
そもそもこんな自分に好意を向ける人がいるのが意外だった。
そこに興味がある。なにが彼女に刺さったのだろうかと。
また、特別自分じゃなくてもいいはずなのに、と。
答えがないのが恋愛というものなのだろうか。
”衝撃的な恋”をしてみたらわかるのだろうか。
自分から他人を好きになったことがないから、自分の心は欠如しているのかもしれない。
「いきましょ~先輩なにが好きですか?」
知らないフリとバカを演じることができる人間は器用だと思う。
「えー君の好きなもの食べに行きたい」
「先輩が誘ったんだから好きな物教えてくださいよ」
「んーーーじゃあ肉」
「結局肉っすか」
「肉で悪いか」
「お肉、食べいきましょ」
先輩の嬉しそうな表情はかわいいと思った。
これを人によっては”好意”と呼ぶのだろうか。
考えれば考えるだけ
満ち足りるものと、未知がまた増えていく。
随分自己中心的な考え方だとは思う。
自分を知るために他人を利用しているのだから。
それでも先輩は好いてくれるのだろうか。
その答えを知ろうとするか否かで
今後の関係性が変わる気がした。
先輩に少し興味が湧いた。