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【障害者水泳 指導者養成研修】指導者について①


■「そこのけ、そこのけ、障害者が通るんじゃ。」

障害者が水泳を練習する場合、どんなに静かに謙虚に練習していても、やっぱり目立ちます。
どうしても、声は大きいし、騒ぐし、はしゃぐし、イレギュラーな行動をするし。
でも、「そこのけ、そこのけ、障害者が通るんじゃ。」式のプール利用態度は絶対に慎むべきです。
障害者を水泳指導しているからといって、なんも偉いわけではありません。
だからこそ指導者は周囲のお客さんたちの空気を読んで、できる限りみなさんと調和するように努力したいものです。

■障害者水泳の指導者に必要な資格とは?

「障害者に水泳を指導するのに資格は必要ですか?」とよく聞かれます。
「全く必要ありません。」といつも答えます。
資格が障害者を助けるわけではありません。
ですから、プール・ボランティアの体験型研修では「資格証」みたいなものは発行していません。
希望者に「受講済証」を発行するだけです。
どんなに医療知識があり、どんなに障害者や運動理論について詳しい知識があろうと、
泳げる指導者には全くかないません。
つまり、障害者水泳指導に必要な資格は「泳げること」。
自分の水泳経験や泳力です。
これは、実際に水の中に障害者と入れば簡単にわかります。
必要なことは、水の浮力、抵抗を上手に活用できるかどうかなのです。
これは、それなりの経験がないと絶対に自然にはできないことです。
プール・ボランティアは、「水の中ならドンと来い。」という人を求めています。
障害に詳しい人や医療や介護に詳しい人や障害者に関する資格をいっぱい持っている人よりも、「泳げる」という単純な能力のほうが、はるかに障害者水泳指導にとって大事な資格です。

■障害者水泳指導者に必要な資質とは?

それは、「覚悟」と「勇気」と「我慢」です。
実際に市民プールで障害者に水泳指導をしようとすると、プールの管理者(館長)の障害者への配慮のなさ、優しさのなさ、理解のなさ、簡単にできるのにしてくれないことなど、いろいろ腹の立つことがいっぱい出てきます。
無知と偏見と差別意識とサービス精神のなさの嵐です。
それらに立ち向かう「覚悟」 声をあげる「勇気」 冷たい仕打ちに耐える「我慢」
ぼくは、これが一番、指導者に求められる重要な資質だと思います。

■指導者の年齢について

プール・ボランティアに入会したボランティアさんには、入会した順に「通し番号」をつけています。
2024年11月末現在で、PV1420が最新です。
ですから、この26年間に1420名のボランティアさんにお世話になったことになります。
現在、在籍ボランティアは約200名。幽霊会員はほとんどいません。
26年前にプール・ボランティアを設立した時、泳げるボランティア募集のチラシには60歳以上の人は不可としていました。
体力の要るしんどいボランティア活動なので高齢者には無理だろうと思ったからです。
全くの大間違いでした。
現在、ボランティア会員の15%は60歳以上の泳げるボランティアさんたちです。
高校生から最高齢は85歳です。
若い人は障害者に対して直球しか投げることができませんが、人生経験豊富な高齢者はカーブやスライダーやいろいろ球種を障害者に投げることができます。
いわゆる「手のひらでころがす。」という芸当です。
水に関する「引き出し」が多いのです。
子どもの扱い、人に対する接し方がうまいのです。
「観察力」「洞察力」「包容力」は、一日の長があります。
若い人には若い人の良さがあり、年寄りには年寄りの円熟したうまさがあるのです。
ボランティアをするのに年齢は関係ありません。
ボランティアの入水回数は、データで公表しています。
最近、入会以来の入水回数が2000回を超える猛者が誕生しました。
一年間に50本入水して、40年かかる記録です。
一年間に100本入水して、20年かかる記録です。
すごいなぁ。

※プール・ボランティアでは、ボランティアが入会して、その入水回数が、
100回を超えると「PVの殿堂入り」
1000回を超えると「PVの超殿堂入り」
2000回を超えると「PVのダブル超殿堂入り」として、その功績を称えています。

■障害者水泳指導は総合力で勝負する。

一人だけで障害者水泳指導を引き受けるのは、寂しいし、孤独だし、愚痴を言いあったり、喜びや失敗談を話し合ったりする相手もいないので心が折れてしまいます。無表情な水泳指導になってしまうのです。
ぜひ、仲間を作りましょう。
障害者水泳指導は総合力、チーム力で勝負するのです。
プール・ボランティアには、医師、歯医者、弁護士、弁理士、司法書士、行政書士、社会保険労務士、看護師、保育士、理学療法士、聴覚言語療法士、作業療法士、精神保健福祉士、介護福祉士、ケアマネージャー、学校の先生、警察官、自衛官、消防士、刑務所の刑務官、牧師、ポールダンサー、一般企業のサラリーマン、郵便局員、鉄道マン、銀行員、薬剤師、大学生、高校生、フリーター、うつ病、精神障害者などいろいろな職業、タイプ、年齢の泳げるボランティアが在籍しています。
その人たちのチカラと知恵を借りるのです。
すると、一つの課題が生じても、いろいろなアプローチがあることがわかり、柔軟で最適な対応ができるのです。
障害者は強敵です。現実には一筋縄では立ち向かえません。
ぜひ、多くの仲間をつくり、「総合力」「チーム力」で立ち向かってください。

※仲間を作るということは、とてもいいことで嬉しい副産物もあります。この26年間で、ボランティアどうしの結婚が12組ありました。(笑)

■声をあげないと!

水の世界には理不尽なことがまだまだいっぱいあります。
「障害者も健常者も同じようにプールを楽しめる社会が実現しますように!」って神様にお祈りして、折り鶴を何百羽も折ったとしても、それだけでは現実は何も変わりません。
声をあげないと、行動しないと、立ち向かわないと、何も変わらないのです。
この作業はとてもエネルギーが要りますし、しんどい作業です。
でも、声をあげることですぐには変わらなくても、少しずつ良い方向に変わっていきますから。
そして、その過程の中で監視員や館長や施設スタッフと仲良くなっていくことも多いのです。
心ある人、理解してくれる人は必ずいますからね。
「雨降って地固まる。」です。