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【障害者水泳 指導者養成研修】指導者について②


■研修の必要性①

プール・ボランティアでは、ボランティア会員に対して「研修」というものを一切しません。
毎回の活動が研修ですし、自分で勉強すればいいのです。
教えられるより、経験し、学び、それぞれが自分の頭で工夫することです。
実際には現場で気づきながら、だんだんわかってくることの方がはるかに多いのです。
「先に勉強しなくても、すべては障害児たちが教えてくれます。」
 

■研修の必要性②

プール・ボランティアでは入会したボランティア会員に対して「研修」というものを一切しません、と言いつつも実際には、
・最初の一回目は、担当を持たずに全体を眺めてもらって流れをつかんでもらう。
・最初の数回は、指導者の実力を見るためにも、わりと軽度の障害者を担当してもらう。
などの配慮はしています。
でも、入会してくる指導者のレベルが高いので、いきなり実戦というケースのほうが多いです。
 

■何が目的なのかな?

プール・ボランティアに入会する本人や保護者には、必ずその目的をお聞きします。
ダイエット、運動不足の解消、泳げるようになりたい、ストレスの解消などさまざまです。
泳ぎ始めると、当初の目的とは違ってくることも多いのですが、最初にこの「目的」をしっかりと聞いておくことは大事なことです。
泳ぎ終わった後の保護者からの感想で最も多いのは、
「プールで泳いだ日の夜は、とてもよく眠ります。」
「次の日、とても穏やかな表情になって行動がおとなしくなります。」
 

■いい指導者とは、、、、

いろいろなタイプの指導者がいます。タカ派、ハト派、理論派、実戦重視型・・・
どのタイプも魅力的です。
でも、私たちの経験から、いい指導者に共通していることが二つあります。
ひとつは、いい指導者は「指導中、静かだ。」ということです。
うるさくて声の大きい指導者は、全くダメです。
これは、民間のスイミングインストラクターにも当てはまります。
二つ目は、あまり体に触らないということです。
障害者水泳の目的、一番の理想は、誰にも頼らず一人でスイスイ泳げるようになることです。
ストレスなく、楽しく泳ぎ、歩き、遊ぶことです。
主役は障害者本人です。
そういうことをわかっている指導者は、できるかぎり補助を少なくして本人の泳ぐ力を引き出そうとします。
少し離れたところで、少しの声かけ以外は何もしないで見守っている指導者を見ると、「うまいなぁ。」って感心することがあります。
観覧席で見ている保護者から見れば、「あの先生、何もしてくれへん。」ように見えますが、全くの見当違いです。
反対に、大きな声を出して手を持ったり脚を持ったりしている指導者は主役が誰なのか勘違いしています。
保護者受けは、いいかもしれませんが…(笑)
ですから、プール・ボランティアの活動現場は、とても静かです。
 

■具体的な水泳指導方法について

冒頭にも書きましたが、障害者は一人ひとりが違います。
また指導者も、一人ひとり、水泳経験、性格、体格、ポリシーなども違います。
ですから、一般的な指導方法なんて、あるわけがないのです。
ぼくも、26年前に一般的な障害者水泳指導マニュアルを作ろうとしたのですが、意味がないことに気づき、すぐにアッサリ断念しました。
一人ひとりの指導者が、目の前の障害者に対して、「どうしたらいいんだろう。」と、悩み、工夫し、試行錯誤を繰り返して、目の前の障害者についてのオリジナルな指導方法を編み出すしかありません。
障害者水泳指導の方法について、「こうでなければならない。」という原則などはありません。
いろいろな人から、よく質問されます。
「どうやって指導すればいいのでしょうか?」
お答えする言葉は、いつも一つだけです。
「それぞれが最善を尽くすのです。」
 

■指導者の怪我について

指導している障害者から、噛みつかれる、頭突きされて鼻を折る、肘鉄をくらわされてろっ骨を折る、殴られる、蹴られる、耳元で大声を出されて鼓膜を損傷する、、、
いろいろあります。いろいろありました。
目を守るためにゴーグルを着用する、知的障害者を背後に回らせない(ゴルゴ13と同じです。)など、それぞれが工夫をしてください。
怪我をしたいと思う指導者はいません。それなりに注意していても、やっぱりケガを負うことはあるのです。
この怪我の多さも、障害者水泳の指導者が少ない原因の一つです。
きれいごとではありません。
怪我をすると指導者も人間だから痛いし、悲しいし、指導することがイヤになってしまいます。
できれば避けたいね。
 

■驚くほどよく休む

この世界に入って驚いたことの一つに、障害者は驚くほどよく休むということがあります。
十分に段取りをし、なんとか都合をつけてもらってスタッフも準備し、写真撮影の許可もとり、取材の人たちにも来てもらって、「さぁ、いつでもかかってきなさい。」と待ち受けているときに、電話がかかってきて、「体調不良でお休みします。」
誰が悪いわけでもなく、考えれば仕方のないことなのですが、その多いこと、多いこと。
これから、障害者水泳に関わろうとするみなさん!
覚えておいてね。
本人だけでなく、保護者が体調不良の場合も、お休みするからです。
障害者は、突然、よく休む。
そんな時、どれだけ指導者が落胆するのか、ぼくにはすごくよくわかります。
それをあまり落胆せず、次回に頑張ろうと思って下さい。
それも、指導の心得の一つです。
心が折れませんように。
 

■突然に中止になることもしばしばなんです。

・プールに来る途中、車内で暴れて引き返した。
・プールの駐車場には来たけれど車から降りず、その日はそのまま駐車場で終わった。
・プールには来たけれど、眠ったままなのでプールに入水はできなかった。
・「本人が泳ぎたくないというので、今日のプールはやめときます。」
まだまだありますが、こういうように指導者が気合十分でプールで待機していても、指導未遂でその日は終わるということが、よくあるのです。
こんなとき、指導者は腐らないで仲間と笑い飛ばしましょう。
ホントお疲れ様です。
 

■障害者は、平気でウソをつきます。

この言葉を悪く受け取らないでください。けっして差別的に言っているのではありません。
障害者の言うことを無邪気に真に受けてはいけない、とアドバイスしているのです。
例えば、
少し知能レベルの高い障害者から連絡があります。
「岡崎さん、ぼく今日は、少し熱があるので明日のプールはお休みします。」
「はい。わかりました。お大事にね。」
ムムム・・・・・、念のために保護者に連絡します。
「ええっ!そんなことは知りませんよ。明日は、プールに行くと聞いています。」
っとなるのです。
ですから、障害者の言うことを無邪気に真に受けると大変な事態に発展してしまうこともあるのです。
ぼくも何度も失敗しました。
みなさんも、気をつけてね。
必ず裏をとってください。(笑)
同じように、障害者は役者です。
日頃はガンガン泳いでいるのに、担当する指導者が初めての人だとわかると、
「ぼく、ちょっと泳げないんです。」みたいなフリをすることがあります。
これも、多いですよ。
いい意味で、騙されないようにね。

■あれっ、ちょっといつもと違う感じがする。

何がどうとは言えないのですが、いつもの雰囲気とちょっと違うなぁ、という時があります。
担当する指導者が、直感的にそう感じたときは要注意です。
慎重に対応しましょう。
経験から、そういう時は何か体か心の不調があるときなのです。
そういう時、指導者は、
「おい、なにさぼってんねん。泳がんかい。」って言いたくなるのを抑えて、ちょっとゆるめに様子を見ましょう。