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【第4回】保護者の皆さんのアンケート~発達・知的障害のある青年たちのクライミング部の意義~

今回は前回の記事「【第3回インタビュー】発達・知的障害のある青年の余暇活動グループ「プチ冒険倶楽部」のクライミング部」に続き、プチ冒険倶楽部・クライミング部にお子さんを預けてくださっている保護者の皆さんへ行なったアンケートをご紹介します。

<背景>
① モンキーマジックはプチ冒険倶楽部のクライミング部の指導を担当しています。

② 筆者(木本)は、彼らが小学4・5年生の頃から一緒にプチ冒険倶楽部のキッズキャンプをしていました。彼らが高校生になりキャンプを卒業した後にプチ冒険倶楽部内でクライミング部が設立され再会しました。
※キッズキャンプで施設にクライミングの壁があった時、挑戦したことがありました。クライミング部設立にあたり、キャンプの時の様子を参考に、楽しそうにしていた参加者に部員にならないか声をかけました。

③ クライミング部は現在月に1回程度(年に8回)活動しており、6名の部員が在籍しています。クライミング部の様子などは、前回の記事にも紹介しています。

<青年たちの紹介>
■Dさん(女性 20代 知的障害・自閉症スペクトラム症)
■Eくん(男性 20代 知的障害・自閉症スペクトラム症)
■Fくん(男性 20代 知的障害・自閉症スペクトラム症)
■Gくん(男性 20代 知的障害・自閉症スペクトラム症)

全員20代、知的障害を伴う自閉症スペクトラム症のある若者ですが、好きなことや苦手なこと、コミュニケーションの特徴など個性は色とりどりです。

<それぞれの障害特性について>
■Dさん:目に見えない物を理解する事や言語でのコミュニケーションが苦手など
■Eくん:コミュニケーションのとりづらさ、こだわり行動がある(パネル撮影やレシート集め等)、刺激によっては衝動的な行動に出ることがある、チャレンジ精神が旺盛
■Fくん:言葉の遅れ、見通しがつかないとじっとしていられない、聴覚過敏
■Gくん:特定の物や行動に対するこだわりの強さ

<クライミング部以外で日常の運動機会について>
■Dさん:週に1~2回程度
■Eくん:ほぼ毎日
■Fくん:週に3~5回程度
■Gくん:週に1~2回程度

<クライミング部以外の余暇の過ごし方について>
■Dさん:移動支援で買い物、家族と外食、図書館など
■Eくん:映画鑑賞、マンガ制作、こだわり希望に沿った街歩き(パネル撮影、レシート集め等)
■Fくん:陶芸、タイル作品、絵などの創作活動、畑仕事、ゲーム
■Gくん:水泳、ヨガ、日帰り外出、アート活動(絵画、工作等)、フライングディスク練習会

平日日中は皆さん作業所などでお仕事をされていることもあり、社会人になってからの運動機会の確保や余暇の充実した過ごし方の確保が課題でした。
特に障害があるとそれらの確保の壁もあると聞いていましたが、部員に関しては工夫もしながら積極的に色んな活動をしているんだなぁと感じました。


保護者に行なったアンケートの結果

Q1. クライミング部にお子さんが誘われたときに不安等はありましたか?

あった:1名
なかった:3名

「不安がなかった」と回答された方の声
・これまでもプチ冒険倶楽部で楽しい体験をしてこれたので
・長く知っている(知ってもらっている)スタッフがいるから安心
・本人が好きそうな活動だった
・もし思った程出来なかったとしても、今までプチ冒険倶楽部での活動では何かしら本人なりの楽しみ方や収穫があったと感じていたので、参加させないともったいないとも思った

どの方もこれまでの俱楽部での楽しめた経験、信頼関係がもとになっているようでした。

「不安があった」と回答された保護者の方のコメント
お誘いいただいた時の率直な感想は、「行かせてもらっていいのかな?」でした。「とてもありがたいけれど、大丈夫なのかな?」という漠然とした不安という感じでしょうか。「〇〇(息子さん)自身がこだわり行動を止められないのではないか」「スタッフの方を困らせてしまうのではないか」「運営側を悩ませてしまうのではないか」。
そして最終的に「やっぱり彼には難しかったみたいですね」「これができるようになったら来てね」「危険を伴う行動は困ります」のような話になっていき、中学時代にある部活の参加を途中からやんわり断られてしまった苦い経験と同じようになってしまっても仕方ない、という「あきらめ」に似た感覚があったと思います。


「不安があった」方のコメントは筆者にとっては意外でもあり、それでいて親心ってそっちかぁ、と納得のものでした。
「息子が迷惑をかけないだろうか」という心配や、昔に「部活を途中からやんわり断られてしまった苦い経験」の二の舞になるのではという感覚、とても胸が痛くなる思いです。。
自分のことではなく、子どもが上手くできるか、楽しめるか、嫌な思いをしないか、というのは親として大きく心を揺さぶりますよね。

上記の不安は今はどうですか?とたずねたところ「今は全くありません」と回答いただきました。
不安がなくなったことは勿論、保護者の方が息子さんを信頼する「自信」にも繋がっていたら嬉しいなぁと感じました。

Q2.  お子さんがクライミングに参加して、よかったことはありますか?

あった:4名
なかった:0名

「本人が楽しみにしているのが、一番よかったです」「本人が充実感と達成感をもって参加している」と、総じて「本人の満足」を回答してくださっていました。

保護者の方のコメント
・「新しい事に挑戦する事で自分に自信がついたようです。また頑張る、今度はいつ??と毎回参加した日は楽しく充実した一日を過ごせているようです。帰宅した時の顔は満ち足りています。」
・「クライミング部の活動前は楽しみに準備し、当日は行く気満々で最寄りの駅へ。終了時にはとても満たされた表情で帰ってきます。」
・「自分から細かい話をするのは難しい人ですが、帰宅後に質問すると『楽しかったねー』『がんばった!』など答えてくれます。」
・「自分からどんな一日だったのか、話すことは無いのですが、『たくさん登った!』とポツリと言ったり、帰宅後は機嫌良くしています。」
・「活動前は予定表が届いていないか毎日聞いてきたり、次回のパートナーさんや参加する仲間は誰かとても気にしています。楽しみで仕方がない様子です。クライミングから帰ってくると、あー楽しかった!今度はいつですか?と何回も言ってきます」
・「登れたのか登れなかったのか、はっきりしていて、頑張る事ができ、自己肯定感を高くする事ができていると感じています。」


クライミング部の存在が日々の日常の中での楽しみになっているという大きな価値を確認できて嬉しく感じました。また本人がクライミング部を楽しんでいる様子を家でもそれぞれが表現してくれていることを知れて、改めてクライミング部員の皆が愛おしいという気持ちになりました。

その他、保護者からのコメントを紹介

保護者の方が「クライミング部に参加してよかったこと」を挙げてくださっているコメントを紹介します。

■本人の変化・成長(2名)
・「自分でマラソンしたり、長距離散歩に行ったり、おやつのカロリーを気にして買い物をしたり、体重の増加を自分から気にするようになりました。」
・「 『あと2回登りたかった』等と言うこともありますが、気になって仕方ないというよりは、次のチャレンジではここまでできるようになりたい、と自分で整理をつけて切り替えをするために言っているような感じです。 『現実と折り合いをつける』という実社会で生きるために大切だけれど、本人の障害特性上身に付きづらい事が、好きなことをとっかかりに身につきつつある、という実感があります。(これは本当にものすごいことだと思います)」

■非日常の刺激(1名)
・「高等部卒業後は、家と通所先の往復という生活パターンになりがちなので、クライミング部の活動があることで新たな視点や感性、チャレンジの機会など、本人にとって日々の生活に刺激と潤いを与えてくれてるものになっていると感じます。」
・「普段の生活では決して体験できないことを、普段の生活では関わりを持ちづらい仲間やパートナー、スタッフのみなさんと安心して過ごすことができているのだろうと思います」

■親として安心して送り出せる場があること(1名)
・「単独行動だとトラブルが絶えない息子なので、通所施設以外にヘルパーさん以外の人とも外出の機会があって、そこに安心して送り出せることの意味は、親にとって本当に大きいと感じます。レスパイト(介護・子育て・看護など、一時的に対象者と離れて解放・休息をとること)にせよ、家事や用事をするにせよ、子のことを頭から外して何か違うことに没頭できる時間、というのは親にも心の余裕と安らぎ、安心感をもたらし、日々の生活をより安定させる力になります。 子育てはただでさえトラブルや心配事が絶えないところ、障害のある子の場合は成人しても親としての役割がずっと固定化されがちであったり、ケアする必要性は一生続いたりします。先が見えない不安や諦めのような感情を持ってしまうこともあります。そんな中、安心して送り出せる場があること自体、親にとっても一つの大切な社会とのつながりになっていると思います。」

Q3. お子さんがクライミングに参加して、困ったこと、大変だと思うことはありますか?

あった:2名
なかった:2名

「あった」と回答された方のコメント
・「クライミングが無い月は、代わりに何か予定を組めと言われます笑。」
・「季節によっては、アトピーや鼻炎など体調管理が大変と感じる事はあります。(本人管理が難しいので。)」
・「クライミングをはじめた頃に、川遊びをしていた時に急に岩場に登って、足を骨折してしまった事があり困りました。でも、その後のクライミングの時にクライミングの装備をちゃんとつけていないと登ってはいけないと教わって、その後は岩場があっても登らないようになりました。」


最後の「急に岩に登ってしまって骨折した」件について追記します。
この出来事は指導者の私としても正直ショックなことでした。
「登ることが楽しく、上手くなったら、色んな場所が登りたくなってしまう可能性があるのではないか」というリスクが頭にありながら、現実で起こってしまったからです。
幸いなことに、この怪我の完治後にもこの部員はクライミング部の活動を希望してくれて戻ってきてくれました。
当怪我の後、プチ冒険倶楽部スタッフと、さらには保護者の方とも改めて相談をし、今後の指導の方向性を確認し以下を毎回いろんな手段で伝えることにしました。
・クライミング部以外では壁や電柱にも登らない
・クライミング部の活動はクライミング指導のスタッフがいる時
・登れるのはクライミングの装備を身に着けている時
・クライミング部の活動は挨拶から挨拶まで

また保護者の方と指導やリスクについて、改めて共有できたことで普段から気にかけていただいたり、情報をいただいたりすることができました。
骨折をしてしまったこの部員もその後は外で突発的に登ることはないようです。
また、他のクライミングを始める前から高い所に登りがちな部員に関しては、「クライミング部の活動に参加してからの方が、『登れる場所がある』という納得があるのか、外で登らなくなった」ということも聞かせてもらいました。

まとめ

今回は発達・知的障害のある青年たちをクライミング部に送り出してくださっている保護者の方へのアンケートを通じて、彼らにとってクライミングはどんなものなのか、また保護者の方にとってどう捉えていただいているのかをお聞きすることができました。
アンケートからはクライミング部の利点は『本人の満足』・『本人の変化・成長』・『非日常の刺激』・『安心して送り出せる場がある』が確認できました。また、クライミング部がプチ冒険倶楽部の中で保護者の方も安全・安心を感じられる運営を行っていることで、保護者の方の安心やゆとりにも繋がっていることが分かりました。

困ったことに関しても、実際にお話を聞くことができ、それらを倶楽部・クライミング指導者・保護者・そしてクライミング部員とで相談や報告をしながら試行錯誤してきたことで、より安全で安心して送り出せる活動になったことも改めて確認できた機会となりました。

よろしければ、応援をお願いいたします!様々な障害のある人たちが一緒にクライミングを楽しめる環境づくりに遣わせていただきます!