ちょうど80年前、19歳のダヴィト・グラーベルは迫りくる死を感じながら遺書を書きました。
「世界に向かって叫べなかったことを、わたしたちはここに埋める」
そして、ワルシャワ・ゲットーの中で人々が書き残した日記や絵、詩をミルク缶に詰めて地中に埋めました。未来の世代に届いてほしいと願いを込めて。
戦後、瓦礫と化したワルシャワの街から、奇跡的に掘り起こされたミルク缶やブリキ缶の中から、30,000点にも及ぶ資料が発見されました。これは、ゲットー内で秘密裏に記録活動を行った歴史家エマニュエル・リンゲルブルムらが残虐な暴行、略奪、飢えなどの実態を見たままに記したものでした。
5月3日、「リンゲルブルム・アーカイブ」と呼ばれるホロコースト史の最大規模の一次資料をテーマにした朗読と講演の会を開催しました。開催のご報告と参加者の皆さんから寄せられた感想や参考資料など、ぜひお読みください。
朗読を披露してくれた俳優の皆さん
第1部では、庄崎真知子さん、宮脇僚汰さん、徳重樹さん、領家ひなたさんが素晴らしい朗読を披露してくれました。脚本はいずみ凜さん、演出は大谷賢治郎さん。お二人とは昨年一緒にアウシュヴィッツ裁判をテーマにした『追究ー アウシュヴィツの歌』の朗読にも取り組みました。
それぞれに心に響いた言葉を教えていただきました。
第2部は、これらの言葉がいつ、どこで、どのような状況で書かれたのか、リンゲルブルム・アーカイブについて、成蹊大学法学部教授の宮崎悠さんよりご講演いただきました。
資料がナチの目を盗んで記録され保管されたこと、リンゲルブルムたちが逮捕され、拷問を受けても、記録については一切語らなかったこと、徹底的に破壊されたワルシャワの地中から発掘されたこと、様々な奇跡が重なって、私たちはこれらの記録を目にすることができるのだとあらためて感じました。今も暴力が続く世界で、ダヴィトたちの叫び声に私たちはどう応えることができるのか。考え続けたいと思います。
参加者アンケートより
今回は190名を超えるお申込みをいただきました。デンマークやメキシコ、オーストラリア、イタリア、ドイツなど海外からも参加してくださった皆様、ありがとうございました。アンケートに寄せられた感想をご紹介します。
参考資料のご案内
宮崎悠教授の書評論文
タデウシュ・エプシュタイン『リンゲルブルム・アーカイブ調査目録』ワルシャワ、2011年 宮崎悠(『スラヴ研究』No.62)
質疑応答についての補足説明が宮崎教授より届きましたので追記します。
「ポーランドではこうした歴史をどのように教えているでしょうか?」というご質問について「最近みすず書房から出された『ホロコーストとヒロシマ』の中に、「哀れなポーランド人がゲットーを見つめている」(ブウォインスキ)という論説があります。戦後のカトリック知識人がワルシャワ・ゲットー蜂起について論じたもので、ご参考になるかと思います。カトリック信徒の良心に照らして、隣人をうまく助けられなかったことをどう考えるのか、随分議論があったようです。」と教えていただきましたので、ぜひ興味のある方はご参考まで。https://www.msz.co.jp/book/detail/09065/
日本語で読める書籍
『ワルシャワ・ゲットー 捕囚1940-42のノート』[新版] エマニュエル・リンゲルブルム著、大島かおり訳(みすず書房)
『涙の杯―ワルシャワ・ゲットーの日記』アブラハム・レビン著、A・ポロンスキー編、滝川義人訳(影書房)
教科書「歴史総合」
今年度から始まった新設科目「歴史総合」の教科書にコラムでリンゲルブルム・アーカイブについて取り上げられているそうです。執筆された中学・高校の先生も、会に参加してくださっていまして教えていただきました。清水書院と実務出版だそうです。
ユダヤ歴史研究所(ワルシャワ)
ミルク缶が展示されている小さな博物館です。リンゲルブルムが記録編纂活動を秘密裏に行っていた歴史の現場でもあります。隣の大シナゴーグは破壊されましたが、この建物は奇跡的に破壊を免れました。入口のホールの床には当時の爆撃で火の手が迫っていたことを示す焦げた様子が保存されています。旅が再開できるようになったら、スタディツアーでぜひ見学に行きませんか。博物館の公式ホームページはこちらからご覧ください。
ポーランドのユダヤ人歴史博物館(Polin)
リンゲルブルム・アーカイブのことも含めて、ポーランドにおけるユダヤ人の1000年の歴史を伝える博物館がもう一つ、ワルシャワにあります。公式ページはこちらです。宮崎悠教授より来週開催されるコンサートについて教えていただきました。お話の中にもありました「大シナゴーグ」が爆破されてちょうど79周年の来週5月16日に、Polin博物館で開かれるそうです。「大シナゴーグ」で長年演奏されていた音楽を想起するようなコンサートになるそうです(オンライン配信はなさそうです)。このようにして当時の記憶が繋ぐ試みが現地で続いているのですね。
動画資料
ヤド・ヴァシェム(Yad Vashem)というイスラエルのホロコースト博物館が制作した教材ビデオ(英語)です。
エマニュエル・リンゲルブルムの日記より
アブラハム・レビンの日記より
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