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ジェンダーフリーな居場所をつくり、まだ見たことのない景色が見たい! 「シェッド西成」の取り組み

このレポートは、地域における孤立・孤独対策に関するNPO等の取組モデル調査研究業務に取り組む釜ヶ崎支援機構の「孤立・クローゼットの奥にある新世界ジェンダーフリーシェッド事業」を記録し、最終的に報告書として紹介する目的で作成したものです。

釜ヶ崎支援機構の黒田綾さん(左)と松本裕文さん(右)

落ちこぼれるとコミュニティの人たちは放ったらかしにするんですよね。それがすごく嫌だった。コミュニティから弾かれるたびにゆったりできる場所はないだろうかと私自身が思っていました。釜ヶ崎に寄りつくことができてから、いろいろなことを試す中でようやく今回の企画をはじめることができました。

と語るのは釜ヶ崎支援機構の黒田綾さんです。

セクシャルマイノリティのよりどころ

釜ヶ崎支援機構が活動する大阪市西成区北東部は、インバウンドや海外からの移住者により活性化が進むと同時に、貧困や社会的排除による孤独・孤立が集中する地域です。

血縁・地縁から離れ、匿名で生きることも可能な暫住型エリアであるためセクシャルマイノリティのよりどころにもなってきました。支援団体が取り組みの中で工夫を重ねてきたためアート活動や居場所づくりが他地域より発展してきました。

現在ではそうした発展の影におかれている、

  • 表現者として自律をめざさない

  • コミュニケーションに控えめである

  • 性自認や性的指向を隠すか表立った話題としない必要がある

  • ギャンブル依存症等で孤立を深めている

そんな人へのアプローチが課題となっています。

「シェッド西成」が目指すこと

高齢者の身体機能の低下や認知機能の低下を予防するために、地域ごとに運動ができる場所や趣味に没頭できる場所などが設置されています。もともと地域の中でつながりがあったり社交的な方などは通いの場や集いの場に参加できますが、特に仕事一筋で頑張ってきた男性などはなかなかそういった場に参加しずらかったり、参加しても女性が多くて馴染めないというケースも耳にします。

その結果、孤立してしまう男性が増え、交流が減り、身体機能の低下や認知機能の低下が心配されます。そんな背景がある中で、オーストラリアイギリスでは主に退職後の男性が集まる「メンズ・シェッド(男たちの小屋)」が居場所になっていると言います。

男性を中心に解説しましたが、女性だけを対象にした「ウィメンズ・シェッド」などさまざまな形が世界に存在すると知り、釜ヶ崎支援機構でも同じような取り組みができないかと考えました。

松本さん シェッド西成という言葉を使うことにしたのは、ひとつの意思表示です。西成区は元日雇労働者の方や生活保護を受けている方が手仕事系のいろんな作業をされています。例えば、苗木を育て、町のプランターに植えに行ったり、ベンチをつくったりとか、 元々いろんな手作業をやっていらっしゃるので、そうした手作業を『シェッド西成』という言葉でひとまとめにしてもっと盛り上げていきたいと考えました。

黒田さん リタイアした高齢の人たちが暇つぶしにやっているイメージで見られがちなので、社会にとって価値があるんだよということをもっとアピールしたいし、高齢者だけのものじゃなくて、世代を超えていろいろな人が関われるようにしていきたいです。

松本さん 振り返りますと、シェルターの利用者やホームレス状態で生活する人から『針と糸ないか』と言われることが少し前まではよくありました。私は不器用ですからボタンもつけられないんですけれど、彼らは自分で縫うんですよね。ファストファッションが社会に浸透することでこのまま失われていってしまうかもしれない文化、衣服をリペアして大切にしていくことが、活性化している高齢者の活動の中に、あってもいいんじゃないかなと心に温めてきたテーマでした。

釜ヶ崎支援機構の内職センターの様子

「シェッド西成」の活動内容

以上の背景から本活動では1階にジェンダーフリーなリユースショップ、2階が貸室であるスペース(東田ろーじ)を活用し、衣類の修繕、廃材などを活用した木工制作、コンポストづくりの実習を行うとともに、作業をしながらのメンタルに負担のかからないつながりの形成を行います。

釜ヶ崎支援機構の内職センターの様子

内職的な仕事からアートまで、またリサイクルからアップサイクルまで広い範囲にわたる作業を手仕事とマイクロビジネスという同一の地平でとらえる文化を議成することで、ひとりひとりの特性を尊重しつつつながりを育むことを可能とします。

性自認・性的志向を周囲には隠して生活せさるをえない人も匿名のままに選んでみたコーディネイトをマネキンに着せてエリア内で撮影、秘める想いをその人の言葉と共に世界に公開できるひとりファッションショー(『ファッションの新世界』)をSNSで発信、またアプリの中で撮影地情報と併せて記録します。

こうしたSNS発信や拡張現実の活用とあわせてこのジェンダーフリーシェッドのワークショップや啓発イベントを広報することでダイバシティが仕事の中で芽生えるまち、まちかどで息づくまちづくりを行います。

黒田さん アートや表現と手仕事との垣根もなくなってきているし、今住民が持っている新世界や西成、釜ヶ崎というイメージについても、もっと変わってほしい。あえて事業名に『新世界』という名前をつけたのは地名ではなくて、まだ見たことのない景色を見たいという一心ですね。

文/狩野哲也



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