地域のイベントとのコラボで生活困窮者に日用品・衣類の提供を行う日用品ドライブ
このレポートは、WAM助成(社会福祉振興助成事業)に取り組む釜ヶ崎支援機構の居場所・住まい・仕事・社会参加バージョンアップ!ヨル・ベース事業を記録し、最終的に報告書として紹介する目的で作成されました。
今回は9/18の日用品ドライブの際にご協力いただいた「まちかど保健室」を主催する山王訪問看護ステーションの看護師・川上真美さんと野口智秋さんと、釜ヶ崎支援機構の松本さんにお話をお聞きしました。
編集・執筆:狩野哲也
2020年末、動物園前商店街で「まちかど保健室」をスタート
山王訪問看護ステーションは2020年末から「まちかど保健室」を開催していることもあり、困りごとを抱えた人もそうでない人も、ふらっと訪れることが増えたといいます。どんなきっかけで「まちかど保健室」の活動ははじまったのでしょうか。
野口さん
お向かいのココルームさんからオファーを受けました。山王訪問看護ステーションの管理者である吉村さんは、もともと病院勤務の看護師だった頃に地域看護に関心をもって、2015年から釜ヶ崎で訪問看護ステーションを立ち上げられたのですが、困っている人にいかに接触するか、ということをよくお話されています。
川上さん
困っている人に出会うと、安心して暮らせるように生活保護などをすすめていますが、拒否する人は少なくありません。拒否する理由はそれぞれで、絶縁した家族に連絡が入ることを恐れたり、いろいろ理由はありますが、いろんな病気とかをもっていても病院に通ってない場合もあるので、そういう人たちがちょっとした通り道に「まちかど保健室」のような場所があって、「誘われたから血圧でも測っていこうか」と思ってくれるきっかけができればというような思いがあります。
ーーー普段の訪問看護のお仕事は決まったルートからの依頼が多いのでしょうか?
野口さん
そうですね、訪問看護自体は、元々病院から「この患者さんには看護師さんがついていたほうがいい」とお医者さんからの依頼を受けて、そこに訪問するんです。あとはケアマネージャーとか、 地域包括から依頼があるので、困っている人が近くにいるからといって、訪問看護にいきなり入れるわけじゃないんですよ。
「まちかど保健室」ではそうやって、世間に気づかれない人たちといかに出会うか。医療が必要だけれども、どうしたらいいかわからない人にいかに医療提供できるか、というモチベーションでやっています。
ーーー「まちかど保健室」の活動は、医療にアクセスしづらくなっている人と出会う良いきっかけになっているということでしょうか?
川上さん
はい。医療だけじゃなく、生活面でもですね。他の支援とかも受けた方がいいんじゃないかなというような人たちも、話しながらこの人何か支援が必要かもしれないという人はちょっと念頭に置いといて、「また次も来てね」と声をかけて、次来てもらったときに、また話をどんどんどん進めていくような方法をとっています。「すぐに何かしましょう」と言っても絶対拒否されるので、人間関係をつくっていきながら、ゆっくりと親しくなっていきます。
ーーー1年にどれぐらいの頻度で開催されているのでしょうか?
川上さん
月1回です。これぐらいのペースでやっているとだいぶ顔見知りになって、商店街を通るたびに「血圧測っておこうか」とか、「どうしてる?」とか言って声をかけてくれる人もいれば、こっちから「どうしてますか?」と声をかけて、また来てもらって、ちょっと休んでもらいながらコミュニケーションをつくっていくということもしてます。
ーーー「まちかど保健室」をはじめた当初と今の感覚って変わってきましたか?
川上さん
感覚自体は変わらないですが、私たちの訪問看護以外にも、釜ヶ崎支援機構さんの野菜の販売があったりとか、服とか日用品ドライブがあったりとか、最近は少しずつ広がっている感じがします。
野口さん
最初にはじめた頃と比べて訪れる人がだんぜん増えました。当初は誰も立ち止まらないことが多かったです。
ーーーそうなんですね。野菜の販売や日用品ドライブはいつはじまったんですか?
松本さん(釜ヶ崎支援機構)
野菜の販売は2023年4月から、日用品ドライブは先月からですね。野菜と日用品ドライブとが並び始めて、さらに立ち寄られる方が増えています。
川上さん
こちらも水分摂取のためにお茶出したり、かき氷をつくったりとか、そういうサービスもはじめて、参加者が増えました。
野口さん
立ち止まる人が増えて、椅子に座らなくても立ち話をして帰る人もいます。あの人いつも野菜だけ買って帰るよね、というのもわかります。
ーーー顔馴染みができてきたんですね。
松本さん
そうですね。衣類提供はまだ2回目なんですけど、これは可能性のある活動だと思われますか?
野口さん
「服がない」と言われる方もいるんですよ。「今日来たら無料の衣服がありますよ」とこちらも言えるのでありがたいです。助かる人もいると思います。
松本さん
そうですか。それはよかった。野菜売りやガーデニングなどをすることで、高齢者の方の活動の場づくりをしているんですが、時期によっては野菜の収穫がない時があるので、今回、日用品ドライブをすることが新たな活動の広がりになるといいですね。
ただ、単純に物を配るとこの地域でよく行われている行列をつくってもらって渡したら終わりという活動の形に近づいてしまいます。まちかど保健室とのコラボなら、ベンチに座っておしゃべりもできるということで、日用品ドライブもいっしょにさせてくださいとお願いしてスタートしました。
埋もれている人を掘り起こしたい
ーーー今後もっとこうしていきたいと感じていることはありますか?
野口さん
管理者の吉村さんもよく言うんですけど、埋もれている、困っている人がまだまだいっぱいいるんですよ。引きこもりで、独居で、もう誰の目にも留まらない、蓋を開けてみたらえらいこっちゃな人とかいっぱいいるので、そういう人をキャッチできたらいいなと思いますね。かなり難しいのですが。
川上さん
でも、今日も高齢・長期野宿の方の相談会に参加した時に「まちかど保健室をやっているから来てくださいね」と言ったら、来てくれはったんですよ。なんかそういうつながりで、どんどんやっていけばいいかなと思います。
松本さん
いま川上さんが言っておられるのはヨリドコキッチンを会場にしてやっている「よりどこ茶談会」という取り組みですが、それは山王訪問看護ステーションの看護師さんが来てくださっていて。1回の相談だけじゃなかなか次のステップへと進めない方がいて、いろんなところでお会いして、関係をつくってようやく支援がはじまっていくという感じですね。
川上さん
そうですね。「あの時の看護師や」と向こうも覚えてくれて、やっと相談につながりますね。
まちかど保健室をはじめ多様な団体とのコラボで展開されている日用品ドライブが安心して暮らせる社会の入口としての機能を果たし始めているようです。
また、病院で定期検診を受けることも大切ですが、日本各地で「まちかど保健室」のような活動が街中で開催されていれば、「何かのついでに血圧測定を受けようかな」「近所のあの人元気しているかな」という人がもっと増え、日本の医療・福祉が底上げされるのではないかと感じました。
参照/日本看護協会機関誌「コミュニティケア」2021年8月号 | 山王訪問看護ステーション
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