コロナ禍の中で貧困支援の「入口」を守る人たち【NPOほうぼく活動報告】
今回の活動報告は、わたしたち抱樸が福岡県北九州市から運営を委託されている「ホームレス自立支援センター北九州」の巡回相談の現場からです。ホームレス支援はまず、支援を必要とする人の実態をつかむことから始まります。生活の状況、健康状態からその人が持っているこだわりまで、一人ひとりの声に耳を傾けることがすべての始まりです。そのうえで、その人にあった支援を考え、各種手続きの紹介や関係機関との連携を図ります。巡回相談とはいわば、支援の「入口」の役目を果たします。支援を必要とする人と直接かかわる現場は、コロナによってどのような影響を受けているのか。相談員の荒尾真央さん、山田耕司さんにお話しをお聞きしました。
様々な相談経路、様々な相談内容
――――――まず、普段の活動内容を教えてもらえますか。
荒尾:簡単に言えば、生活に困った人の行き先について相談にのるということです。相談の依頼はいろんなところから来るんです。本人からというのはもちろん、弁護士さんや警察、病院、一般の市民の方からも連絡が来ます。例えば、軽微な犯罪で不起訴になったものの今後の行き先がないという方や、病院を退院するけれど帰る家がないという人について相談にのってくれないかということもあります。また、夜回りのようにこちらからホームレスの方にアウトリーチをかける場合もあります。必要とされる支援は相談者によって当然違い、私たちはそれを振り分けていく役割なので、マニュアル的な対応はまったくできません。本当に一人ひとりに密着した支援が必要となってきます。
コロナで隠れていた貧困が浮き彫りに
――――――コロナ拡大後、相談内容に変化はありましたか。
荒尾:ありましたね。新規の相談で一番印象に残っているのは、10年間もネットカフェにいたけれど、コロナ禍でネットカフェが閉鎖してしまい行き場をなくして相談に来た方です。もともと、私たちの活動でも捕捉できていない生活困窮者の方はいるとは思っていましたが、まさか10年もの間ネットカフェの生活をしていた方と出会えていなかったというのは驚きでした。今まで隠れていた貧困が、コロナの影響で浮き彫りになっていると感じています。
――――――なるほど。すでに繋がっていた方からの相談はどうですか。
荒尾:そこにも変化がありました。日雇いで働いていた人たちはやっぱり仕事がなくなってしまっています。ですので、これまでは生活保護までは必要なかった人にも、改めて申請をご案内したりしていますね。また、精神的な疾患を抱えてたりする人が、今回のコロナの騒動の中で不安を覚えて相談に来ることも増えました。
感染のリスクを抱えた相談・支援活動、それでもやめるわけにはいかない
――――――相談の時に感染症対策などはしているのでしょうか。
荒尾:できる限りしていますが、相談という内容上かなり難しいことは事実です。まず、基本的に電話を持ってない人が多いんです。だからどうしても会ってお話しするしかなくなる。また、プライバシー保護の観点からできるだけ狭い相談室でお話しを聞くことが多いんです。そうなると、自前で小さな壁みたいなものを作ったりはしているのですが、どうしても限界があるのが現状です。
――――――住む場所を失ったホームレスの方が自立するために入所する自立支援センターの状況はどのようなものでしょうか。
山田:現在、北九州の自立支援センターでは20数名が生活しています。ただ、居住スペースは大部屋をパーテーションで区切ったようなもので、正直なところネットカフェと変わりません。つまり、感染リスクがあるんです。消毒、換気、部屋と部屋の間をできるだけあけるなど対策はしていますが、根本的な解決ではありません。幸い、現状では感染が起こっていませんが、もし起こってしまうと施設を閉鎖せざるをえない。そうなると新規の引き受けができなくなります。だからこそ、いまNPO(ほうぼく)が行っているクラウドファンディングで、完全個室の住まいを一刻も早く準備する必要があるんです。
――――――支援の体制を崩壊させないためにもクラウドファンディングが必要となってくるんですね。現場の緊張感がとても伝わってきます。
山田:そうです。こういう状況ですので、センターとしては新規の相談を受け付けないとか、電話相談だけにするといった選択肢もあったと思います。でもコロナによる貧困の拡大が懸念されるなかで、うちとしてはそういう判断はできませんでした。やめるわけにはいかないんです。
クラウドファンディングで準備中の住まいのひとつ
目の前が真っ暗になった時に
――――――最後に現場から見ていま求められているものとはなんでしょうか。また、その他にも何か伝えたいことがあればお願いします。
山田:いまの段階で相談に来ているのは、コロナでいきなり困窮状態に陥ったというよりもともと生活基盤や精神面でも脆弱な立場にあった人たちが多いです。そういう人たちは、コロナが終わって居宅できたらすべて元通りというわけにはいきません。なので、居宅というハード面での支援はもちろんですが、同時にソフト面での継続的なケアが必要になります。しかし、現状のキャパシティではそうした伴走型のアフターケアができなくなる可能性もあります。そこに予算をつけて人員を増やしたいというのは正直なところです。
荒尾:今回感じたのは、こういう緊急の事態になると皆さん目の前が真っ暗になって、何をしたらいいのかわからなくなってしまうということです。そういう時に、相談してもらう場所をつくることが僕たちの役割なんです。もちろんできることとできないことはあるけれど、相談してもらえればその人にあった解決を一緒に考えることができます。だからとにかく一人で悩まないでほしい。困ったらまず相談してほしいですね。
【ご寄付のお願い】
NPOほうぼくは、コロナで家や仕事を失った方に素早く、また継続して支援を届けることを目的として1億円のクラウドファンディングに挑戦しています(~7月27日)。共に前を向ける未来をつくるために、「今」皆さまのご支援が必要です。ご協力よろしくお願いいたします。
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