キョロキョロしていた私と、戦友

「え、もう少し後でも、いいんじゃない?」母は言った。

24歳になった年の暮れ、少し早めに帰省した。
私は、母に告げた。
私は、付き合って5カ月の彼氏がいる。
彼は農業をしていて、冬でも真っ黒だった。
暗いうちから出かけて、夜はくたくたになって家に戻る。
私、農業してみようと思う。
初めてのことなので、ドキドキするけど、「結婚することにした」

部屋に戻り、引き出しから何枚かの写真をひろげてみる。
4年だか、5年だか前に撮った写真。
何かのイベントの後に撮った写真。
みんな、いい笑顔をしている。

私はずっと「他人からどう思われるか」が大事な人だった。
もちろん、今だって「どう思われたって構わない」とまでは思っていない。
「正しい」、「正しくない」をいつもキョロキョロしながら探していた。

あの頃の私は、夕方になると、駅の近くのショッピングモールにいた。
何の音なのかわからないけど、ここはいつも騒がしい。
フードコートの軽い席に座りながら、ミーティングをした。
次のイベントは初めてのことばかり。
私たち大学生は、「中学生」と「大人」をつなぐ役。

中学生だったことはあるけど、中学生の気持ちはわからない。
お酒は飲めるようになったけど、大人の気持ちはわからない。
とてもとても大切な役割をもらったことは嬉しい。
でも、「どうしたらいいか、わからない」

大きな声で叫んでみた。「わからな〜い!」
なかったかのように、かき消されてしまう。
キョロキョロと周りを見ても、
ショッピングモールには「正しい」は置いてなかった。

「正しい」は見つからないまま、本番だけがじりじりと近づいて来た。
やるしかない。「正しい」なんて誰も教えてくれない。
これでやる。
私の決断に仲間は誰も反対しなかった。
おそらく反対することすらできなかった。

本番は終わった。くたくただった。
気持ちの良い、くたくただった。みんなで写真を撮った。

やると決めた時、何かが始まった。
「正しい」はどこにもなかったのに、決めたことが「正しい」となった。
誰の目も気にしない。
仲間は、私の決めたことが「正しい」と言ってくれた。
正しいか正しくないかを、誰かに決めてもらったのではない。
私は自由になった。
自由にしてくれた。
仲間は戦友となった。
一緒に見えない敵と戦った「戦友」だ。

先日、戦友に「結婚」を告げた。
みんな大きく頷いてくれた。
あなたが決めたのなら、それが「正しい」のだと。
自由になった私だけど、時々怖くなることがある。
でも、私には戦友がいる。


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