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中高生のためのサードスペース「よりみちハウス」が岡山県久米南町にオープン【前編】

2023年10月に岡山県久米南町のJR弓削駅前にオープンした中学生・高校生のためのフリースペース「よりみちハウス」。利用対象者のメイン層は中学生と高校生ですが、高校を出て間もない社会人も利用しています。

久米南町は岡山市中心部から北へ約40km、津山方面へ向かう途中にある人口約4300人(2024年2月現在)の小さな町です。町内には小学校3校、中学校1校。中学卒業後、高校へ進学する子どもたちは岡山市や津山市へ通う環境です。

──よりみちハウスができた時、どう思った?と質問すると、「素でおれる(いられる)場所だなと思った!」と屈託なく即答した利用者の子どもたち。オープンからわずか半年で、よりみちハウスはすでに子どもたちの「居心地のよい場所」になっています。

人口減、そして少子化が避けられないこの町で、中学生や高校生のためのフリースペースはどんな役割を担うのか、そしてスペース設立に奔走したスタッフの皆さんはこれからの運営や子どもたちの暮らしをどう受け止めているのか、そんなお話をうかがいました。

中高生が集まり、いずれここが全世代をつなぐハブスペースになれたら

河童をさがせ?!な駅前広場 

岡山県内に残る木造駅舎で最古のもの。それが久米南町にあるJR弓削駅舎です。駅前のこじんまりとした広場を1周すると、そこかしこに河童の銅像がありました。「なぜに河童?」と調べてみると、河童キャラクター起ち上げはこの町に河童伝説が残っているのが由来だそう。

弓削駅を出ると、河童の銅像が並ぶ広場の向こうに建つクリーム色のビルが目に入ります。ビルの外壁の両側には、メジャーな日本酒の銘柄が記されたパネル。土地勘のない人がこのビルを見ると、おそらく大半の人が酒屋だと思うでしょう。

 

酒屋の雰囲気が残る駅前ビル

駅からビルへ近づいていくと、ガラス窓にカラフルな手書きの文字で「よりみちハウス」と描かれていました。聞けばこのビルは、平成20年代まで使っていた商店。店を閉めてから10年以上使われていなかった1階スペースを、久米南町を拠点にまちづくり支援の活動をするNPO法人らんたんが「よりみちハウス」としてオープンさせたのです。

中で何をしているのかな?と思わずのぞきたくなる、あたたかみのある手書き文字

 「よりみちハウス」を作ったきっかけは、「児童館は小学生以下のためのもの、公民館利用者の中心は大人なイメージ。地域の中に、中高生を中心とした若い世代が集まる場所があってもいんじゃない?!」という、そんな地域スペースの在り方への疑問がわいたこと。町内に気軽に集える場所を設けて大人と子どもが連携することで、地域と子どもがもっと深く繋がれるのではないかと考えたそう。

よりみちハウスのスタッフは、なおちゃんこと二階堂尚子さん、いけちゃんこと池内柊平さん、めいめいこと明楽香織さんの3人。それぞれがNPO法人らんたんや地域おこし協力隊での役割を担いながら、よりみちハウス運営にも奔走しています。

よりみちハウスオープン時のフライヤー。名前がまだ決まっていなかった

「私は地域おこし協力隊の時から中高生の社会教育分野に関わっていたので、ずっとこういう中高生のためのフリースペースを作りたいと考えていたんです」

生後半年になる赤ちゃんを抱き、取材に対応してくださった明楽さんは、よりみちハウス設立のいきさつをこう語ります。明楽さんは地域おこし協力隊として岡山市内から久米南町へ移住し、任期を終えたのは2022年。その後もここ久米南町で暮らし、中高生のための活動を続けています。任期中は高校生主体で企画した「未来商店街」の開催にも尽力し、この取り組みは令和2年度と令和4年度の岡山県公民館連合会主催の「公民館職員が選ぶ!!講座アワード」で準グランプリを受賞しました。

そしてスタッフの二階堂さんは、現役の久米南町地域おこし協力隊メンバー(2024年取材時)。中高生より小さな年齢対象の子育て支援事業の担当で、明楽さんとは日頃から「いずれ、子どもに関する自治体の機能を1つにまとめられたらいいね」と話していたそう。乳幼児の保護者が集まるサロン、小学生のための放課後児童クラブ、そして中高生のためのフリースペース、町の子どもたちや保護者が安心して集える場所を1箇所にまとめるのが、「よりみちハウス」の最終的な目標だと2人は話します。「よりみちハウス」の設立は、そんな展望のための第一歩。まずは町内に皆無だった中高生のためのフリースペースを確立し、そこから様々な年代の子どもたちへネットワークを広げていけたらと考えているそうです。

二階堂さんは「よりみちハウス」を「学校でもない、家でもない場所。中高生にとってのサードプレイス的な環境になれば」という思いで運営しています。現在のオープンは水曜日の午後と土曜日の午後。オープンから半年が過ぎ、「水曜と土曜は、何も予定がなければとりあえずココに来てみる」と、利用者の子どもたちにはそんなふうに気軽に顔を出す習慣がついているようでした。 

「なんとなく」から「こうしたい」。講座やイベントの企画を促し、子どもたちが自発的に動ける環境を

よりみちハウスのコンセプトは、『なんとなく』から『こうしたい』。

おしゃべりしたり宿題をしたりする場所として使うほかにも、不定期でイラストやデザイン、カメラなどの講座を開催し、子どもたちが「なんとなく興味を抱いている事柄」に対して学べる場も設けています。これらの講座をきっかけに、よりみちハウスのロゴを作りたいという話が出たり、そしてスタッフ池内さんはホームページづくりに着手するなど、よりみちハウスのクリエイティブ部門が活発になりつつあります。

ホームページ制作中のスタッフ池内さんとたかぴー(今春から社会人!)

取材は2024年3月20日。
この日は2023年10月にオープンしたよりみちハウスにとって初めての卒業パーティーでした。タイトルは「卒業おめでとうパーティー inよりみちハウス お菓子ぱーてぃーするよ ~みんなが好きなお菓子を食べたいだけ食べちゃおう~」とのことで、パーティーのこのメインイベントも子どもたちの発案によるものだそう。

「子どもたち、なかなかこうしたい!って言わないんですよね。今回も何がしたい?と何度か聞いて『お菓子をたらふく食べたいかなあ~』とやっと言ってくれた感じ。講座の企画もそうですけど、普段から子どもたちの『こうしたい』を手伝えたらいいなと思っています」と二階堂さん。もどかしく思いつつも、色んなことを促しつつ気長に子どもたちからの発案を待っているようです。

そして二階堂さんと話しながら取材の準備をしていると、パンパンの買い物袋を何個も手にした子どもたちが「たっだいまー!」と元気な声で室内へ入ってきました。もちろん、袋の中身は全てお菓子です。

全員が両手に買い物袋を

「足りない分は僕が出したよ~」と頼もしい発言をしたのは今春高校を卒業し、4月から社会人になるたかぴー。始まるやいなやエナジードリンクを美味しそうに飲みだしたSちゃん。「食べていいのー!」とうれしそうに袋を開けるAちゃんとRちゃん、そして他にも好きなようにリラックスして過ごす面々。中学1年生から高校3年生、会の中盤には高校生の時に「未来商店街」へ参加したという社会人1年生も参加し、皆が和気あいあいと同じ空間で過ごしていました。

かんぱーい!と、好きな飲み物で卒業パーティースタート

持ち物のマスコットの自慢、駅前で誰々に会った、バイトを卒業してきたという近況報告。子どもたちの話にはとりとめがありません。でも、社会人と高校生、中学生と年齢の差があっても、参加者全員が誰かに何かを強制されることなく、スマホ片手にきょうだいのようにこの時間を楽しんでいます。

──みんなにとって、ここはどんな場所?

「ここは素でおれる(いられる)場所だなと思った!」

──学校では、素じゃないの?

「うん、そうではないかな……」

──ここでは素でいるのが平気?

一同うなずく

──みんなはよりみちハウスをどうやって知ったの?

「たまたま(外で)会って誘ったとか」
「Aちゃんが色んな人を誘ってきたよね」

 素でいられる場所。子どもたちが明るく、そしてリラックスして過ごす様子を見ていると、よりみちハウスはまさにその言葉通りのスペースになっているとわかります。二階堂さんの言う「学校でもない、家でもない場所」が体現されており、子どもたちは学校ではあまり出さない素の自分自身を仲間の子どもたちに、そして大人のスタッフに安心して見せているようでした。

卒業パーティーの終盤、卒業生への花束贈呈が行われました。よく見るとその花束は紙の花でできたもので、作成者は中学2年生のAちゃん。彼女は昨年折り紙にはまった時期があり、いくつもいくつも星型の花を作っているうちに、花束贈呈プロジェクトが立ち上がったのだそう。

星形の花をいくつも束ねたボリュームたっぷりの花束

 「折った花がすごいたくさんになったから、これ3年生にあげたらいいんじゃね?みたいな感じになって、そこから始まったんです」

花束づくりのいきさつを楽しそうに話すAちゃん。Aちゃんは中学1年生の途中から不登校になり、現在中学2年生です。よりみちハウスをオープン時から利用しているレギュラーメンバーのひとりで、この半年でスタッフや他の利用メンバーと親交を深めてきました。

よりみちハウスができるまでは、外出は近所への買い物や図書館へ行くくらいで、自発的に誰かと会うことはほとんどなかったそうですが、現在はフリースクールへも通い、「友達と○○県の高校に通いたいんだ」と進路希望も具体的になってきています。そして意外にも、オープン当初のよりみちハウスへ友人を誘ってくる機会が多かったのはAちゃんだと、皆が口をそろえて言っていました。

──Aちゃんにとって、よりみちハウスは誰でも連れて行きたいと思う場所?

「うーん。そうとも違う。金髪に染めてから学校とか行けてなかったんですけど、あのニット帽かぶったやつ(指で示して笑う)と、久しぶりに図書館で会ったんです。本当に今までと変わりなく接してくれて。暇だしいいかと思ってよりみちハウスに誘ったら来てくれるようになって」

──髪の毛を金髪にしたことで、遠ざかっちゃった友達はいた?

「周りの目はあったけど、自分の好きなことを好きでい続けたいから、今は別に人の目は気にしてないかな」

──Aちゃんにとってよりみちハウスはどんな場所?

「普通に素でいられる。さっきさ、女子2人でおるところにりょうぴーが来てくれたりして。なんかもうみんな優しくて相談に乗ってくれたりしてるんで、1番素でいられる場所」

──ここでだから話せることってある?

「あると思う。なおちゃん(二階堂さん)には、あったこと全て話すんだ。昨日カラオケ行ったんだっていうことから話すし。恋愛相談とかも……」

──よりみちハウスがなくなったら…?

「想像できない!できないよ。できない」

パーティーが終盤になりお菓子に満足すると、その後はハンモックでゲームをする人、スタッフいけちゃんのホームページ作りを手伝う人、鏡の前でおしゃれ談義をする人と過ごし方は様々。Aちゃんも同年代のRちゃんと外へ散歩に出たかと思えば、戻ってからは二階堂さんとハグしながら真面目な話をしていました。

──みんなにとって、二階堂さんはどんな存在?

「お母さん!母性あふれるお母さん!」
「フリスペ※のお母さん!」 ※よりみちハウス命名の前のフリースペースの通称 

子どもたちが発する二階堂さんへの「お母さん」という言葉には、安心感と信頼感があふれていました。設立半年、よりみちハウスがこんなにも子どもたちの拠り所となっているのは、スタッフ二階堂さんの存在も深く関係しているようです。


後編は、常駐スタッフとしてよりみちハウスを運営する二階堂さんの話を中心にお送りします。

取材・ 文:國富由紀

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