見出し画像

コラム「境を越えた瞬間」2024年11月号-佐々木雄飛さん‐

プロフィール

佐々木 雄飛(ささき ゆうひ)

1991年 岩手県陸前高田市生まれ
2014年 宮城県の看護専門学校卒業
2014年~2019年 東京都の病院勤務
2019年~ 訪問看護師(東京都→千葉県茂原市)

佐々木さん(写真右)と小田さん(写真左)


私なりの訪問看護
~小田瞳さんとの出会いを通じて~

私は病院にて4年勤務し、その後一大決心して訪問看護の世界へ飛び込みました。転身を決めた理由は、「訪問看護に興味があったから」と至ってシンプルです。

しかしながら、転職してすぐの頃は前職が急性期病院だったこともあり、ご利用者様の「在宅生活」がうまく想像できず、訪問看護師としての在り方を模索する日々でした。

往診医や病院医、ケアマネージャー、MSW、ヘルパー、訪問入浴等関わる業種が多く、ケースによって変化する訪問看護師としての立ち位置や病院看護師とのギャップに途方に暮れた時期もありました。

訪問看護師として奮闘すること3年目、私は小田瞳さんの訪問を担当することになりました。小田さんは若くして難病を患い療養していました。

それでもいつも前向きで、日々の生活や子育てに励む小田さん。それまで自分なりの訪問看護師像をどこか掴みきれないままがむしゃらに業務をこなしていた中で、小田さんとの出会いは「病院看護師と訪問看護師の境」をのりこえる大きなきっかけになりました。

小田さんとの関わりの中で、今でも心に残る印象深いエピソードを紹介します。

小田さんは自宅でリフトを使って入浴していました。ある日の入浴中、腰背部痛の訴えがありました。最初は入浴自体は続けられる程度だったのですが、だんだんと痛みが強くなり、最終的には自宅での入浴ができなくなってしまいました。

訪問入浴を利用しても入浴できないほどでした。いつも明るい小田さんもこの時ばかりは「仕方ないよ」と諦めていましたが、私は入浴できないのは清潔保持の面からも気持ちの面からもつらいだろうなぁと思い、訪問看護師としてできることを考えました。

そんな中思いついたのは、【ベッド上でのシャワー】です。
もともと医療者でもある小田さんの意見も取り入れながら2Lペットボトルにお湯を何本も準備し、ベッド上にタオルと吸水シートを敷きます。
準備が整ったら、看護師、ヘルパーで協力しあい全身にお湯をかけ、洗っていくのです。時間がかかりすぎると疲労感の増幅につながるため、洗髪は看護師、洗体はヘルパーと、担当を分けて行いました。

薬の影響で易骨折状態にある小田さんは、訪問入浴を利用しない入浴に対して恐怖心を抱えているようでした。またこの方法での入浴をし始めた頃は、お湯の温度調節がうまくいかなかったり、ヘルパーと担当を分けていてもかなりの時間を要してしまったり、床一面を水浸しにしてしまったりと失敗の連続でした。
しかし、何度か訪問する中で改善・対策をし、また小田さん自身も慣れていき、ひとつのケアとしての形を確立させることができました。

小田さんがとても満足そうな表情をしていたのを今でも思い出します。

小田さんの息子さんが母を洗髪するところ


病院看護師として従事している時は、入浴方法ひとつについてここまで考えることは正直ありませんでした。自宅療養している方々は入院している方々と比べて自由な生活をされているのかと思っていましたが、自宅にいてもひとりではどうすることもできないことが多くある現実を目の当たりにしました。

と同時に、「自由さと不自由さの境」を取っ払う術を見出し、より良い生活に導くことこそ訪問看護師の醍醐味であることも、このケースを通じて強く感じました。

訪問看護師としての自己像に迷いが多かった私に、存在意義を感じさせてくださった小田さん。もはや患者と看護師という境をも越えて、お互い尊敬し合える間柄を築けていたのではないかと思っています。

小田瞳さんに最大の敬意と感謝を込めて。

バレンタインデーで札束チョコを頂きました


境は至るところにあります。目に見える境もあれば目に見えない境もあります。境がないと壊れてしまうものもあれば、境があるから困ってしまうことがあるのかもしれません。
毎月、障がい・福祉・医療に関わる方に「境を越えた瞬間」というテーマでコラムを書いていただいています。
いろいろな方のコラムをぜひ読んでみてください。
▶コラムのマガジンはこちら

境を越えて (sakaiwokoete.jp)
境を越えてではパートナー会員&サポーター会員を募集しています!また、SNSを見る&シェアする応援も大歓迎です!