「はだしのゲン」英訳者の講演中止
「米国人翻訳家 アラン・グリースン」
明日は、プリンスジュニア成城教室のセミナーでお話をさせて頂く関係で、前倒しで更新させて頂く。
私は、先月20日と27日、テレビ朝日のモーニングバードに出演させて頂いた。そのときに意見を述べさせて頂いたのが、松江市教育委員会の「はだしのゲン閉架措置」についてだった。この問題は、それぞれに戦争や原爆の悲惨さを今一度考えることが出来た。「はだしのゲン」という本の評価は様々あるだろう。しかし、今回のように特別扱いをすることは、教育委員会の目立たない形の検閲になる。あってはならないことだろう。
10月3日、また、新たな「はだしのゲン」問題が浮上した。以下は、それを伝えた毎日新聞の記事だ。
『広島での被爆体験を描いた故・中沢啓治さんの漫画「はだしのゲン」の英訳出版に尽力した米国人翻訳家、アラン・グリースンさん(62)=東京都杉並区=による生徒への講演を4日に予定していた同区立井荻中学校(赤荻千恵子校長)が、前日に急きょ中止したことが分かった。講演は別の講師に差し替えて行われた。グリースンさんは「『近ごろの事情』などと曖昧な説明を受けたが、圧力や自己検閲があったのか」と話している。
講演は「いのちの教育」と題し、「いのちについての考えを深め、自他のいのちを尊重する心を養う」のが目的だった。
~中略~
グリースンさんは「私は『ゲン』の翻訳者の一人でしかないが、事務所近くの中学校の依頼だったので、光栄に思い引き受けた。松江市教委の閉架問題の影響なども聞いたが、校長は『社会の流れ』『近ごろの事情』『内部の決定』としか説明しない」と憤る。
取材に対し、赤荻校長は「都教委や区教委には相談していない。自分の判断」とした上で、「『はだしのゲン』は読んだことがない。生徒も勉強していないので興味が持てないと考えた。『はだしのゲン』に特化しないでほしいと伝えたら、断られた」と話した。
4日は元小学校長による「ことばの教育」に差し替え、「いのちに関する詩」を取り上げた。』
以上
社会同様、教育界も多様化の時代を迎えている、しかし、現実はより閉鎖的環境へと向かっているように思える。先の松山市の閉架措置に疑問の声を上げない現場教師、何事も事なかれ主義で、上意下達のごとくただ指示に従う状況に、今もって続く現場教師の体罰問題も何となく頷ける。社会と隔離された学校で何が語られているのだろうか。松江市の教育長は「はだしのゲン」を読んだとされているが、テレビ朝日の取材のコメントからは、私自身確かに読まれたと感じ取ることは出来なかった。今回の赤荻千恵子校長は読んでいないと仰っている。つまり、「はだしのゲン」とは関係はないと言うことだろう。事の真相は当事者でなければ解らない。しかし、前日になってのキャンセル、そして、その理由の曖昧さ、あれだけ物議を醸し出した「はだしのゲン」問題だが、本だけではなく、その話題も触れてはいけないのか、『「はだしのゲン」に特化しないで…』という発言も、同じ話し手として疑問を抱いてしまう。今、学校で何が起こっているのだろうか?
戦前、学校教育は自由を奪われた経験を持っている。教師達が子ども達に作文指導するための研修すら許されなかった時代があった。今、子ども達と接し、教師自らの責任の下、自由に教育を語れる時代となった。なんと素晴らしいことか。「はだしのゲン」には、事実過激な表現がある。目を背けたくなる。しかし、実際の戦争を表現することは不可能に近い。もっと悲惨で過激だからだ。何百、何千、何万もの悲惨なシーンがあった筈だ。子ども達には、この本意ついて判断できないだろうという見方もある。子ども達をバカにしないで貰いたい。言い返すなら、この本は大人でも判断が出来ないだろう。だから考えさせられる本なのだ。思考力を失っているのは誰なのか。
この問題については、これからもしっかり見守っていきたい。
2013/10/2
著:石川教育研究所 代表 石川 幸夫
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?