
目が棒
姉は、ななのことが大好きだ。
もちろん、家族もななが大好き。
親は静かにななを見守る。
私は基本、見守るベースでたまに、発作のごとくななの名前を連呼しチューの嵐を繰り広げる。
「仕方がないな……」
と、たまのことだから許容してくれる。
ところが、姉は一味違うのだ。
なな愛が強すぎて毎朝、ななの至福のときを邪魔し、なおかつ、やめろとサインを出すも気にせず構いたおす。
結果、何もしてないのに、
「ウゥゥゥゥゥゥゥゥゥ」
と唸られる。
「お姉ちゃんは、そんなことではメゲナイヨ」
最終的には、ななが諦めて姉のなすがまま。
大きなため息をつき、小さな抵抗は試みるが、不発に終わる。
そんな攻防が毎朝、繰り広げられていることを知らなかった私。
そんな現場に居合わせたある日。
姉に抱きつかれたななの、私に向けた表情が衝撃的だった。
まさに、目が棒なのだ。
なんの感情も表れていない、無の境地。
嵐が過ぎ去るのをじっと耐え忍ぶなな。
後に、なながいなくなってから思い出を振り返るたび、姉はななにした所業を猛省していた。
「でも、可愛くてしかたなかったもん」
その気持、わからなくもない。
可愛さ余って、可愛さ百倍、
だからね。