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『中国における技術への問い』書評

本書は、香港出身の哲学者であるユク・ホイ氏の2016年に出版され、2022年の9月にその邦訳が出版された。この内容が、私がこの1年間、論文を執筆しながら追いかけてきたテーマと重なるところが多く、視野がクリアになった感謝も込めて書評を行う。

まずは、ハイデガーの技術への問いに立ち戻り、その意義を認めつつも「故郷回帰」という国粋主義に陥ってしまった点を批判している。テクノロジーが破局をもたらしつつあるのは、現代の気候変動を見ても明白であるが、それに対抗するために「故郷」に根差したクローズドな問いを立てていても無効である。ハイデガーがファシズム・国家社会主義という袋小路に陥ったことは当然批判されるべきだが、何よりも気候変動は国境を越えた全世界的な問題であり、テクノロジーのもたらす破局に対して無意味であろう。

ハイデガーの影響を受けた日本の京都学派についても詳細に述べている。中でも西谷啓治についての論究が数多く占めている。京都学派で技術論と言えば三木清というイメージを持っていたが、意外にも西谷啓治がニヒリズムをもたらしたテクノロジーについての論究が数多く、それを丁寧にトレースして改めて西谷の論考を振り返りたいと思った。

実は、私の卒論で西谷啓治を取り扱ったことがあり、ニヒリズムについての論考でその実存的側面を取り上げていて、テクノロジーとの関連が疎かであったことを痛感した。西谷の方が国家主義的で批判的に取り上げやすいという点はあったにしても、京都学派の問題意識を現代的に見やすくするのに意義にも適した哲学者なのかもしれない。

著者は、ハイデガーの影響を受けた京都学派が「近代の超克」に陥ったことについても、ニヒリズムの超克を目指すとしながら、ナショナリズムとレイシズムに陥ったことを批判している。西谷はヘーゲルやランケを参照していると自称しているが、ハイデガーとの個人的関係から強く影響を受けたのではないかと著者は診断している。

そして、その延長線上で、プーチン大統領のブレーンとして今を時めくドゥーギンの第四の政治理論についても言及している。ロシアとウクライナの紛争前に取り上げている慧眼に感服である。

ドゥーギンはハイデガーの影響を濃厚に受けながら、リベラリズム、コミュニズム、そしてファシズムを超克する第四の政治理論として、「ネオ・ユーラシア主義」を提起している。しかし、これも旧ソ連の領土復活が大意のようであり、京都学派が唱えた大東亜共栄圏のような代物であり、京都学派の二の舞であると見ている。

この失敗した、あるいは現在進行中の試みに対する対案として、提起されるのが副題の「宇宙技芸(cosmotechnics)」である。諸子百家以来の中国の伝統に根ざしつつも世界に開かれた多様性を尊重する道徳観・世界観である。主観と客観、人間性と自然、道徳と宇宙、実践と理論、現象と物自体がフュージョンしているような世界観を再発明しなければならないとしている。

今後進めるの論考の「目次」あるいは「素描」としてこの書籍を出版したという点が実に興味深い。確かに、宇宙技芸とは何かという点が具体的に記載されているわけではない。かつて誰も立てたことのない問いを立てただけでも十分価値のあることなのだろうと、評者である私も同意する。

実際、続編としての書籍が英語などの言語では発行中で、日本語では『再帰性と偶然性』が発行されている。アジアをベースに考えつつ、世界に開かれた世界観をこれから詳述されていく過程を共に歩むことを楽しみにしていきたい。


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