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書評『ベーシックインカム×MMT(現代貨幣理論)でお金を配ろう』
『ベーシックインカム×MMT(現代貨幣理論)でお金を配ろう』は、現代貨幣理論(MMT)とベーシックインカムを組み合わせた所得保障政策の提唱に関する書籍である。著者のスコット・サンテンスは、ユニバーサル・ベーシックインカムの概念を提唱・研究してきた人物であり、本書ではその経験を踏まえて、現代経済理論との対話を通じてベーシックインカム政策の可能性について探求している。
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本書の長所1
本書の良い点は、covid-19以降の経済状況やそれが引き起こしたインフレーションの問題に対して、貨幣流通量とインフレとの間には因果関係がないことを示したり、供給の制約がインフレを引き起こすという点を示すことで、ベーシックインカムやMMTが持つ可能性について深く掘り下げていることが挙げられる。
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ベーシックインカム論は、デフレ的な経済状況への処方箋として論じられることが多かった。つまり、需要が低迷するデフレ状況に対して、消費者に定期・定額給付することによっての消費の底上げを行うことで経済の活況を引き起こすことが目的とされるケースが多かった。
しかし、原油高等の物価高騰に直面して、デフレ克服の手段としてのベーシックインカムは旗色が悪くなっていた。それに対して、著者は原料や部品の調達難など供給の制約がインフレを引き起こすのであって、貨幣流通量とインフレ・デフレには関係ないことを示して反論している。
本書の長所2
本書のもう一つの良い点は、ベーシックインカムとJGP(雇用保障計画)を二項対立の関係にしていない点である。マニアックな注目点ですが、ベーシックインカムは無条件の給付であるのに対して、JGPは労働の対価として給与を保証する考え方であり、両者は対立関係として論じられるケースが多い。
それに対して、著者は供給体制の安定・充実を確保するための手段としてMMTを通して通貨を発行して、社会にとって必要な仕事を景気の好況不況に関わらず確保することを提案している。そのことによって、物価の高騰を抑えつつ、需要を安定させるためにベーシックインカムを給付する方法を提案している。このアプローチは優れていると評者は評価する。
本書の問題点
しかし、本書の問題点としては、ローカルで具体的な実践例が欠如している点である。限られたページ数の制約があるのでやむを得ないが、何点かローカルで具体的な実践できる具体例があると良いと思った。
雇用所得によらないベーシックインカムの模索、社会の持続可能性を維持する手段としてのベーシックインカムの提案などがある。これらの点については、より詳細な議論や実践的なアプローチが必要であると言える。
評者の地元では、再生可能エネルギー(小水力発電FIT売却益)をもとに地域の水道改良費をねん出する試みがある。
こういった具体的な実践を積み重ねることで、ベーシックインカムとJGPを組み合わせながら、社会と地球環境の持続可能性を高めつつ、個々人の生活を豊かにするアプローチを見出すことができるのではないだろうか。