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哲学エンジニアのライフヒストリー(12)~彼女との時間、涙とともに~

那覇空港で初めて彼女と対面した瞬間、私はその場から動けなくなった。遠目からでも彼女だとすぐに分かったのは、彼女の柔らかな笑顔と小麦色に日焼けした肌が、メールのやり取りの中で私が想像していた彼女そのものだったからだ。もちろん写真でのやり取りがあったから、イメージはできていたが、それ以上の引き合うものがあったのだ。

その笑顔は、長い間抱え続けていた不安や孤独を一瞬にして吹き飛ばし、胸の中に暖かい光を灯した。再会ではなく初対面でこれほど心が満たされる感覚は、生まれて初めてのものだった。

「来てくれてありがとう。」

彼女のその一言が、旅を決心した自分をどれだけ救ったことか分からない。彼女の運転する車に乗り込むと、私たちは自然と笑顔で会話を交わし始めた。

読谷村に到着したとき、彼女がKiroroの出身地だと自慢げに案内してくれた場所は、静かな温かさを湛えた土地だった。地元のソーキそばの店で食べた料理は絶品で、彼女と笑いながら分け合ったその味は、きっと一生忘れることがないだろう。続いて北谷のモールでは、雑貨店や洋服店を巡り、気楽な会話を楽しんだ。時間がどれだけ経ったのか分からないほど、すべてが心地よかった。

翌一泊二日の旅で泊まった久茂地のホテル。翌朝、食卓に並んだゴーヤの和え物が驚くほど美味しく、初めてこの食材の本当の魅力に気付かされた。名残惜しい気持ちを抱えながらも、私は昼前に出発するために空港へと向かった。

空港のロビーで見送りに来てくれた彼女に「付き合ってほしい」と告白したとき、自分がどれだけ緊張していたか振り返ると、いまだに手の震えを思い出す。彼女は真剣な表情で私の告白を受け止め、「ありがとう」と言いながらも、男の人への恐怖を完全に克服できないと涙ながらに告げた。その言葉に、彼女の抱える痛みの深さを改めて感じ、返す言葉が見つからなかった。それでも彼女が「これからもメールで話そうね」と言ってくれたことに救われた。

最後に北谷のモールで買ったインスタントカメラで撮影した記念写真には、旅のすべてが凝縮されていた。「焼き増ししたら送るね」と約束を交わし、私は旅立つ決意をしたが、心は置いてきぼりにされたようだった。

帰りの飛行機、関西国際空港行きの機内で、なぜか涙が止まらなかった。何かを失ったような喪失感と、彼女との時間があまりにも短かったことへの後悔が、次々と押し寄せてきたのだ。隣の席の人に気づかれるのが嫌で、窓の外を見つめて涙を拭ったが、感情は抑えきれなかった。

見かねた客室乗務員がそっとポケットティッシュを差し出しながら言った。「春は別れの季節ですからね。」その声は優しく、まるで心の奥を包み込んでくれるようだった。その一言で、心が少し軽くなった気がした。飛行機が関空に着陸する頃、涙は止まっていたが、胸の中には、彼女との再会を誓う小さな希望が灯り続けていた。

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