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オフシーズンには舞台へ

 MVPをはじめとする各賞が発表され、2024年度のMLBはつつがなく幕を閉じた。これからしばらくは、世界中のMLBファンが愛するチームの躍進を夢見ていられる幸せな日が続く。
 今のMLB選手たちはオフシーズンも優雅な過ごし方をしているが、今ほど十分な報酬を受け取っていなかった時代には、冬の間にパートタイムの仕事に勤しむ者もいた。史上初の黒人MLB選手として知られるジャッキー・ロビンソンは家庭電化製品を売っていたし、後に栄誉の殿堂に合祀される右腕投手ジム・パーマーは、家のローンを支払うため紳士服店で働いていた。しかし最も驚くのは、31年にわたってニューヨーク・ジャイアンツで采配を振るったジョン・マグローが、ヴォードヴィリアンとして漫談を披露していたという話である。それどころか、何と週に3,000ドルも稼ぐ売れっ子だったそうだ。
 実際20世紀初頭には、ヴォードヴィリアンとして舞台に立つプロ野球選手が数多くいたらしい。『Take Me Out to the Ball Game』(1947年、邦題『私を野球に連れてって』)は、MLBに12シーズン在籍し、その間ブロードウェイの舞台にも立っていた外野手マイク・ドンリンの実話に基づいていると言われている。映画では、ジーン・ケリー扮する遊撃手エディ・オブライアンと、フランク・シナトラ扮する二塁手デニス・ライアンは、ウルヴズのスター選手でありながら、オフシーズンには歌やダンスを披露するヴォードヴィリアンとして喝采を浴びている。
 しかしショウビジネスの世界は、MLBと両立させるのには厳しいものだったようだ。ジョン・マグローがオフシーズンにヴォードヴィリアンをしていたのは、1912年の、それも15週間限りのことである。マグローは当時について、「舞台の仕事には慣れなかった。もうたくさんだ」と述懐している。またマイク・ドンリンも、正確に言うとMLBと舞台を両立していたのではなかった。1905年にはマグロー率いるニューヨーク・ジャイアンツで150試合に出場、ナショナルリーグ第1位の124得点、第3位の打率.356をマークしたが、飲酒癖が災いして解雇される。役者の仕事に目覚めたのは、引退状態だった1906年からのことである。こんなに苦労をしなくてもすむだけでも、今の選手たちは幸せだと言って良いかもしれない。

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