【プロンプト例有】新規事業への生成AI活用を加速する”事業テンプレート化”のすゝめ
こんにちは、株式会社NEWhの飯野です。
新規事業開発への生成AI活用。
多くの企業が興味を持っていますし、何かしらトライしていると思います。
生成AI自体は、新規事業開発プロセスのいろいろな部分で使えます。市場調査を効率的にする、事業アイデア創出のサポートをする、事業アイデアの評価を行う、プロトタイプの作成、ユーザーテスト・・・などなど。あげていくとキリがないです。
ただ、生成AIの事業開発への活用の事前準備として、あまり知られていない重要なステップがあります。
それがタイトルにある通り「事業テンプレート化」です。
今回は、そのことについて書いていきます。説明のために、ちょっとしたプロンプトも公開します。
ちなみに、テンプレートというべきなのかフォーマットというべきなのか、フレームワークというべきなのか悩みましたが、一旦この記事では「テンプレート」で統一します。
著者と株式会社NEWhについて
NEWhは、大企業の新規事業・サービス開発に特化したイノベーションデザイン&スタジオです。
飯野は、そのなかでビジネスデザイン、特に生成AIの新規事業開発プロセスへの適用の案件も多く扱っています。
事業を説明するテンプレートの例
これからテンプレート化の話をしていくわけですが、そもそもテンプレートってどんなものだ? というのがイメージがないと頭に入ってきにくいと思うので、まずは例を出します。NEWhでは新規事業で使えるさまざまなメソッドを持っていますが、事業内容を説明するテンプレートには下記のようなものがあります。
生成AIの話は置いておいて、テンプレート化自体はそもそも意味が大きい
さて、なんとなくテンプレートのイメージがついたはずです(ついてなかったらごめんなさい・・・笑)
それらがどう生成AIの活用に使えるか説明する前に、そもそも生成AI関係なくこのテンプレート化するという作業はすごく意味があるよ、っていう話を先にします。
下記のような効果があります。
一貫性の維持: ビジネス内容の説明に統一感が生まれ、情報の齟齬や誤解を防げる
他チームへの迅速な展開: 他のチームや関係者に素早く情報を共有できるため、意思決定がスムーズになる
トレーニングと教育の簡略化: 新入社員やパートナーへの教育が効率的に行え、理解が深まる
効率の向上: ゼロから文書を作成する手間が省け、説明作業が迅速に行える
品質の向上: 重要なポイントが抜けないよう、常に高品質な説明文が作成できる
アーカイブしやすい: 複数のアイデアを起案する際に、ストックしやすい。再利用しやすい
他にもたくさんあると思いますが、一旦こんなところでしょう。究極的には「コミュニケーションコストが削減される」ことと、「アウトプットの質があがる」ことの2点が大きな特徴です。
特に大企業では新規事業に関わる人数も多くなります。テンプレートを用意することで、事業理解の齟齬が少なくなりいろんな面で効果テキメンです。まだ試していない人はやってみてください。
テンプレート化は生成AI時代に必要不可欠
ここから本題です。前の章で生成AI関係なしにテンプレート化は大きな意味があると述べましたが、このAI時代に、よりテンプレート化は重要になると断言します。
前提として、生成AIの処理をすごく簡略化すると下記のような図になります。
このinputが生成AIに渡すプロンプト、outputが生成AIからの回答、という形で読み替えてください。
新規事業で生成AIを活用したい場合、このinputには事業の情報が必要になります。そして一般的に特に初期フェーズにおいては、複数の事業アイデアを同時に検討することが多いので、同じ生成AIによるプロセスを複数回にわたって、別のアイデアで試してアウトプットを比較したくなるはずです。
勘の良い方はお気付きだと思いますが、インプットで入力する事業情報が毎回ずれた形になっていると、複数の事業を評価しにくいですし、毎回すごく時間がかかることになりかねません。そこでテンプレートの登場です。
テンプレートがあれば、いろいろな事業アイデアを同じクオリティで生成AIのインプットとして渡すことが迅速に効率的にできるようになります。ちょっと例を使って説明します。
事業機会カードを使った生成AI活用例1: 隣接領域のアイディエーションと提案
今回使うテンプレートは前に紹介した「事業機会カード」です。飯野はシンプルなので気に入っています。簡易版ではWhy now、Why usは無視もできます。
すでにWho、What、Howがある程度固まっている事業があったとして、その事業をちょっとずらして別の事業機会を探しているとします。
その場合、このテンプレートをうまく活用することで、WhoとWhatとHowの拡張、そしてその拡張された組み合わせのなかからビジネスチャンスがありそうなWho What Howを提案してくれる、なんてことを生成AIで簡単にできるようになります。
下記はプロンプト例です。
あなたは優秀なビジネスマンです。新規事業における事業機会を考えています。
下記ステップに従って、タスクを実行してください。
各ステップの終了時には、ユーザーに確認をし、OKをもらえたら次のステップに移動するようにしてください。
ステップ1
{{フォーマット}}の3つのパラメータをユーザーに入力してもらいます。 ユーザーへの依頼文を出力したあとは、ユーザーの入力を待ってください。
ユーザーへの依頼文
考えている事業機会の WHO, WHAT, HOWとその説明を入力してください。
フォーマット
この事業は、{{WHO}}というセグメントの{{WHAT}}という問題を例えば{{HOW}}という方法で解決するものだ。
ステップ2
WHOを無視して、WHATとHOWだけで事業を考えます。このときWHOに入り得る選択肢を10あげてください。そのとき選択肢だけではなく、なぜその選択肢が入り得るのか説明も入れてください。 また、その選択肢の推定される人数を一緒に提示してください。推定が難しい場合はフェルミ推定を行い、その計算式も一緒に出力してください。
ステップ3
WHATを無視して、WHOとHOWだけで事業を考えます。このときWHATに入り得る選択肢を10あげてください。そのとき選択肢だけではなく、なぜその選択肢が入り得るのか説明も入れてください。 また、そのWHATに共感する人の割合を1-5で評価してください。5は共感する人が多い、1は少ない、という意味です。
ステップ4
HOWを無視して、WHOとWHATだけで事業を考えます。このときHOWに入り得る選択肢を10あげてください。そのとき選択肢だけではなく、なぜその選択肢が入り得るのか説明も入れてください。
ステップ5
ステップ2からステップ4までで上げたWHO, WHAT, HOWから可能性が大きくありそうな事業機会の組み合わせを5つあげてください。なぜその組み合わせを選んだのか、理由も述べてください。
最初にユーザーにWho, What, Howの入力をお願いするような形になっていますが、あとは自動で提案までしてくれます。
今回は下記のWho What Howを入力して試してみました。
WHO: リモートワーカー
WHAT: 自宅での仕事環境の質を高めたい
HOW: 在宅オフィス用のエルゴノミック家具とデジタルデトックスサポートをセットで提供する
(特に意味はなく、これすらも生成AIに作ってもらったものです・・・)
上記を入力すると、最終的には下記のようなアウトプットが返ってきます。
(中略)
1. WHO: リモートワーカー
WHAT: 集中力の向上
HOW: パーソナライズされたオフィスレイアウト設計サービス
理由: リモートワーカーの中でも、特に自宅での作業に集中力が必要な職種(クリエイティブ職、エンジニアなど)に対して、個別に最適化された作業環境を提供することは、非常に具体的で効果的なソリューションです。集中力を高めるためのレイアウトやインテリアデザインの需要は高く、パーソナライズサービスは付加価値が高いです。
2. WHO: スタートアップ企業の従業員
WHAT: 作業効率の向上
HOW: スマート家具の導入
理由: スタートアップ企業の従業員は、限られたスペースで高い生産性を求められるため、スマート家具の導入が有効です。家具が作業効率をサポートするだけでなく、健康管理機能を備えた製品であれば、長時間のデスクワークでも体調管理を怠らずに仕事ができるため、需要が見込まれます。
3. WHO: ソロプレナー(単独事業者)
WHAT: ワークライフバランスの向上
HOW: デジタルデトックス専用プラン
理由: ソロプレナーは、仕事とプライベートの境界が曖昧になりがちで、デジタルデトックスの需要が高いです。デジタルデトックス専用プランを通じて、健康的なワークライフバランスを維持しつつ、生産性を高めることができるため、ソロプレナーにとっては魅力的なソリューションとなります。
4. WHO: 大手企業の在宅勤務者
WHAT: 労働環境の改善
HOW: エルゴノミクス専門のデバイス販売
理由: 大手企業は従業員の健康管理に対する意識が高く、特に在宅勤務者の作業環境改善に投資する傾向があります。エルゴノミクス専門のデバイスを提供することで、企業が従業員の健康と生産性を両立させるための支援ができ、ビジネスチャンスが大きいと考えられます。
5. WHO: リモート営業職
WHAT: コミュニケーションの円滑化
HOW: バーチャルオフィス空間の提供
理由: リモート営業職は顧客やチームとのコミュニケーションが仕事の鍵であり、バーチャルオフィス空間を提供することで、物理的な距離を感じさせないスムーズなコミュニケーションが可能になります。これにより、営業活動の効率が向上し、顧客満足度も高まることが期待できます。
これらの組み合わせは、現実的かつ具体的なニーズに基づいたものであり、それぞれのターゲットセグメントに対して高い価値を提供できる可能性があると考えています。
どうでしょうか。アイディエーションとしては十分に使えるレベルだと言えると思います。(かなり簡易的なプロンプトにしているので、より質を求める場合は別の書き方ができますが、そこは本筋ではないので今回は触れません)
もしテンプレートがなかった場合は、インプットもアウトプットもバラバラの形になってしまいます。その場合、評価も非常に難しくなってしまい、必要以上に多くの時間を無駄にすることになってしまいます。
事業機会カードを使った生成AI活用例2: 事業をやる理由を考えさせる
もう1つ、他の例です。
ある程度事業のアイディアが固まってきて、社内会議にかけたり、上申したりしたい。ただなんか理由が弱い気がする・・・。そんなとき「なぜ今この事業をやるべきなのか?」の理由を生成AIが作ってくれたら心強いですよね。事業機会カードではWhy nowにあたる部分です。
そんなときでも、事業のテンプレート化ができていれば簡単に情報を渡して、生成AIに提案してもらうことができます。
下記はプロンプト例です。
あなたは優秀なビジネスマンです。
{{コンセプト}}のサービスを新たにローンチしようとしています。
ただ社内説明には、なぜ今ローンチをするべきなのか、という強いデータやストーリーが必須です。 それらを10個列挙してください
できるだけデータに基づくことが好ましいです。
対応するデータがない場合はフェルミ推定を行い、その過程式も一緒に表示してください。
参照元がある場合は、URLを示してください。
ただ、わからない場合はわからないと素直に言っていただいて構いません。
コンセプト
この事業は、{{WHO}}というセグメントの{{WHAT}}という問題を例えば{{HOW}}という方法で解決するものだ。
WHO: リモートワーカー
WHAT: 自宅での仕事環境の質を高めたい
HOW: 在宅オフィス用のエルゴノミック家具とデジタルデトックスサポートをセットで提供する
このプロンプトでは直接プロンプトのなかにWho, What, Howを書いています。上記には先ほどのリモートワーカーの例と同じWho What Howが入っていますが、もし活用する場合は自社の情報に書き換えてください。
結果は下記です。
この事業(リモートワーカー向けの在宅オフィス用エルゴノミック家具とデジタルデトックスサポート)のローンチを正当化するためのデータとストーリーを10個列挙します。以下の内容は、利用可能なデータやフェルミ推定に基づいています。
1. リモートワークの急増
データ: 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響で、リモートワークの普及が急速に進みました。2023年には、米国労働力の約26%が少なくとも一部の時間をリモートで働いていると報告されています。この傾向は今後も続くと予想されています。
出典: Gallup
2. 健康に対するリモートワーカーの意識の高まり
データ: リモートワークによる健康問題(姿勢の悪化、ストレス増加など)が注目されています。2021年の調査によれば、リモートワーカーの約45%が腰痛や肩こりなどの身体的な問題を抱えており、エルゴノミクス対応の家具に対する需要が高まっています。
出典: Ergotron
(中略)
9. 環境意識の高まりと持続可能な家具の需要
データ: 消費者の環境意識の高まりに伴い、持続可能な材料で作られたエルゴノミック家具の需要が増加しています。調査によると、消費者の64%が環境に配慮した製品にプレミアムを払う意向を示しています。
出典: Nielsen
10. リモートワーカーの多様なニーズに対応する必要性
フェルミ推定: リモートワーカーが直面する課題(健康維持、集中力の維持、仕事とプライベートの区別など)に対応するため、エルゴノミック家具とデジタルデトックスを組み合わせた総合的なソリューションが求められています。リモートワーカーの10%がこのような複合的なサービスを求めていると仮定すると、日本だけでも数百万人の潜在市場が存在すると推測されます。
これらのデータと推定は、今このサービスをローンチすることがビジネスチャンスであることを強く裏付けるものです。
実際の回答の出典部分にはリンクが貼られている形になっています。事業としての可能性をみる意味でも有用ですよね。
このWho What Howというシンプルなテンプレートだけでも、これだけの強い効果が発揮できるようになりました。
ということで、新規事業開発プロセスに対して生成AIを活用するときに『テンプレート化』が重要だよ、こんな感じで使えるよ、というのを説明してみました。
バラバラの形でインプットを入れてしまうと、アウトプットの形もずれてしまいますし、それでは生成AIの「速く、たくさんアウトプットが出せる」というメリットを享受しにくくなってしまいます。
今回の例はあくまでほんの一例ですので、他のテンプレートが気になる方や、この事業機会カードを使った他のプロンプト例が気になる方は気軽にご連絡いただければと思います。
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