「結局はプロンプトですか?」に物申したい:プロンプトの質と設計の質の話
こんにちは! 株式会社NEWhの飯野です。
先日、「新規事業プロセスにどう生成AIを活用できるのか」という主旨のセミナーを開催&登壇させていただきました。
250人を超える申し込みがあり、かなり難しい内容だったのにも関わらず満足度は約90%、多くの方に嬉しい感想をいただくことができました。参加いただいた方々、ありがとうございます。なにかひとつでもヒントになることがあれば嬉しいな、と思っています。
今回のセミナーではSlidoというサービスを活用し、気になったことをリアルタイムで質問してもらう形式を取り入れました。
その質問の内容が、僕自身勉強になることも多くすごく興味深かったのですが、いくつかきていた質問のなかでは「結局はプロンプトですかね?」とか「生成AIの活用は、プロンプトが書けるようになってからですかね・・・?」とかプロンプトのテクニックに関するものも多かったように思えます。
もちろんプロンプトのテクニックはあるし、それは大事だと思うのですが、僕個人はプロンプト自体よりも大事なスキルがあると思っています。今回はそれについて述べたいと思っています。
プロンプト設計を間違えると、目的達成できない
結論からいえば、僕はプロンプト自体のテクニックよりも「そもそも何を条件としてアウトプットを出してもらうのか」というプロンプトの設計、もしくはどういう問いを立てるかの方がはるかに重要派です。
特に新規事業においては、明確な答えはヒトでも出せないことが多く、より一層プロンプト設計の重要度が高いと考えています。
よく事業開発における生成AI活用の課題として聞くのは「一般論の答えしか出てこない」「そこまで捻られたものはでてこない」「参考にならない」というものです。それはそれで生成AIの特性として理解するのですが、個人的にはその課題の一部は設計側の問題だと思っています。
どういうことか説明します。
例えば「新規事業の立案においていいアイデアを得たい」という目的があったときに「何かいいアイデアをだしてください」ってプロンプトを生成AIに渡したとしても、それは一般論しか出てこないでしょう。情報がなさすぎます。
OKOK、もっとプロンプト自体を洗練させる必要がありますね。もう少しプロンプトを拡張していくとすれば、どんな分野で、どのぐらいの規模の市場規模で、どんなビジネスモデルの制限があって・・・などの情報を足していくことになるはずです。
ただ。それらを足していったとしても、おそらく最初に期待していたような“いい”アイデアは出ません。なぜなら、プロンプトの設計が間違っているからです。
プロンプト自体による改善幅と、プロンプト設計による改善幅の違い
この例の場合は、まず「何がいいアイデアなのか?」「何を得たいのか?」を明確にするところがスタートです。ここが明確になれば、一歩踏み出せますね。
この例のまま話を進めるとして「自分たちでなかなか思いつかないようなアイデアを複数出してもらい、インスピレーションを得る」ことを目的にしたとしましょう。
すると「アイデアとは既存のアイデアとアイデアの組み合わせだから、強制的に何かとの組み合わせを生成AIに作ってもらおうかな」や「誰かペルソナ設計をして、その人の観点からアイデアをもらおうかな」など、単純に「いいアイデアを出す」という漠然とした目標から、一歩踏み込んで「何を生成AIにしてもらうのか」を明確にすることができます。
すると、どう強制的に組み合わせを作ってもらうか、とかどういうペルソナを作ればよりおもしろいアイデアを作ってもらえるか、というプロンプトを書けばいいという設計になっていくわけです。
これらの設計がちゃんとできていれば、よほど難しいタスクでない限り、プロンプト自体の技術はそこまで必要ないと思っています。
というのも、間違った問い・設定の条件でプロンプト自体の質を上げていったときによる改善効果と、正しい問い・設計条件をすること自体のアウトプットの質の改善だと、後者の方が圧倒的に大きいからです。前者は違う方向で遠くに行こうとしてしまっているイメージです。
結局指示が理解できないもの・アウトプットが判断できないものは、質の改善の方法はない
当日いただいた質問のなかで、いくつか他に面白いなと思ったものがあります。「生成AIが出してきた事業計画はどこまで信頼していいですか?」とか「生成AIが出してきた答えをどう判断すればいいですか?」という類のものです。
正直これらについては、生成AIはそんなに関係のない話なのではと思っています。というのも上記質問の”生成AI”を”ヒト”とか”同僚”とか”部下”とかに言い換えても、成り立つ問題ですよね。なので、そもそも事業計画自体をどう信頼するか、とか誰かのアウトプットをどう判断するか、という問題が、生成AIによってより顕在化した、という話なのだと理解しています。
これはちょっとさっきのアイデアの話に近い部分もあると思っています。
「どうやっていいアイデアを出すのか?」「何をいいアイデアとするのか?」ということにそもそも当たりどころがないと、生成AIに適切な指示も出せないということです。
つまり、多くの質問は生成AI”だから”起きる問題ではなく、生成AI”でなくても”起きうる内容についての質問なような気もしました。
でも、これはすごくポジティブな観点もあって、みなさん生成AIを活用してきたからこそくっきりと見えてきた問題であるとも言えます。
そもそも新規事業は不確実性が高いことの連続で、「どう意思決定をするのか?」が極論ほぼ全てだということもでき、そこは生成AIで扱える情報が増えるからこそより一層難易度が高くなっています。ただ、つまりはなんだか新規事業自体の本質へ向き合う問い・質問が多かったように感じていて、その観点で僕は嬉しい気持ちになりました。
生成AIが出してきた事業計画なりアイデアをそのまま実行しようとしても、おそらく実行部隊はモチベーションが湧かないでしょうし、結局はそれらのアイデアを元に練り上げ、決定・実行するのはヒトです。その前提で、メンバーやチームとしての意志や、会社としての方向性など「なぜ新規事業をやるのか?」という問いに誠実に向き合うことの重要性が高くなっている気がしています。
このタイミングで、自社の意思決定をどうするか、考えてみてその答えが朧げにでも出てきたら、生成AIの活用もかなり生きてくるはずです。むしろ、これが生成AI活用のカギです。
悩んでいる方、ぜひいろいろ気軽にお話しさせてください。
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おまけ:生成AIを活用して設計を助けてもらう
プロンプト設計の方が重要だっていうのはわかったけど、じゃあどうやってその設計をやるのよ? というツッコミが生まれそうな気がしたので、ちょっと補足しておきます。
「そのためには、その設計ができるような事業開発のスキルをつけましょう!」という身も蓋もない話になってしまうのは嫌なので、生成AIを活用して設計を手伝ってもらう方法をちょこっと書いておきます。
例えば、この記事の前半で使っていた例であれば「いいアイデアをください」という前に「いいアイデアを出す方法」は生成AIに相談できます。
こんな簡単なプロンプトでもヒントは得られます。
いいアイデアを出すためのフレームワークや考えをできるだけあげてください。
プロンプトとして渡しやすいものを選んでください。
以下は、アイデアを出すためのフレームワークや思考法のリストです。それぞれの方法は簡潔に説明してあり、プロンプトとして活用しやすい内容になっています。
1. SCAMPER
Substitute(代替): 他のものに置き換えるとどうなるか?
Combine(結合): 他の要素と組み合わせるとどうなるか?
Adapt(適応): 既存のアイデアを新しい状況に適応させるとどうなるか?
Modify(修正): サイズ、形状、色などを変えるとどうなるか?
Put to another use(別の用途に転用): ほかの使い方は?
Eliminate(除去): 要素を取り除くとどうなるか?
Reverse(逆転): 順序や役割を逆にするとどうなるか?
2. マインドマッピング
中心にテーマや問題を書き、そこから関連するアイデアを自由に広げていく。
関連性を考えず、思いつくままに枝を伸ばすことで、新しい視点や連想を得る。
3. バイオニックリーディング
他の業界や自然界からアイデアを借り、それを自分のテーマに応用する。
例えば、自然界の生物の行動や構造を模倣して問題解決に役立てる。
4. 6つの帽子思考法
白い帽子(事実・データ): 事実や数字に焦点を当てる。
赤い帽子(感情・直感): 感情や直感に基づいて考える。
黒い帽子(否定的評価): リスクや弱点に着目する。
黄色い帽子(肯定的評価): メリットやポジティブな側面に目を向ける。
緑の帽子(創造性): 新しいアイデアや可能性を探る。
青い帽子(管理): 全体のプロセスをコントロールし、まとめる。
5. オズボーンのチェックリスト
他に使用方法がないか?: 既存のものを別の使い方に変える。
改良できるか?: 何を加えればより良くなるか?
拡大できるか?: サイズや範囲を広げられないか?
縮小できるか?: より小さく、簡単にできるか?
代用できるか?: 他の材料やプロセスで代替可能か?
6. メタ思考
自分の思考やアイデアそのものを分析し、どのようにしてその結論に至ったのかを考える。
そのプロセスを改善することで、より質の高いアイデアを生み出す。
7. ブレインストーミング
量を重視して、批判せずにアイデアを出し続ける。
他の人のアイデアに触発されて、新しい発想を生み出す。
これらのフレームワークや思考法をプロンプトとして活用することで、幅広いアイデアを効率的に生み出すことができます。
なので、得たい目的を達成したい直接的なプロンプトから一つ抽象度を上げた質問を生成AIに対してすることで、プロンプト自体の設計力も上がっていく気がします。
(ステップバックプロンプト、に近いことを言ってると思います)