【『手帖』と手“帳”(24)】(美術鑑賞の日々を小説風に綴る月刊誌『平岡手帖』クラウドファンディング 24日目)
この“コラム”が、どれほど宣伝になっているのかわからないけれど、あと6日でクラファンが終わる。平岡手帖をまずは一年間、毎月発行していくことは支援の多寡にかかわらないけれど、できるだけ集まってくれると、様々な面で円滑になり、結果、継続に繋がると思うので、ぜひご支援のほど、よろしくお願いいたします。
…という日がくることを、3月27日、黄金町バザールの『寄る辺ない情念』(Art Center Ongoing の小川希さんによるキュレーション展)を見ている時、あまりリアルに想像できてはいなかった。
昨日は、黄金町バザールを改めて訪れて、今度は色々と巡ってみる。小雨がちょうど止んだ17時頃、会場のひとつである年期の入ったビル(実際に住んでいる方もいるそうだし、おそらく作家さんのレジデンス場所でもあるのだろう)、幅の狭い階段で屋上に出ると、さらに“階段”があって乳白色の空へ伸びていた。
…のは、井上修志さんの作品で、すっかり錆びて赤銅色になった階段、その一段一段は、ぼろぼろに古ぼけた洗濯機や柱時計、ブラウン管テレビ…と、“廃材のコンクリート寄せ”で、作家さんたちが一段積んではそこに上り、また一段積んで…と制作していったらしいことは、回り込んだ右側面、埋もれるようなモニターで見てとれる。音も当然付いているのだが、遠い、というより階段全体から響いているようで、屋上に上がった瞬間、ざわざわとしていて街の音かと思った。ビルの真横を、京浜急行の赤い電車が通りすぎる。
進行方向からいって、黄金町駅へ向かっているのだろう、電車の“おしり”を見送っていると、ぴょんと飛び出た台形の屋根があって、しっかりライティングされた窓には、青(緑)と赤の“水玉”が見える。
やっぱりそこが目的地で、『情念』が開催中の【八番館】という会場だ。この前は“質屋さん”の外観、高級そうな時計やブランドバッグのイメージ、「無料査定」「即日現金」の文字が踊っていたが、潰れたらしく今は“生鮮食品店”がオープンしている、2階の窓には、(プチ)トマトとパプリカがあしらわれている。建物の外観全体が、柴田祐輔さん(手帖のコメント、そしてリターンもお願いしている)の《しら》という作品になっていて、会期終了の6月9日まで、何度も変わるらしい、その変化を見届けるために来た。幸い、黄金町バザールは元々フリーパスだ。
八番館の中に入る。基本的には変わっていないはずだが…この前よりも、出入り口のたたき付近が明るい気がする(来慣れたからかもしれない)。
今回は2階をメインに回ろう。そう決めていきなり階段を上がると、うねうねとした“龍”が、私の歩みに伴奏してくれる。地主麻衣子さんの作品だ。
2階は肌寒く、和田さんの“氷”は一段と大きい。前回よりいくぶん速いリズムで、水滴が床の穴へと吸い込まれていく、ジュッという音が、ほとんど遅延なく聴こえてくる。
周りには青木真莉子さんの作品があって、鹿皮紙、という素材はまさに鹿の外皮から作られているそうで、いびつな形は地図に描かれた国土のようだ。それらが四方八方から伸びるワイヤーで伸展されていて、蜘蛛の巣に引っ掛かっているみたいでもある。
透けるほど薄いわけでもないのに、裏から見ても、描かれた鯨が反転して見える…のは、おそらく塗料が浸透しているからで、キャプションにも書いてあるが刺青みたいだ。この、“浸透する”とか“内と外”みたいなことは、『情念』のキーワードになりそうな気がする(けれど、まだそんなに考えられてはいない)。
階段左脇の、地主さんの《テレパシーについて》は、二台のモニターで見るのははじめてだろうか?協力者がカメラを自由に回し、その背後で地主さんが、手を、相手の背中の前でゆっくり上下したり、後頭部を包み込むようにかざしたり…する様子を、左側の俯瞰カメラと、右側の、協力者が操作するカメラ画面を鑑賞者は見比べることになるけれど、とても“不敵”な作品だと思う。というのも、例えば地主さんが、相手の肩甲骨あたりに両手をかざした(腕は綺麗なくの字に曲がっている)時、協力者がズームしたのを見て“伝わってる”気がしたけれどそれは本当に私の恣意で、他の人が見た時そう思うかはわからない。そもそも、この二画面が“繋がっている”ことを見いだせることも、生き物全般で考えたら相当な認知能力が必要なはずで、人間でも、ある発達段階まではおそらく見てとれない。だからこの作品は常にひとつというより、見る人が都度、繋ぎ合わせているという方がきっと正しくて、鑑賞者が右に左にとモニターを見比べるその時、背後に地主さんがいないとも限らない。(続く)
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【クラウドファンディングはじまります!】
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本日から『平岡手帖』定期購読者を募る
クラウドファンディングを開催いたします!
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詳細は「平岡手帖」アカウントプロフィールに記載のURLからご確認ください
@hiraokatecho
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○『平岡手帖』
○場所:CAMPFIRE
○クラウドファンディング期間:2024年4月1日〜4月30日(予定)
○目標金額:170万円(定期購読者300人)
○企画:平岡手帖制作委員会、ハンマー出版、額縁工房片隅
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『平岡手帖』について。
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1年のうち300日以上を美術に出会うために歩き回っている平岡希望さん。ここ数年は、毎年600カ所以上の展覧会に足を運び、その空間とそこにある作品1つ1つを熱心に鑑賞している。その動向はSNSでなんとなく目にしていた。最近では、かなり長い文章で美術との出会いを克明に記している。しかし、平岡さんの全貌は謎に包まれている。日々どんな生活をしていて、どんなふうに動いて、なにを考えているのか。そして、その美術への熱量はどこからくるのか。僕はずっと気になっていた。美術と出会うために、全てを注ぎ込んでいるような人。そんな人が、1人くらいこの世の中にいてもいんじゃないか。いや、いてもらいたい。そして、そんな生き方を応援したい。そんな思いを数人と話しているなかで、平岡さんの手帖を公開して、日々の美術との出会いを記録発信していく『平岡手帖』という企画は面白いんじゃないかという話になった。平岡さんに話してみると、ぜひやってみましょう、という事になった。展覧会とは、オーロラのようなものだ。その時その場所に行かないと出会えない。そして、その一瞬の会期が終わると風に吹かれた塵のように消え去ってしまう。そんな儚い展覧会というもののアーカイブとして、この「平岡手帖」が、もし5年、10年、続く事ができたならば、未来において日本の美術シーンを語るうえでの重要な資料になるのではないかと夢想する。そして、美術に出会うために自らの全てを注ぎ、歩き回っている1人の人間のドキュメンタリー・ノンフィクション小説として読むことも出来るだろう。平岡さんの1ヶ月を1冊の小説のような形にまとめて、それが1年間12冊、毎月送られてくる。今回のクラウドファンディングでは、そんな『平岡手帖』の定期購読をしてくれる人を募りたい。
この「平岡手帖」を定期購読するという事は、少し大げさかもしれないが、美術という1つ1つの小さな出来事を、1人の存在を通して美術史に小さく書き残していく、そんな事への協力になる。ぜひ、多くの方に平岡さんのそんな生き方を応援してもらいたい。
きっと今日も平岡さんは美術に出会うため歩き回っている。こんな人この世の中になかなかいないと思う。だからこそ。ぜひ『平岡手帖』の定期購読をしての応援、よろしくお願いいたします。
(平岡手帖制作委員会_佐塚真啓)
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