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【『手帖』と手“帳”(25)】(美術鑑賞の日々を小説風に綴る月刊誌『平岡手帖』クラウドファンディング 25日目)

久しぶりの日差しに誘われて、1駅分歩いてみる。ひとっ飛びに初夏になってしまったようで、あどけない緑葉たちは無邪気に嬉しがっているようみたいだけど、まだやわらかな肌が火傷してしまわないか、少し心配だ。

最近なんだか疲れやすいのは、身体を動かしていないからかもしれない…と、昨日は、しばらくサボっていたストレッチをやってみた。半分寝そうなくらいゆるゆるとしたものだったが、それでも凝った血液が回りはじめたのか、少しだけど身体が軽い。小腹が空いたので、リンゴを剥いて食べる。二切れだけ、父のお昼に取っておく。

しかし、どうせならバナナを食べた方が合っていたかもしれない。1週間ぶりに行ったオンゴーイングは東方悠平さんの「ようこそ!Tokyoバナナクラブへ」で、入るや否やなんだか甘い香りがした(から、私はバナナのコラボメニューを想像したけれど、全く関係なくて、シズエさんがクッキーを焼いていたらしい)。
2階に上がると、展示空間には妖しげな(ピンクがかった)紫の光が灯されていて、後で、在廊中の東方さんに教えてもらったところ、植物の促成栽培用LEDライトらしい(そのタイミングで、すかさず『手帖 1月号』を渡す。「宣伝がうまくなってる!」と、この前の打ち合わせで山岡さんと北山さんに言われてしまって恥ずかしい)。しかしそのライトの下、育てるのは植物ではなく筋肉で、人が寝そべったくらいの“バナナ”(「50キロが滑車で25キロくらい…」と東方さん)を、金属製のバー(の角ばりが痛いからタオルハンカチで守る。いつも2枚持ち歩いている)で引き下げて持ち上げる“フィットネスマシン”が据えられていて、

ようよう5回持ち上げたが首筋が痛い。しかし、わざわざ身体を鍛えることは、きっと特権的な楽しみなのだろう。それはバナナにも通じていて、今、バナナという文字を見て、大抵の人が想像したような黄色い、種のないものは輸出用に作られたもので、だから現地の人は食べられないらしい。
種の入ったバナナを東方さんは現地の方と取りに行く。その模様が、階段上がって左手前方(“フィットネスマシン”は左後方にある)の壁に投影されていて、山には一見、道もないが、案内している現地の女性の歩みはなめらかで、荒い息遣いは通訳の方だろうか、それとも東方さんだろうか。「東京ばな奈」ほどの、未熟だからか青いバナナを、女性が、さきほど枝を払った長い刃物で割ると、灰色の、てらてらとしたゆるい果肉に、種がいっぱい入っていて、はじめ、それが“自由”になっていることに気がつかなかった。
むしろその見た目に、小学生の頃、『かまいたちの夜2』という、ホラー、ミステリ、サスペンス…系のノベルゲームをやった時に出てきた“みのむし”という妖しい果実を思い出していて、見慣れない、特に南国系のねっとりした果物を見るといまだに頭に浮かぶ(アケビにも似ている)。このバナナそのものがモデル、では当然ないだろうけれど、おそらくゲームの制作チーム(および物語の原作者)が、色々な果物の写真を見ながらイメージを重ね、作り上げたのだろう。その制作過程は何だか、様々な種を掛け合わせた挙句、種のないバナナを生み出したその欲望と似ているかもしれない。

先ほど、小腹がすいたので今度はバナナを食べてみた。真ん中の粒々が、普段より生々しく見える(続く)。

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【クラウドファンディングはじまります!】

本日から『平岡手帖』定期購読者を募る
クラウドファンディングを開催いたします!

詳細は「平岡手帖」アカウントプロフィールに記載のURLからご確認ください
@hiraokatecho

○『平岡手帖』
○場所:CAMPFIRE
○クラウドファンディング期間:2024年4月1日〜4月30日(予定)
○目標金額:170万円(定期購読者300人)
○企画:平岡手帖制作委員会、ハンマー出版、額縁工房片隅

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『平岡手帖』について。

1年のうち300日以上を美術に出会うために歩き回っている平岡希望さん。ここ数年は、毎年600カ所以上の展覧会に足を運び、その空間とそこにある作品1つ1つを熱心に鑑賞している。その動向はSNSでなんとなく目にしていた。最近では、かなり長い文章で美術との出会いを克明に記している。しかし、平岡さんの全貌は謎に包まれている。日々どんな生活をしていて、どんなふうに動いて、なにを考えているのか。そして、その美術への熱量はどこからくるのか。僕はずっと気になっていた。美術と出会うために、全てを注ぎ込んでいるような人。そんな人が、1人くらいこの世の中にいてもいんじゃないか。いや、いてもらいたい。そして、そんな生き方を応援したい。そんな思いを数人と話しているなかで、平岡さんの手帖を公開して、日々の美術との出会いを記録発信していく『平岡手帖』という企画は面白いんじゃないかという話になった。平岡さんに話してみると、ぜひやってみましょう、という事になった。展覧会とは、オーロラのようなものだ。その時その場所に行かないと出会えない。そして、その一瞬の会期が終わると風に吹かれた塵のように消え去ってしまう。そんな儚い展覧会というもののアーカイブとして、この「平岡手帖」が、もし5年、10年、続く事ができたならば、未来において日本の美術シーンを語るうえでの重要な資料になるのではないかと夢想する。そして、美術に出会うために自らの全てを注ぎ、歩き回っている1人の人間のドキュメンタリー・ノンフィクション小説として読むことも出来るだろう。平岡さんの1ヶ月を1冊の小説のような形にまとめて、それが1年間12冊、毎月送られてくる。今回のクラウドファンディングでは、そんな『平岡手帖』の定期購読をしてくれる人を募りたい。

この「平岡手帖」を定期購読するという事は、少し大げさかもしれないが、美術という1つ1つの小さな出来事を、1人の存在を通して美術史に小さく書き残していく、そんな事への協力になる。ぜひ、多くの方に平岡さんのそんな生き方を応援してもらいたい。

きっと今日も平岡さんは美術に出会うため歩き回っている。こんな人この世の中になかなかいないと思う。だからこそ。ぜひ『平岡手帖』の定期購読をしての応援、よろしくお願いいたします。

(平岡手帖制作委員会_佐塚真啓)

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