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【『手帖』と手“帳”(20)】(美術鑑賞の日々を小説風に綴る月刊誌『平岡手帖』クラウドファンディング 20日目)

『手帖 3月号』を書き終え(実際、何かの形で発表するなら、もう少し校正などが必要だろうけど)、少し気楽な気分で上野駅を降り、地図を見ながら進む。途中で大体検討がついたので、スマホをしまい、ぼーっと歩く。時代遅れなイヤホンから聴こえる、“オネゲルの田園”とも呼ばれるらしい交響曲第4番の響きが、快晴の4月、やや温い昼過ぎによくあっているが、考えているのは3月のことだ。
このコラムでも何度か書いたけれど、3月22、23日と石田高大さんの《6つのサイコロ》を見ていて、企画側の“記録係”として、そろそろ文章を書き始めたい。その時の走り書きを出がけに見て、そこから当時を思い出す。パフォーマンスの途中で聴こえた、外の小さなお社、その鐘の音のことは書きたい。作品自体ではないし、無関係といえばそれまでだが、作品の前だからこそ周りのものが見聞きできるようになる、ということは日々感じていて、その総体として、見ていた時間を書き残したい。

そして見ている(見ていた)時間の背後には、当然、制作の時間があって、盤上に積まれたサイコロ、その上に振り被せたお椀の底が破けたのも、それまでの6時間ほどに加え、制作の、練習の時間が刻まれていたからなのだろう。moon gallery & studio で見た根本祐杜さんの陶器、そして高橋直宏さんの《偽らざるものたちの像》にも、その土肌には指紋が残されていた。

そこから上野駅に戻り、昨日の分のコラムを書きながら山手線に揺られ目白で降りる。この辺は大学の関係でしょっちゅう来ていた、しかしその頃、タリオンギャラリーは知らなかった。

ギャラリーでは、いつも通りスタッフの見目はる香さんが声をかけてくれる。この日は『温泉大作戦 The Final!!』で、100枚を優に越えるのだろうか、束ねられ、塊となった“DMちゃん”の版画が自立している。ここには作者・山下拓也さんの時間、反復がまさに刻まれているし、今の、矢継ぎ早に色々な災いが起こる(そして“過ぎていく”)世界において、立ち止まって、繰り返し何かについて考えるという営み自体が、ひとつの態度なような気がしている…そんなことを見目さんと話す。
帰り際に、行きつけのジュンク堂 池袋本店によって『ふらんす物語』を買う。船から臨む夜のルアーブル、刻一刻と近づいてくる街の灯を、永井荷風は執拗に描いている。(続く)

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【クラウドファンディングはじまります!】

本日から『平岡手帖』定期購読者を募る
クラウドファンディングを開催いたします!

詳細は「平岡手帖」アカウントプロフィールに記載のURLからご確認ください
@hiraokatecho

○『平岡手帖』
○場所:CAMPFIRE
○クラウドファンディング期間:2024年4月1日〜4月30日(予定)
○目標金額:170万円(定期購読者300人)
○企画:平岡手帖制作委員会、ハンマー出版、額縁工房片隅

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『平岡手帖』について。

1年のうち300日以上を美術に出会うために歩き回っている平岡希望さん。ここ数年は、毎年600カ所以上の展覧会に足を運び、その空間とそこにある作品1つ1つを熱心に鑑賞している。その動向はSNSでなんとなく目にしていた。最近では、かなり長い文章で美術との出会いを克明に記している。しかし、平岡さんの全貌は謎に包まれている。日々どんな生活をしていて、どんなふうに動いて、なにを考えているのか。そして、その美術への熱量はどこからくるのか。僕はずっと気になっていた。美術と出会うために、全てを注ぎ込んでいるような人。そんな人が、1人くらいこの世の中にいてもいんじゃないか。いや、いてもらいたい。そして、そんな生き方を応援したい。そんな思いを数人と話しているなかで、平岡さんの手帖を公開して、日々の美術との出会いを記録発信していく『平岡手帖』という企画は面白いんじゃないかという話になった。平岡さんに話してみると、ぜひやってみましょう、という事になった。展覧会とは、オーロラのようなものだ。その時その場所に行かないと出会えない。そして、その一瞬の会期が終わると風に吹かれた塵のように消え去ってしまう。そんな儚い展覧会というもののアーカイブとして、この「平岡手帖」が、もし5年、10年、続く事ができたならば、未来において日本の美術シーンを語るうえでの重要な資料になるのではないかと夢想する。そして、美術に出会うために自らの全てを注ぎ、歩き回っている1人の人間のドキュメンタリー・ノンフィクション小説として読むことも出来るだろう。平岡さんの1ヶ月を1冊の小説のような形にまとめて、それが1年間12冊、毎月送られてくる。今回のクラウドファンディングでは、そんな『平岡手帖』の定期購読をしてくれる人を募りたい。

この「平岡手帖」を定期購読するという事は、少し大げさかもしれないが、美術という1つ1つの小さな出来事を、1人の存在を通して美術史に小さく書き残していく、そんな事への協力になる。ぜひ、多くの方に平岡さんのそんな生き方を応援してもらいたい。

きっと今日も平岡さんは美術に出会うため歩き回っている。こんな人この世の中になかなかいないと思う。だからこそ。ぜひ『平岡手帖』の定期購読をしての応援、よろしくお願いいたします。

(平岡手帖制作委員会_佐塚真啓)

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