見出し画像

【『手帖』と手“帳”(26)】(美術鑑賞の日々を小説風に綴る月刊誌『平岡手帖』クラウドファンディング 26日目)

外苑前に新しく出来た、多摩美の【Up & Coming】にTAKU SOMETANI GALLERY から向かう。まさかこんなに早く、再会できるとは思っていなかった齋藤春佳さんの絵画が窓越しに見えて、相変わらず画中では、桜色のカーテンが、右奥から左手前へと吹き抜ける風を知らせている、そのやわらかさが、つい先ほど見た、柿坪満実子さんの胸像を包む布地と重なる。“カーテン”はちょうど歩いてきた方向になびいていて、なんだか招かれているようだ、そのまま、コンクリ打ちっぱなしの廊内へ上がり込む。

…と、視界の下の方で捉えていた、大石一貴さんの彫刻があって、焼成されていない粘土は“たよりない”。その表面には、おそらくこのグループ展『合図』について、作家間でやりとりしたのだろうメッセージの一部が刻まれていて、展示台でもあり、保管箱でもあり、制作場所でもあったらしい木箱の上には粘土の破片が落ちていて、視線を伸ばせば、床のコンクリートにもヒビが走っている。

大石さんの作品、特に粘土のものを見ていると川原が思い出されるのは、昨年の12月、“本当に”川原で展示していたことがあるからで、雨予報の前日、最後のチャンスとばかりに見に行った。すでに1週間くらい経っていたのだろうか、「石と文字」と刻まれた(はずの)粘土板は踏みつけたクッキーみたいに割れていた。

目の前の彫刻はまだそこまでではないけれど、着々と“その時”は近づいているはずで、日によって見えかたが違う、というより、刻々と変貌してもう戻らない、といった方が近いかもしれない。

そうして見ている鑑賞者を、また“監視”している目があって、それは、出入口から見て奥の壁に投影されたBoat ZHANGさんの映像作品で、雑誌から切り抜いたような目が、壁いっぱいに散らばる中、三島由紀夫の目はすぐそれと分かる。村田沙耶香さんの小説に、押入れの壁いっぱいに目(の切り抜き)を貼り付けた女の子の話がたしかあった。

1階だけだと思ったら2階もあって、齋藤さんの、ドローイングが描かれた“リボン”はフィルムのようだ、日常の断片を再生していくことになる。そこにバッハの有名な、でもタイトルがわからない曲(平均律クラヴィーア曲集のプレリュード?)が流れている。Boat ZHANGさんの映像らしく、砂浜を歩く足だけが映っている。

…が、むしろ私は自分の足元に驚いていて、2階は一転して木造の赴きだった。少しだけオンゴーイングに似ていて落ち着く。右の壁には齋藤さんの新作があって、その画面左を落ちていく青い、ゆったりとした線描の少し離れたあたりで、“リボン”も床に着地していた。(続く)

―――――
【クラウドファンディングはじまります!】

本日から『平岡手帖』定期購読者を募る
クラウドファンディングを開催いたします!

詳細は「平岡手帖」アカウントプロフィールに記載のURLからご確認ください
@hiraokatecho

○『平岡手帖』
○場所:CAMPFIRE
○クラウドファンディング期間:2024年4月1日〜4月30日(予定)
○目標金額:170万円(定期購読者300人)
○企画:平岡手帖制作委員会、ハンマー出版、額縁工房片隅

―――――
『平岡手帖』について。

1年のうち300日以上を美術に出会うために歩き回っている平岡希望さん。ここ数年は、毎年600カ所以上の展覧会に足を運び、その空間とそこにある作品1つ1つを熱心に鑑賞している。その動向はSNSでなんとなく目にしていた。最近では、かなり長い文章で美術との出会いを克明に記している。しかし、平岡さんの全貌は謎に包まれている。日々どんな生活をしていて、どんなふうに動いて、なにを考えているのか。そして、その美術への熱量はどこからくるのか。僕はずっと気になっていた。美術と出会うために、全てを注ぎ込んでいるような人。そんな人が、1人くらいこの世の中にいてもいんじゃないか。いや、いてもらいたい。そして、そんな生き方を応援したい。そんな思いを数人と話しているなかで、平岡さんの手帖を公開して、日々の美術との出会いを記録発信していく『平岡手帖』という企画は面白いんじゃないかという話になった。平岡さんに話してみると、ぜひやってみましょう、という事になった。展覧会とは、オーロラのようなものだ。その時その場所に行かないと出会えない。そして、その一瞬の会期が終わると風に吹かれた塵のように消え去ってしまう。そんな儚い展覧会というもののアーカイブとして、この「平岡手帖」が、もし5年、10年、続く事ができたならば、未来において日本の美術シーンを語るうえでの重要な資料になるのではないかと夢想する。そして、美術に出会うために自らの全てを注ぎ、歩き回っている1人の人間のドキュメンタリー・ノンフィクション小説として読むことも出来るだろう。平岡さんの1ヶ月を1冊の小説のような形にまとめて、それが1年間12冊、毎月送られてくる。今回のクラウドファンディングでは、そんな『平岡手帖』の定期購読をしてくれる人を募りたい。

この「平岡手帖」を定期購読するという事は、少し大げさかもしれないが、美術という1つ1つの小さな出来事を、1人の存在を通して美術史に小さく書き残していく、そんな事への協力になる。ぜひ、多くの方に平岡さんのそんな生き方を応援してもらいたい。

きっと今日も平岡さんは美術に出会うため歩き回っている。こんな人この世の中になかなかいないと思う。だからこそ。ぜひ『平岡手帖』の定期購読をしての応援、よろしくお願いいたします。

(平岡手帖制作委員会_佐塚真啓)

#平岡手帖
#国立奥多摩美術館
#佐塚真啓
#ハンマー出版
#下山健太郎
#美術
#美術鑑賞
#美術館好きな人と繋がりたい
#アート
#アート好きな人と繋がりたい
#小説
#小説好き
#クラウドファンディング

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?