最近読んだ3冊覚え書き

『戦時から目覚めよ』スラヴォイ・ジジェク

 少し前、まだ暑さ真っ盛りの頃にお客さんと、そういえば地球温暖化の観点から戦争反対! 暑くなるから爆弾禁止!みたいな主張って聞きませんね、地球温暖化を思えば、遠くのどこかの戦争でなく全地球民の我が事になりそうですけどね、と話していたら、その数日後に読んだジジェクさんの本で同じことが書かれていました。
 いわく、ウクライナの前は新型コロナ、その前は地球温暖化が喫緊の課題だったはずで、全世界的に一致団結して解決すべき重大問題があったはずなのに、戦争してる場合ではない!と。


『球数制限』広尾晃

 女子を含めて、甲子園及びそれ以下の年代の野球環境において、球数制限を進めるべきだ!の意図の下に編まれた意見書集、みたいな本でした。
 ともかく球数制限を!と、球数制限一点押しの立場の人もいれば、改善すべき点はたくさんあるけれどまずその取っ掛かりに球数制限を、の立場の人もいて、球数制限賛成派のなかにもいろいろな意見があるのだな、がよくわかりました。

 球数制限以外に改善すべき点として挙げられていたのは、甲子園大会の日程のタイトさ、指導者の力不足と精神論、金属バットの使用、などでした。
 日程がタイトだから連投になりがちで、休みが十分に確保できない。選手の疲労度が把握できないあるいは把握していても無理をさせる指導者がいるから選手の健康が壊される。これは指導者に限らず、「この栄光のためならたとえ燃え尽きても良い、でしょう?!」的な世間の風潮・メディア・選手周囲の人々、そしてもしかすると選手当人の熱狂にも原因があるかもしれない、とのこと。金属バットは、木製バットに比べて反発力が強く、当たれば飛んでしまう打者優位の傾向があるため、投手は、そもそもバットに当てさせないことを狙って変化球を投げることになる。それが若い肩肘に負担を強いる。さらにそれに絡めて、打球の速さの危険性、その対応も兼ねて内野まで芝を敷くべき、といった意見も見られました。

 球数制限をすると投手の人数確保が必要になるので、部員の少ない公立高校が不利になる、という意見に対して、慶應義塾高校の元監督だった上田誠さんは、〈転校した子は1年間公式戦に出られない〉とする高野連のルールを無しにして、移動を自由にすれば良いと書いておられます(132ページ)。これにはびっくりしました。そんなえげつない縛りのルール、いまもあるのでしょうか。5年前に出された本なので今は違うか知れませんが、3年しかない高校生活で1年間出場禁止はあまりに酷です……。


『世界から戦争がなくならない本当の理由』池上彰

 2015年に単行本として出された本を、その4年後に加筆修正して新書版として出し直した本、だそうです。
 第二次大戦後の世界の状況を大づかみに描いた本ですが、何と言っても池上さんですから、まとめ方が実にコンパクトでわかりやすい。私の高校時代の副読本に、こんな本がほしかった!と思いました。

 ところで本書88ページには第二次大戦中のアメリカと日本の軍艦の運用方法が比較されていました。
 日本は、軍艦ごとに所属部隊・艦長が決まっていて、任期中は常にその人が艦長を務める。一方のアメリカは、一定期間ごとに乗船するメンバーが入れ替わり、艦長はその艦船のトップでなくその時々の部隊長が務める。だからみんなが交代で休むことができた。
 エースの完投・連投を問題視する『球数制限』を読んだ後にこの記述に出合って、ちょっと嫌な味わいの共通性というか既視感を覚えてしまいました……。


 『戦時から目覚めよ 未来なき今、何をなすべきか』 スラヴォイ・ジジェク著
 富永晶子訳 NHK出版新書 2024年

 『球数制限』 広尾晃著
 ビジネス社 2019年

 『世界から戦争がなくならない本当の理由』 池上彰著
 祥伝社 2019年

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